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アロットロールゲイン  作者: 池金啓太
一話「蒼い光を宿すもの」
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 在来線と新幹線、そして東京についてからはさらに乗り継いでようやくたどり着いたその場所で、周介はため息をついていた。


 いや、ため息というより、あきれてしまったというべきだろうか。


「何やってるんですかドク」


「やぁ、今日は遅刻せずに済んだようだね。時間にはだいぶ余裕がありそうだ」


 そこは粋雲(すいうん)高校の最寄り駅だ。そしてここからバスに乗ることになるのだが、そのバスの停留所でさも当然のように白衣姿のドクが待っていた。


「今回の君はかなり特別な枠での入試だからね。関係者の一人でもついていかないと話が進まないのさ。さもないと君、不審者扱いで追い出されちゃうかもしれないから」


「それなら、安形に案内を頼まなくてもよかったんじゃないんですか?」


「そうでもないさ。僕はこれでも結構多忙でね。君への案内と、高校の担当の先生との引継ぎが終わったら帰るよ。君ばかりにかまっていることはできないんだよね残念ながら。本当だったら!本当だったら君の能力用の装備をいくつも!いくつも作りたいところなんだよ!でもあんまり頑張りすぎると怒られるんだよ!まったく!わかってない!彼女はロマンをわかっていない!」


「あのドク、その辺に。ここバス停ですから。恥ずかしいですからやめてください」


 再びテンションが上がってしまったドクを窘めながら、周介は周辺にいた人たちに軽く苦笑いをして詫びる。


「で、今日はどういう試験をやるんですか?具体的に試験の内容は知らないんですけど」


「単純さ。普通の受験だよ。君の学力がどの程度かっていう話と、後君の能力を確認する。君が能力を発動しているところを確認して、ついでに君がそれを操作できていることを把握できれば、僕がちゃんと仕事をしてたってことがわかるからありがたいんだけどね」


「それはまぁ大丈夫だと思いますけど」


「お、そのさりげない自信、自主練とかやってた感じかな?いいねいいね、良い傾向だよ。君の能力を十全で発揮できる日が楽しみだ」


「それはいいんですけど、学校の中で能力を使っても大丈夫なんですか?」


「大丈夫さ。担当する先生の中には僕らの仲間もいる。きちんと能力に対する理解もあるし、中には使える人もいる。そういう人が担当してくれるから大丈夫だよ。君の能力はわかりにくい可能性があるから、これを持って行くといい」


 そう言ってドクが周介に渡してきたのは箱のようなものだった。その一面にはダイヤルのような、回転する部品が取り付けられている。


 そして側面部といえばいいのか、そこにはUSB端子の差込口があり、そこから各種充電用のコードが伸びていた。


 大きさは五センチ四方で、厚さは二センチといったところだろうか。


「これは?充電器ですか?でもコンセントの差込口がないですけど」


「君の個人装備試作二号、小型携帯式充電器さ。災害用とかで回すことで発電する道具があるだろう?あれと同じ。君がこの部品を回転させると発電が始まり充電が可能になるのさ。実際にやってみてごらん。あぁ、目には気を付けてね」


 そう言ってドクは用意していたサングラスを周介にかけさせる。


 周介はさっそく能力を発動しながら自分の携帯にコードをつなぐ。すると確かに携帯には充電開始のマークが点灯していた。ゆっくりとではあるが確かに充電されている。


「おぉこれは便利ですね。これ貰ってもいいんですか?」


「もちろん、君のために作ったものだからね。ただ重ね重ねになるけど、能力を使う時は目に気をつけなさい。ついでに言うと、これをあまり人の目がある場所に晒してほしくはないな。パーツとかそういうものも能力で作ってあるものだから、家電量販店なんかでは直せない。壊れたら僕のところに持ってくるんだ」


「わかりました。でもこれで能力発動してるってわかりますかね?」


「僕印の道具をもってそれを使って見せればそれが証明にもなるさ。まぁ、もうちょっとわかりやすく豆電球でも点灯させようかと思ってたけど、さすがにそんなものを作るくらいなら実用性のある物を作ったほうがいいからね。これは君へのプレゼントだとでも思ってくれるとありがたいね」


「ありがとうございます。でもいいんですか?昨日安形も言ってましたけど、あんまり俺の肩を持ちすぎるといろいろと面倒なんじゃ…」


「まぁそのあたりは大丈夫さ。他の仕事もしっかりしてるし、何より許可はもらっている。君の能力に関しては本当に重要なものなんだ。いや、正確に言えば重要なものにしなきゃいけないんだよね。これは僕の仕事なんだけど」


「……忙しいならあの井巻って人に代わってもよかったんじゃないですか?付き添い程度なら」


「いやいや、彼は僕以上に忙しいからまず間違いなく無理だ。君への説得のために動く関係でかなりスケジュールをずらしたからね。今はてんてこ舞いって感じだよ。本人は絶対言わないだろうけどね」


 忙しい中で周介の説得や送り迎えの筋を通すためだけに時間をとっていたという事実に、周介は少し複雑な気分になる。


 変に約束を守るところといい、筋を通そうとするところといい、井巻という人物の見え方が大きく変わってきているのを周介は感じ取っていた。


「お、バスも来たね。これから君は寮に入るわけだから、駅に行くためのこのバスは覚えておいたほうがいいよ。よく利用することになるだろうからね」


 やってきたバスに乗り込み、周介とドクは粋雲高校に向かって行く。バスの外にある光景は、周介の地元とは大きく変わっていた。


 周介の地元は言ってしまえば田舎だ。ただそこまでど田舎というわけでもない。近くにはローカル線しか走っていなくて、ターミナル駅まで行かないとまともに動けない。


 近くには田んぼや畑などがあり、近くのコンビニまで自転車で十分ほど走らないとたどり着けない。

 バスの外に広がっている景色は周介の知っている街中とは少し違っていた。


 周介が住んでいる町は、田んぼや畑の間に、途切れるように固まって住宅があるような場所だった。だがここは途切れることなく建物が存在している。


 周介が住んでいる町の道路は、道路わきに用水路が流れ、アスファルトもところどころひび割れている。だがここは綺麗に舗装された道路があり、その両脇には街路樹が立ち並んでいる。


 周介の地元は、街灯の数も少なく、たまに見かける自動販売機の近くに街灯がある程度だった。だがこの辺りは、等間隔で街灯が配置され、視線を少し動かすだけで別の自販機を見つけることができる。


 東京という町はこういう場所なのだなと、そう思いながら周介は目を細めていた。


 ここだって、東京の中では郊外に当たる場所だ。だがそれでも、周介からすればこの場所は自分がこれから住む場所のようには思えなかった。


「そういえば周介君は東京に来たことはあるのかい?」


「何度かあります。けど、こういう住宅街の方にはないですね。前になんかの展示会があったときに親に連れて行ってもらったくらいですよ。ビックサイト……だったかな?」


「あぁ、確かにあっちの方はあっちの方で楽しいよね。家に帰りにくいっていうのが、君としてはネックかもしれないけど」


 ドクがとても自分に気を使ってしゃべっているというのが周介にもわかる。家族と離れ離れになってしまうという意味では仕方がないのかもしれない。


 だが周介からすれば、これでよかったのかもしれないと、そう思うところもあった。


「いや、家族と離れるのは、ある意味良かったのかもしれません。俺がいると、両親もそうですけど、妹や弟も、巻き込まれるかもしれないので」


「……君は家族思いだね。僕とは大違いだ」


「ドクのご家族は……?聞いていいのかわかりませんけど」


「僕はもう成人しているからね。もう数年は実家には帰ってない。仕事が忙しいからっていう理由でね」


 数年実家に帰っていない。それはつまり数年は家族と会っていないということだ。ドクが結婚しているかどうかはさておき、それは寂しいのではないかと、そう思わずにはいられなかった。


 だがそれは子供だからこそ感じる考えだ。ドクはもう大人だ。そんな人は家族と会わなくても、平気なのかもしれないと、周介はそんなことを考えていた。


「仕事が忙しいと、やっぱり家には帰れなくなりますか?」


「そうだね。土日も普通に仕事をするからね。長期の休みくらいはとってあげたいけど、それもどうなるかはわからない」


「でしょうね。どんな仕事をするのかは、まだ教えてくれませんか?」


「君自身の適性を見なきゃいけないからね。調べることは山積みだし、やらなきゃいけないことは多いよ。四月まで、いや、三月の前半辺りまでには形にしてみせる。そうしたら君もできることが増えるさ」


 仕事が増えるではなく、できることが増えるという言い方をしたドクに、周介は目を細めていた。


 周介がどんな仕事を割り当てられるのかはわからないが、ドクとしては少しでもその幅を広げてほしいと考えているのだろう。


 それは単純に、周介に選択肢を広げてほしいと願っているようだった。


「ドク、高校に通ったら、やっぱり部活とかはできないですよね?」


「……嘘を言っても仕方がないね。うん、部活動などは難しいと思う。特にスポーツ系は」


「能力のことがあるからですよね?」


「そう。万が一でも能力が発動してしまう可能性があるのなら、能力者としてスポーツに参加することは避けてほしい。特に公式の試合なんかに出るのはね。野良試合程度であれば問題ないよ。楽しむだけの、ただのお遊びのスポーツなら構わない」


「……ですよね。そうですよね」


 周介は三年間、卓球部で過ごした。高校に入っても、また卓球部に入ろうと考えていた。


 そこそこ強かったし、大会でもそれなりに成績を残している。


 だが、それもここまでだ。高校に入ったら、運動部に入ることはできない。入れたとしても文科系の部活だろう。


 仕方がないのは、予想していた。だからそこまでショックはなかった。


 だがそれでも、頭は理解できていても納得しきれないものというのはある。


 理不尽だなと思いながらも、もし能力が発動してしまったらと考えると、その理由も理解はできる。


 要するに、能力者はいつでもいかさまができるような状態にあるのだ。目元を隠せば能力の発動だってばれないかもしれない。


「ひょっとしてですけど、観戦も、しないほうがいいんですか?」


「……そうだね。可能な限り控えてほしい。そういう場所に行って、もし問題が起きたら大変なことになりかねない」


「厳しいですね」


「厳しいよ。力を持つっていうのはそういうことなんだ。申し訳ないと思うけどね」


 ドクは本当に申し訳なさそうに話している。周介もわかっている。そんなことはどうしようもないことだとわかっている。


 だから、この話はこのバスの中だけで終わらせることにした。


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