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アロットロールゲイン  作者: 池金啓太
一話「蒼い光を宿すもの」
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0038

「兄ちゃん、それ何?ゲーム機?VR?」


 周介が持ち帰ってきた頭部に取り付ける用の通信機を見て、弟の風太が駆け寄ってくる。確かに一見するとゲーム機用のVRゴーグルのように見えなくもないが、残念ながら目の部分はただのサングラスだ。ヘッドホンの部分に通信機なども取り付けられているため通常のヘッドホンより多少大きい。ゲーム機に間違えられても仕方がないだろう。


「残念、これはヘッドホンだ。音楽を聴くためのものだ。つけてみるか?」


 そう言って風太の頭につけてやろうとするが、残念ながら風太の頭のサイズにはまだ合わないのか、ぶかぶかの状態になってしまっている。


 サイズを調整しながらなんとか強引に取り付けるも、やはりまだ風太のサイズでは合わないらしい。

 だがヘッドホンをつけてサングラスを目の部分に合わせた風太は面白そうに走り回る。


「兄ちゃん、試験どうだった?」


 周介が帰ってきたことを知ってか、妹の麻耶もやってくる。遅くなった周介を心配していたのか、その表情は少々不安そうだった。


「すごい難しかった。まぁ頑張ったからあとは結果待ちだな。大丈夫、何とかなるって」


「そっか。それで、風太がつけてるあれは?」


「あぁ、あれはヘッドホンだ。いい感じだろ?」


「……うん、まぁ……うん」


 麻耶の美的センスにはあまり適合しなかったのか、麻耶は非常に複雑そうな顔をしている。


 男の子のセンスというのはやはり女の子には分らないものなのだろうかと思いながら、周介は風太を捕まえてヘッドホン型の通信機を回収していた。


「父さんと母さんは?父さんはまだ帰ってきてないのか?」


「うん、まだみたい。早くご飯食べよ」


 麻耶に引っ張られて周介はとりあえずリビングに向かうことにしていた。


「母さん、ただいま」


「おかえり。試験どうだった?」


「めっちゃ難しかった。一緒に学校の中を見て回って来たよ。結構すごかった」


「そりゃあ東京の学校だったらすごいでしょう。今度から寮生活になるなら、周りも見てきた?ある店とか近くのコンビニとか」


「そのあたりは今度、実際に入ってから探すよ。幸い、今中等部に通ってる同級生に知り合いができたから、いろいろ聞いてみようと思う」


「あらそうなの。それはいいじゃない。友達が早くできたみたいでよかったわ」


 母親である美沙としては、周介が早くも新しい友人を作ったことが嬉しいのか、ほほえましそうにしていた。


 だが同時に、周介が能力者として活動しなければいけないこと、そして高校生でありながら親元を離れて活動するということに強い不安を感じているのは周介にもわかる。


 だがその不安を表に出して、麻耶や風太まで不安にさせるわけにはいかない。


「周介、合格したら向こうに行くんでしょう?なら、今の内に何が必要なのかとか、どうやって送るのかとか考えておきなさいよ?宅配便を受け付けてくれるのかもわからないし」


「わかってる。そのあたりは調べておくよ。とりあえず腹減った。晩御飯何?」


「今日は生姜焼きよ。ちょっと待ってなさい。麻耶、風太を連れてきて」


「はい」


 いつの間にかその場から居なくなっていた風太を追いかけて、麻耶は駆け出す。小学校低学年というのはあそこまで落ち着きがなかっただろうかと思いながら、周介は机の上に通信機を置いて食事用の皿を取り出し始める。


「母さん、とりあえずこれから休日は家を空けることになる。もしかしたら平日の夜とかも」


「……そう」


「危ないことはしないつもりだけど、もしかしたらそういうことにもなるかもしれない。それだけはわかってほしい」


「……私はまだ納得はしていないのよ?危ない事なんて、絶対にしてほしくないの」


「わかってる。でも、仕方ないってこともわかってほしい」


「そうね……でも周介、これだけは覚えておきなさい。いつでも帰ってきていいの。嫌なことがあったり怖いことがあったらいつでも帰ってきなさい」


「うん、ありがと」


 盛り付けるための皿を並べ、米とみそ汁の状態を確認したうえで、周介は茶わんなどを取り出し、テーブルに箸を並べていく。


「そういえば、前にやってたその目が光るの、普段なったら目立っちゃうんじゃない?サングラスとかかけておいたほうがいいわよ?」


「そのあたりはコントロールしてるから大丈夫だよ。まだ万全じゃないけど」


「そうなの?一応サングラスとか買っておいたんだけど」


 美沙が視線を向けた先には、見慣れない眼鏡入れがある。おそらくあの中にサングラスが入っているのだろう。


 サングラスを常時かけるというのは非常に怪しい。普通に町を歩いていたらそれだけで職質されるレベルである。


 いつ能力を暴発させてもばれないようにという気遣いは非常にうれしいのだが、さすがにそういうわけにもいかないのが能力者の事情というものである。


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