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アロットロールゲイン  作者: 池金啓太
二話「手を取り合うその意味を」
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「お待たせしました。それで、どこに行くんです?」


 周介は家に帰るとすぐに着替え、ドクを待たせていた公園にやってきた。そしてドクの車に乗り込む。

 ドクは笑いながら気にしなくてもいいよというとスムーズに車を発進させていた。


「まずは拠点の入り口に行くよ。少し時間がかかっちゃうかもだけど、そのあたりは許してくれると嬉しいな」


「拠点ですか……それこそ今度行く時でもよかったのでは?何もわざわざ待ち伏せしてまで」


「いやいや、待ち伏せだなんて。それにあれに関しては早めに渡しておいたほうが君のためにもなる。少々ごついけど、たぶん君なら気にいると思うよ。実際に使いこなせるようになるには少し時間がかかるだろうけどね」


 周介の疑問をよそに、ドクは話しながら笑っている。今度はいったい何を作ったのだろうかと疑問を抱きながらも、周介はとりあえず拠点に向かうための道を眺めていた。


「そういえばドク、この間免許を取ることになるって言ってましたよね?」


「そうだよ。その教材も今度渡そう。あと組織が懇意にしてる教習所があるからそこにも通ってもらうよ。一般的な知識や技能がないとさすがに免許は渡せないからね」


「それは、まぁいいんですけど、俺の能力を使って外に出る場合でも、一応免許って必要なんですよね?」


 それは所謂バイク等の排気量の問題などが該当する。バイクの中型大型という区分は、バイクの排気量によってきめられている。


 だが周介の能力を使えば基本的にそういった排気なしに物体を動かすことができてしまう。そうなるとすべての二輪車が自転車と同じ扱いになるのではないかという危惧が周介の中にはあった。


 もちろんそんなにうまい話はないだろうが。


「現行の法律では、君の能力を使った移動はすべて自転車扱いになる、といいたいけど、あくまで二輪車までだね。しかもかなり軽いことが条件だ。警官たちがいちいちバイクの排気量などを調べて、免許に合致しているかどうか調査しているところを見たことがあるかい?」


「それは、ないですけど」


「そういうことさ。君が仮に自転車で全力疾走していても捕まらないだろうけど、バイクのような形の自転車に乗って走っていたら捕まるかもしれない。その程度の差でしかないけど、そういう時のためにいちいち面倒を起こさないために、そして事故を起こさないために免許を取ってもらうんだよ」


 免許を取るというのは、つまりその資格を有するということだ。車やバイク等を運転する資格を有するということだ。


 逆に言えばその資格がなければ運転してはいけないということでもある。


 少なくとも周介は無免許運転などをするつもりはさらさらなかった。とはいえ、自転車であれだけの速度が出せるのだ。あまり意味などないのかもしれないが。


「今の法律は、能力者のそれにあってないんですよね?隠されてきたわけですし」


「うん、能力者の発見と、それに対する研究と普及、そして周知状況、そういったものを今までうちの組織と政府合同で管理してきたからね。幸いにして法律化には至っていない。でも、だからといって法律を破っていいというわけではないんだよ?君が宙に浮けるからって勝手に空を飛んでいいわけではない。この国には航空法というものがあるからね」


 空を飛ぶのにも許可がいる。誰もが勝手に空を飛べば、飛行機やヘリなどが事故を起こす可能性が非常に高まることになる。


 道路を車で走るのにだって許可がいる。この場合は免許という許可だ。そして海も然りだ。誰もが自分勝手に行動しないように、社会を円滑に回すために法律がある。


 能力者になり、法の枠組みから外れることがあろうとも、自分勝手に活動していいというわけでは決してないのだ。


「それとも周介君は、割とヒャッハーしたいタイプかな?盗んだバイクで走り出したい感じかい?」


「あいにくそういう趣味はないです。この間だって死にかけたんですから。まだ恨んでますからね」


「あははは、ごめんごめん。でもさ、あぁいう世界があったんだってわかったんじゃない?君が今まで知らなかったところで、あんなふうなことが起きていたんだ」


 周介がつい先日遭遇した能力者との戦闘。それは確かに現実のものとは思えなかった。


 その後調べた時、あの場での事故は車同士の衝突事故として短く報道されていた。火災などもあったために、被害もそれなりにあった。死者も出ていたという。だが、それ以上のことは報道されていなかった。


 能力者によってあれが引き起こされたとも、能力者によってもっと被害が出ていたということも、一切表には出ていなかった。


「あんなふうに、今まで事件が起きても、能力者なんていないように情報操作してきたんですよね?」


「そう。全てのマスコミではないけど、主要のメディアはすでに押さえてあるのさ。うちの組織も歴史があるからね。政府のバックアップもあればそれなりに融通は利く。何よりマスコミの考えっていうのはわかりやすいからね。食いつきやすい餌があればそれだけで操作もできる」


「餌?」


「そう。テレビとかを見ていて、どこの放送局もおかしい位に同じ話題に触れている事はなかったかい?他の内容もみたいのに、どこの局もみな一様に同じような映像を流して、同じようなスクープを取り上げて、同じような評論家が同じようなことをしゃべり続ける。違和感は覚えなかったかい?」


 そういったことに思い当たりがないわけではない。だがそれはそれだけ世間の関心が強いからだと思っていた。


 だが違うのだ。そういうわけではないのだ。世間の関心をそちらに移したいからこそ、そのように操作しているのだと、周介は勘付いていた。


「そう、マスコミはみんなが知りたいことを伝えるんじゃない。みんなが知りたそうな情報を、選んで伝えている。自分たちが情報を操作する側なんだと思っている。そういう状況で、情報を操作する程度なんてことはないさ」


 情報の発信者というのは良くも悪くも大衆へ大きな影響を及ぼすことができる。昔は新聞や号外などでいの一番に知らされた情報は、ラジオなどで伝えられ、そしてテレビで伝えられ、ネットで伝えられるようになった。


 情報の発信者が多くなれど、やはり巨大な情報を扱うのは同じように巨大な情報発信者であることに変わりはない。


「でも、こういうSNSでも情報を発信できるようになっているでしょう?今時テレビとかの情報を鵜呑みにする人なんてあんまりいませんよ?」


「そう、そこが困ったところさ。でも同時にチャンスでもある。テレビの情報が絶対ではないというこの前提はありがたくもあるんだ。テレビの情報とかであてにならないニュースはどんなニュースだと思う?」


 周介が見るテレビ番組といえば、所謂バラエティやクイズ番組、そして時々ニュースを見る程度だ。毎日天気予報だけは欠かさず見ているが。


 その中で一番当てにならないなと思うのは、やはり流行りものなどだろう。そして印象操作するつもり満々の事件や事故などだ。


 そういったニュースははっきり言ってみる気が起きない。


「ニュースとか天気予報とかは見ますけど、ドキュメンタリーとかはあんまり見ないですね。24時間テレビとかもみないです」


「そう、第三者への印象を変えようとする、要するに心に訴えるような内容に関しては個人の価値観が非常によく出てくる。だが逆に、事実だけを述べる番組というのはそういった信憑性の薄い番組とは逆に、信憑性が強くなっているんじゃないかな?」


 ドクの言葉に、そういえばそうかもしれないと周介は考える。


 ただ事実を述べる。それだけの場合テレビというのは情報の第一発信となり得る。


 自分で調べると、どうしても自分の興味のあるないようにしか目がいかないが、ただ垂れ流されるテレビの中に、自分が知らなかった情報というのはかなり含まれていることが多い。


 それもテレビの良さであるのだ。ラジオよりは見やすく理解しやすい。もちろんそういった印象操作をしやすいという面も孕んでいるわけだが。


「情報量が多くなって、正確に言えば、情報を発信するものが多くなったことで、人々は情報が正しいかどうかを疑うことを覚えた。今までは、情報が発信されたらそれが真実だと信じるほかなかった人たちがだ。これはかなりの変化だよ。だからこそ、都市伝説ってやつが生まれているんだ」


「都市伝説って、俺たち能力者のやつですか?蒼い眼をした超能力者」


「そう。いくらテレビやラジオ、新聞などの情報の信憑性が薄れたからといって、一般人が出す情報に比べれば裏をとっていることは間違いない。個人が発信する情報にはどうしても限界があるからね。だからこそ、最後の一線とでもいえばいいかな。そういう信憑性がテレビや新聞にはある」


「要するに、テレビや新聞が全く報道していないから、個人で発信してる情報は嘘だろう、あるいは合成とかそういうものの類だろうってことですか?」


 実際にそれが正しいかどうかはわからない。個人が撮影した映像や画像を、マスコミの人間が使おうとする時代だ。


 個人が発信した情報から事件が発覚するということも多くなってきた。


 だからこそ、ドクは苦笑してしまう。


「今はまだそういう図式が成り立っている。だけど、徐々に時代が変わってきている。個人でも多大な影響を与えられるようになってきている。そういった時代になってきているせいで、より能力者たちは隠れるようになった」


「隠れる、ですか」


「そう。昔はある程度派手に暴れても、それこそ情報が伝わる速度が遅く、人々に伝わる速度も遅かった。全国で指名手配になっている人間だって、張り紙とかを見ない限り顔が知られないなんてことはざらだった。けど今は違う。情報を発信した瞬間に、全国どころか全世界に容易に発信できるようになった。これは能力者たちにとってはかなりのデメリットなんだよ」


「能力者がいるってなったら、問題になると?」


「なるかもしれない。ならないかもしれない。けどさ、フィクションなんかではよくあるだろう?能力者を差別しようとしたり、逆に擁護しようとしたり、そんな馬鹿らしい運動が」


 超能力を持った人間を題材に上げた作品にはよくある話だ。主人公たちが差別されたり、敵が宗教のような団体を作ったり。


「僕らが恐れているのはね、能力者が徒党を組むことなんだ。五輪正典と、世界に散らばる同様の組織以外で、犯罪組織が出来上がり、それらが能力者の組織になった場合を恐れているんだ」


 能力者が徒党を組む。周介が所属する五輪正典は能力者を取り締まる側の立場だ。だがもし逆の立場の人間が徒党を組んだら。


 ただでさえ特殊な力を持つ能力者がともに行動するようになったら。その脅威度は跳ね上がることは容易に想像できる。


「だから能力者の存在を公表しないってことですか?」


「それも理由の一つに過ぎないさ。けど覚えておいてほしい。僕らの存在は秘密なんだ。可能な限り。もっとも、それも今の内の話なんだけどね」


 ドクの言葉には、もうそれが限界に来ているということを物語るものがあった。


 周介もいずれは能力者として活動する。その時に人に見られないようにしなければいけないという絶対条件があるということを、強く肝に銘じていた。


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