0037
「こんなところが入り口に繋がってたなんて…よく許可下りましたね?」
「許可が下りる下りないじゃなくて、そういう場所であるために作ったものだからね。そのあたりは融通が利くのさ」
周介は家に帰るべくドクに送られていた。そして拠点のある異空間への出入り口がいったいどこかということを教えられていた。
周介の家の近くにはなかったが、そこは周介が住んでいる市の二つ隣の市の市役所だった。すでに暗くなっているために職員はもういない。
おそらくすべての鍵などには施錠がされているだろう。だがドクはさも当たり前のように市役所の扉などを開閉していた。
周介たちが再び地下から出てきたのは、市役所の中にある地下駐車場だった。出入り口がいくつか設定されていたらしいこの場所にやってくるのに、一番簡単な出入り口がこの地下駐車場なのだという。
地下駐車場の一角の駐車スペースがせり上がるようにして地下への入り口が開くようなギミックになっている。
これはこれで周介的には好みだったが、ここまでして隠されているというのは正直驚いた。
「あの、入り口がある場所ってどれくらいあるんですか?」
「うん?あぁ、拠点への入り口かい?今も結構見つかってるんだよ?ただ、さっきも言ったけど別空間に至る道とかもあってねそういうのを探すのも僕らの役割の一つさ。見つかったら、そこに至るまでの道を確立して、あとは上手く調整する」
「今のところ全部地下にありますけど、どうやって見つけるんですか?」
「ふふふ、地下だけじゃないんだよ。実はさっきくぐってきた穴は地下にはなかったんだよ?正確に言えば、建物の中にあったのさ」
「そりゃ建物の中にはありましたよ?でも地下じゃなかったんですか?何度もエレベーターで動いたり、車で移動したりしてましたし」
「そう、そこが問題なんだ。門のいくつかは、地上に現れてしまっているところもある。でもそれを誰かに知られたら、それだけで簡単に侵入を許してしまう。だからその土地を僕らの組織は買い取って、ビルを建てたりして、隠しているのさ。さっきの場所で言えば、ここだね」
そう言いながらドクは携帯の地図アプリを起動させてその場所を示す。そこは小高い丘になっているところだった。周囲は田園地帯になっており建物など一つとしてありはしない。
丘には当然木々などが生え、その近くには自然公園などもできている。それが一体どういうことなのか、周介には分らなかった。
「ここの場合は、周りに自然が多いことから、ちょっと工夫をして丘を作ったのさ。皆の力を借りて少しずつね。さすがに巨大な山にすることはできないけど、昔の風景を知っている人も、この土地を結構はなれていたりするからね」
風景一つを覚えている人はいない。そのあたりの土地は国を通して市が管理しているところになっているため、手を出すものもいない。
どういう手続きを踏んだのか、どういう形でそのようなことをしたのか。そしてどのような方法をとればこのようなことができるのか。
地下に通じている通路は、そこに通じているのだ。表から移動することができない分、地下から移動するようにしたのだ。
「こんな構造を作るの…いったい何年かけたんですか?」
「一つの通路を作るだけならそう時間はかからないさ。普通に作れば何年もかかるような工事だけど、僕らは能力者だよ?当たり前のやり方で、当たり前の方法で事をなすほど非効率な存在じゃないさ」
どういう能力があるのかはわからない。だがどういう能力であるのかが問題ではないのだ。そこにそれをできるものがいるならば適宜投入し、即座にそれを成す。
能力者というのは適材適所を求められるのだ。普通の人間以上に。できることが普通の人間とは異なり限定的ではあるが非常に有用な場合、それを求められるのだ。
周介もいずれ、そうなるのだろう。
「まぁ中には昔の坑道とかから見つかる例もあるよね。鍾乳洞の中から見つかるってこともある。だから結構探検に出ているチームは多いよ?少なくともこの日本の中でまだ見つかっていない穴はあるだろうからね。新しく穴が発生するってこともある」
「そういう場合どうするんですか?街中に出た場合とか」
「……街中っていうんじゃないけど、前にあったことで言えば、地盤沈下とかそういうのはよくあるね。地下の空間を作ってしまっていて、そこに土が流れ込んでって感じで。そういう場合は早いところ僕らが出ていかないと大変なことになる。ただ、最近は情報の伝達速度が速いから、そのあたりが目下の課題でもあるんだよね」
昔と違い、今は情報の伝達速度が異常なほどに早い。
新聞が主な伝達手段だった頃は、多ければ一日、少なくとも半日程度の猶予があった。
ラジオが主な伝達手段だった頃は、多ければ半日、少なくとも数時間程度の猶予があった。
テレビが主な情報手段だった頃は、多ければ数時間、少なくとも一時間程度の猶予があった。
だが今は、個人が情報の発信者となっている今となっては、その猶予はほとんどといっていいほどない。
個人が気軽に情報を発信できるこの世の中では、すでに能力者を隠すという行為が限界に達しつつあるのだ。
「だから政府とも協力するのさ。マスコミに圧力をかけて、うまくただの噂程度に留めている。幸い映像の加工技術も進歩しているからね。そのあたりでごまかせているってところさ」
だがこれらは五輪正典だけではなく、他の能力者組織としても頭の痛い問題なのだろう。
どうやってその存在を隠すのか。あるいは。
そう考えて、ドクは苦笑してしまっていた。