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アロットロールゲイン  作者: 池金啓太
十話「分水嶺に立つ小動物」
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「というわけなんですよ。なんかいい武器ないですかね?」


 周介はさっそくラビット隊が使える武器に関してドクに相談をしていた。正確には周介自身が問題なく使える武器に関しての相談ともいえる。


 相手を殺さない。だが相手を倒せる。そんな道具を求められ、ドクは困ってしまっていた。


「あのね周介君、そんな武器が実際に存在するなら世の中の戦争ってやつはもっと微笑ましいものになっているだろうさ。そんな都合のいい武器はないよ?相手を殺さないで、なおかつ相手を無力化するなんて」


「でも、麻酔銃とかは?」


「形状とか方式にもよるけど、あれだって場合によっては死ぬよ?何せ薬物ダイレクトに入れてるわけだからね」


「じゃあ……ゴム弾とかは」


「一般人ならまだしも、今回の相手は能力者だろう?ほとんど無意味。痣ができれば儲けものかなってレベル?」


 強化がかかった人間を無力化するのであれば、間違いなく高威力の銃などを使わなければダメージすら与えられないだろう。


 ダメージは与えても殺さないなどというのは机上の空論以下の妄言に近い。ダメージを与えるということは殺すだけの効果があるものということでもあるのだ。


 そんな都合の良い武器を求められてもドクとしては困るの一言でもあった。


「ドクでも作れないものはあるんですね」


「そりゃああるさ。たくさんあるさ。僕だって作りたくても作れないものとかたくさんあるよ。理想はタイムマシンとか転移装置とか作りたいんだよ?けど理屈がわからなけりゃ……って話が逸れたね。ごめんごめん。でも実際のところさ、君達がもつとすれば最適なのは銃火器だと思うよ?大小や種類は個人の好みに任せるとしてもさ」


 銃火器には多くの種類がある。拳銃などのハンドガンから、自動小銃、狙撃用、制圧用、対物用などとそれぞれ用途に分けて用いられることが多い。


 だがその多くは、殺傷を目的としたものだ。その殺傷を目的としている時点で、周介としては使うことをためらってしまうのである。


 そしてドクも周介の性分を理解しているからか、小さくため息をついてからいくつかの道具を取り出していた。


「そんな君に、妥協点を提示しよう」


「妥協点?」


「君たち小太刀部隊は、もともと戦闘部隊じゃない。倒すことを目的としないほうがいい。倒すことを目的にすると、無理もしなきゃいけなくなるからね。そこでこいつの出番だ」


 そう言って取り出したのはいつも周介たちがもっているトリモチ弾だ。


 着弾と同時に外皮が破れ、対象に絡みつくもので周介たちも時折使っている。


 そしてその横に置かれたのが銃の弾丸だった。


 だがその弾丸は、薬莢部分こそ通常の弾とそう変化はないのだが、弾頭部分の色が違う。金属ではなく、何か別のものでできているように見えた。


 よくよく見れば、プラスチックの容器だ。そしてその中に白い何かが詰められている。


「これはシムニッションって言ってね、要するに訓練用のペイント弾だ。これを撃つと、着弾点で容器が壊れて、中身が出てくる。通常は訓練の時ペイント弾を使うんだけど、ここではトリモチ弾を入れてある。弾頭内部を二層に分けてあって、着弾と同時に二つの物体が混ざり、瞬間的に粘性を作り出せる構造だ。君が今使っている投擲タイプのトリモチ弾よりは、何倍も当てやすいはずだ」


「弾速は?」


「通常の弾丸とほとんど変わらない。当たれば普通に痛いけど、それ以上に目的としているのはトリモチ弾を付着させることだ。高い粘性を維持できて、剥がすには水で洗い続けるか、高熱であぶって固体化させるか、凍らせて剥がすかの三つの手段以外ではちょっと難しい」


「でも、この弾丸の大きさからして、あんまり中身はないですよね?」


 弾丸は通常の弾丸のそれと変わりはない。当たったとしても、体の表面にちょっと付着する程度のものだろう。


 この程度では相手の動きを阻害することも難しいだろう。


 色付きのペイントトリモチ弾のようだが、それでも相手の動きを阻害するにはかなりの量を当てなければいけないのは目に見えている。


「そう、君が求める当たっても殺さない、でも相手を阻害したいってなればこれが精いっぱいの武器だ。でも実際、これも当たり所によっては結構威力が出るよ?当たり所が悪ければ目はつぶれるだろうし、呼吸器部分を塞げば息ができなくなる。これの目的は、本当の意味で相手への嫌がらせでしかないのさ。そりゃ君たちが束になって撃ちまくれば、その分体は重くなるだろうし、動きも阻害できるけどね」


 つまりこの弾は一発二発当てたところでどうこうなるわけではない。多勢に無勢の状況を作り、とにかく相手に当てまくる。それくらいしないと意味のない武器なのだということを周介は察する。


 だが少なくとも銃よりは撃ちやすいような気もする。


「これって、通常の弾丸とか形は同じですけど、普通の銃で撃てるんですか?」


「そう、そこがその弾丸のいいところだ。通常の弾丸と構造が同じだから、本物の銃で撃てる。軍隊での訓練用に用いられるくらいだからね」


「……撃ってみてもいいですか?」


「いいよ。訓練室に行ってみようか。実際に撃ってみるといろいろと感じるところもあるだろうからね」


 射撃練習場に炸裂音が響く。周介の持つハンドガンから弾丸が発射される。そのたびに的に穴ができていく。まずは実弾をすべて撃ちきり、弾倉を変えてペイント弾が入っているものに切り替える。


「炸薬の量もほとんど同じだ。反動も同程度だと思ってくれ。着弾点が実弾に比べてほんのわずかにずれるかもしれないから、そのあたりは微調整してほしい」


 周介はドクの言葉を聞きながら銃を両手で構えて、撃つ。


 実際の弾丸とほとんど変わらない反動が手、腕、肩に痺れるように響く。だが同時に的に対してピンク色のトリモチがへばりついていた。


 それを確認して周介は弾倉の中に入っている弾丸をすべて撃ちきる。的にへばりついたトリモチは、表面にこびりつき続けている。


 少なくとも自然に落ちるような様子はない。


「あれの効果はどれくらいなんです?」


「丸一日は引っ付いたままさ。雨とかが降ってたら……半日くらいで落ちちゃうかな?」


 つまり戦闘時間程度の短い時間であれば剥がれることはないということだ。一発二発であればあまり意味のない攻撃になるかもしれないが、体の表面にへばりつくということはそれなりに面倒でもある。


 当たった部位によっては相手の動きをほんのワンテンポ遅らせることもできるだろう。


 そして相手がヘルメットなど、顔を覆う装備を身に着けていた場合、それらに当てれば相手の視界、あるいは呼吸を阻害することが可能かもしれない。


「ハンドガンタイプだとこんな感じだけど、次はこっちを試してみてくれるかい?」


 ドクがもってきたのはサブマシンガンタイプの銃だった。拳銃と違い連射力の高い短機関銃。これにも先ほどと同様のペイント弾が仕込んであるようだった。


 このタイプの銃は扱いに慣れていないが、すでに撃ち方は習っているため、構えてから安全装置を外し、引き金を引いて撃つ。


 拳銃に比べれば肩部分に支えがあるためまだ衝撃は逃がしやすい。連続して発射された弾丸は、的の中心からやや外れてはいるものの、的自体には命中し、表面に次々とペイントトリモチを付着させていく。


 下手な鉄砲も数撃ちゃ、ではないが狙った場所に当たらずとも、確実に相手の体に当てるにはちょうど良いのかもわからない。


「うんうん、いい感じに撃ててるじゃないか。銃のいいところは、誰もがその効果を知っている点にあるね。これに数がそろえば、相当厄介だよ」


「どういうことです?」


「今撃ったのはペイント弾だけれど、これが実弾だったらどうなるかな?あの的もハチの巣だったはずだよ」


「そりゃあ……」


 弾丸をあれほど当てられれば、普通の人間なら間違いなくハチの巣だ。当たり所が良ければ即死は免れるかもしれないが、それでも、即座に治療、応急処置などをしなければ失血によるショック死は確実である。


「そのペイント弾で撃たれるっていうのはさ、実際はかなり怖いものだと思うよ?何せ実弾が飛んできてそこに当たったら、ってことを彷彿とさせるからね。ただ当たったって事実だけならまだしも、そこに銃声、ないしポインターとかが出てくりゃなおのことだよ」


 ポインターとはレーザー式の銃の照準器のことである。レーザーを当てることで弾丸の当たる部分を視覚的に表したものだ。


「でも、能力者がそんなこと気にしますか?弾丸なんて当たったって……」


「そりゃ一発や二発ならね。けど、君の部隊にはいるじゃないか、大量に人の動きができて、なおかつ精密な攻撃ができる人が」


「……あ……瞳の人形にこの銃を持たせるってことですか?」


 瞳の扱う人形は、スポーツ選手の動きを完全再現できる程度には精密な動きが可能である。つまり人間の使う道具、もちろん銃だって簡単に扱える。


 このペイント弾を人形たちに撃たせれば、それなりの脅威にはなり得るだろう。これが実際の銃火器であればかなりの火力にもなる。


「もちろん訓練はしてもらったほうがいいだろうけどね。銃のトリモチに加え、今まで使ってきた投擲用のそれも加える。君たちの機動力、そして相手の阻害能力、それだけでも一現場部隊としては十分すぎると思うよ?」


 相手を倒すなどということは周介だって考えているわけではない。せめて他の部隊が戦いやすくなるようにするのが目的なのだ。


 情報の収集、および相手への阻害、追跡。これだけでも十分すぎるとドクは判断しているようだった。


 大太刀部隊であったのなら、相手の殲滅や打倒が目的となっただろうが、周介達ラビット隊は小太刀部隊。あくまで前線に出たとしても行うのはフォローだけだ。戦闘能力としては十分すぎる。


「ただ、助言させてもらえるなら、実弾は最低限持っていたほうがいいだろうね。万が一の時自分の身を守れるし、一発でも相手に撃てば、それだけ相手を牽制できる。実弾を撃ってくるってのは相手への脅しになるからね」


 一発でもいいから実弾を撃つということは大きな意味を持っている。相手に実弾も撃つ準備があると知らしめることは、場合によっては無力化を早めることにもつながる。


 一度自分たちの装備に関してはしっかりと考え直したほうがいいのかもしれないなと、周介は悩んでいた。


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