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アロットロールゲイン  作者: 池金啓太
一話「蒼い光を宿すもの」
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0042

『こちらドク、アイヴィー隊、聞いているかい?』


「こちらアイヴィー01、聞こえています。指定の場所に到着しました。釣り餌は綺麗に引っかかったようですね」


『どうしてそう思うんだい?僕はまだ何も言っていないのに』


「声がとても楽しそうですよ。餌になっている新人がかわいそうだ」


 高速道路の上、壁の上に立つ四人の人影を見ているものはほとんどいなかった。その中の一人が代表して無線の向こう側にいるドクに報告する中、ドクは自分の声がいつの間にか弾んでいたことを知って自らを戒める。


『すまないすまない。彼の能力の一端を確認して、もう今すぐにでも工房に走り出したいのを必死に抑えているんだ!この情熱は止められないよ!』


「それほどその新人は良い能力を持っているということですか」


『あぁ、最高だよ。彼は今自転車で走っているから、そこまで安定した加速はできていないけど、それでもその辺の安全運転してる自動車なんかよりもずっと速い。まだ能力に目覚めて一週間程度しか経っていないから、本当の意味での全力は出せていないだろうけどね』


「それで今回、無理矢理に現場に引きずり出したということですか」


 その人物の鋭い言葉に、ドクは一瞬先ほどまでのテンションを忘れて言葉を失っていた。


 答えを間違えれば、それこそ問題になるだろうということを察しているからなのか、ただ単に、図星をつかれたことを驚いているのか。


『……何のことかな?僕は嫌な予感がするから、とりあえず近くに居た彼に偵察に行ってもらっただけさ。まさか戦闘になるとは思っていなかったよ?』


「俺たちを待機じゃなく、出撃させていた人間が何をいまさら。最初からこうなるってわかっていたんでしょう?いや、こうなるように仕向けたんでしょう?」


 その言葉に、無線の向こう側にいるドクと、オペレートを担当している人物が息を飲むのが聞こえてくるようだった。


 そして、観念するようなため息が無線の向こう側から聞こえてくるのを確認して、彼らは目を細める。


「やっぱりか。新人への教育に関してはあなたに一任されているから俺からは口を挟むことはできませんが、少々手荒では?」


『僕としては、早い段階で彼には現場で活躍してほしいのさ。そうなると、やはり一度は現場の空気を味わってほしいという気持ちがあるんだよ。そういう意味では、狐狩りは適切な難易度だろう?』


「狐というには少々凶暴な相手ですけどね……こちら側に走らせたのも、相手が追ってくるのも計算の内ですか」


『今までの観測データから、目標の行動パターンはある程度絞れているからね。あとは彼を配置する場所さえ決めてしまえば、君たちのところに誘導できるというわけさ』


 周介があのタイミングで呼び出されたのも、そして高速道路の上の通路に誘導されたのも、そして東京方面に逃走するように指示したのも、すべてドクの計算通り、作戦通りという内容だった。


 相手の能力の性質と、その行動パターンは今までの交戦記録からある程度予測はできていた。あとはその予測に則って周介と、その逃走ルート先に部隊を配置するだけで一事が万事うまくいくというわけである。


「その新人が途中でやられる可能性は考えなかったんですか?今回はうまく逃げているようですが、そのままやられる可能性だってあったでしょう」


『そのあたりはきちんと考えているよ。ミーティア隊をすでに配置しているからね。困ったら助けてほしいってお願いしてあるから大丈夫』


「……大太刀まで引っ張り出して新人研修ですか。随分とその新人に肩入れしているようですね」


『それもあるけどね。もうここであの狐は仕留めておきたいのさ。餌が上等であればあるほど、食いつきがよくなるだろう?』


 ドクの言葉に、それを聞いていた全員がため息を出すのを止められなかった。本当にあの新人が哀れだなと思いながらも、四人のうちの一人がわずかに反応する。


「目標確認。速度からして……あと一分程度で接触する位置に来てる」


「想定より早いな。かなり気合を入れて逃げてるらしい」


 そう言いながら、高速の壁に立っている四人の一人は双眼鏡を使ってその位置を確認しようとする。


 距離と速度と大きさから言って、目視するのはほぼ不可能だろう。となればあとはタイミングを合わせる以外に方法はない。


「本当に自転車で走ってきてる……かなりショッキングな映像ねこれ」


「逃げてる本人はもっとショッキングだろうよ。たった一人で逃げ回ってるんだろ?同情する。っていうかよくそんだけの速度出せるよな」


「そのおかげで相手もかなり速度出してる。この速度ならこっちが無理しなくても何とかなる。けどタイミングが命だな」


「タイミングの指示はするから、お願いします。チャンスは一回」


 口々にそういう隊員を見て、アイヴィー隊の隊長である彼は、全力で逃げてきている新人能力者の方に意識を向けて目を細める。


「それじゃあ、可哀そうな新人を助けてやろう。狐狩りだ」


 タイミングを指示する能力者の合図に合わせて、残った三人が能力を発動し、壁から飛び降りる。


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