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アロットロールゲイン  作者: 池金啓太
六話「空と大地の嘶きに」

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 家族での食事と、ちょっとした団らんは周介自身が思ったよりもその心を癒していた。久しぶりに家族に会えたのだから当然かもしれない。


 ゆっくりと、しっかりとリラックスできたことで、周介は心を十分に休めることができていた。

 だからかもしれない。不意に感じた、悪寒のようなものに周介は敏感に反応していた。


 何かが起きる、そう確信したわけではない。ただ、嫌な予感がしたというのが正しい。虫の知らせというべきなのだろうか、腹の奥がざわつき、胸元までそのざわつきがやってきていた。


 日も昇り、気温も程よく、全くと言っていいほどに雲一つない快晴だというのに、周介の胸中にはどこか暗く重い何かが迫っているような感覚があった。


 不意に、左腕につけている腕時計を見た。だがそれはまだ鳴らない。特に何もなかっただろうか。自分の気のせいだっただろうか。


 そんなことを考えていると、わずかに周介の近くにあるペットボトルの中身が揺れていた。


 それがどういう意味なのか、周介は理解した。地震が起きていると気付き、周介はすぐにテレビをつけると地震の情報を確認しようとする。


 嫌な予感が止まらない。だが地震が起きたことによって不意に襲い掛かってきたその悪寒の正体がわかり、周介は少し安心もしていた。


 微震が終わり、その後に本震となる揺れがやってくる。だがそれも周介たちがいる場所はせいぜい震度三程度のものだった。


 驚くほどのものではないし、脅威となるわけでもない。日本であればそこまで気にはならないような程度の地震だ。


 数分してテレビでこの地震の震源地が知らされる。先日と同じ内陸部分の地震のようだった。


 最大震度は五弱。山間部であるらしく、先日に引き続きの地震ということで土砂崩れの可能性があるとニュースでは告げていた。


 嫌な予感がしたが、どうやらその予感は外れたようだと周介は安堵していた。まだ胸の奥がざわついているものの、比較的落ち着いてきたようにも思う。


 こういった第六感に近い部分も能力者になると鍛えられるのだろうかと周介は首をかしげながら携帯を見る。


 嫌な予感がしたのは間違いなく地震の数十秒前だった。それを感知できるというのはなかなか良い点であるように思えるが、あくまで嫌な予感がしただけの話だ。


 実際問題これが使えるかどうかといわれると微妙なところでもある。


「周介!火大丈夫か見てくれる?」


「んー!大丈夫だと思う!こっちは震度三くらいだから!」


 洗濯物を干している母が火元を気にするが、この程度の地震で崩れるような家は日本には限られるだろう。


 地震の速報が流れ、情報がネットの中にも共有されている中、内陸部に連続した地震が来ているということもあって家族の安否の確認をするような書き込みもあった。


 田舎に住んでいるばあちゃんは大丈夫だろうか、とか、田舎は山道多いから道ふさがったら陸の孤島だもんな、とか、爺さんは腰が悪いから心配だとか、いろいろとコメントが記入されている。


 そんなコメントを見ていると、周介の左腕の時計が鳴り始める。地震自体は大したことはないが、別件だろうかと、周介は即座に携帯でドクに連絡を取った。


「もしもし百枝です。ドク、どうしましたか?」


『あぁ周介君、休みのところごめんね。ちょっとだけお願いがあってさ……緊急だ』


 緊急。その単語が出た時点で周介がやることはほぼ決まってしまっていた。どのようなことになるかは不明だが、間違いなく作戦行動をとらなければいけなくなる。


 それを理解した周介の行動は速かった。


「母さん!ちょっと出かけてくる!」


「はーい!」


 ちょっと出かけてくるということで、コンビニでも行くのかと思ったのか、母はいつ帰ってくるのかは聞かなかった。


 周介も、いつ帰ってこられるかわからなかったため、それは口にしなかった。


「で、ドク、どうしました?」


 玄関から急いで外に出ると、近くに停めてあった車の中に入りハンズフリーの通話状態にしてドクとの会話を続ける。


『緊急の依頼でね。君たちに協力してほしい。すでにアイヴィー隊には声をかけてある。彼らが学校の寮にいたのは幸いだった』


「手越たちですか。それで、俺はどこに行けば?」


 エンジンをかける音が聞こえると同時に、ドクは周介が既に車に乗り込んだということを知ったのだろう。頼もしそうに、そして楽しそうに笑う。


『だんだんと慣れてきたね。よし、周介君はまずヘリを回収してきてくれるかい?空港には話を通しておく。ヘリで移動を開始したら適当な場所にチーム全員を待機させておくから回収してほしい』


「戦闘ですか?」


『いいや、そういう方面の話じゃないよ。でも時間勝負だ。急いでほしい』


「了解です。話は運転しながら聞くんで」


 そう言って周介は周囲を確認しながら車を走らせる。ドクの頼みで急ぎじゃなかったことなどそうそうないのだがなと思いながら、周介は車を中部国際空港に向かわせた。


 まずはヘリの回収。そして一緒に行動するチームの回収。それまでは内容の確認を進めておくべきだと考えていた。


『端的に言おう。今回の依頼内容は人命救助だ。さっきあった地震で内陸の山間部の家屋のいくつかが土砂崩れに巻き込まれた。そこに住んでいる人を助ける仕事だよ』


「うちの仕事にしてはずいぶんといい感じの仕事ですね。でもそういうのは自衛隊の仕事では?」


 自衛隊の仕事かどうかはさておき、救助に関して主に動いているのは自衛隊やレスキュー隊のイメージが強い。どちらも国の組織であるために周介たちのような存在が出張る必要はないようにも思える。


『今回はその中でもちょっと特殊さ。その中の特定の人間を助けろという内容だからね』


「……特定の……ってことは依頼主はスポンサーですか」


『まぁそういうことさ。いつ助けられるかもわからない自衛隊を待つよりも、さっさと助けてくださいって言うのが向こうのお願いなわけだ。言い分は理解できるし、何よりそういう依頼がないわけでもないから珍しいことではないけれども』


 今回の地震に際し、土砂崩れが起きたことを心配したスポンサーの誰かが家族を助けてほしいと言ってきた。


 非常に家族思いで、よい依頼だとは思うのだが、それに駆り出される身としては複雑な気分でもあった。


 だが同時に、周介としては気がかりなことがあった。それは、周介にとってはあまり良い想像ではなかったが、聞かずにはいられなかった。


「ドク、さっき巻き込まれた家がいくつかあったって言いましたよね?今回助けるのは……」


『……お察しの通りさ。今回の救出対象は一名。一名だけだ。それ以外に関与する必要はない』


 それがつまりどういうことなのか、周介は何となく理解してしまった。能力者である周介たちは、可能な限り一般人とかかわるのを避けなければならない。


 助けるのは一人だけ。それ以外は見捨てろと、そういうことだ。


「ドク、巻き込まれた家の数はわかりますか?」


『確実なことはまだ言えない。近くにいるノーマン隊の人間を向かうようにさせたいんだけど、被害が起きたのは山間部で、そこに至る道も土砂崩れが頻発しているみたいでね。現地の状況は住民からの通報だけだ。もうすでに報道関係の人間もヘリの用意をしようと動き始めている。こっちでもうまく調整して君たちの姿が映らないようにはするけどね』


 一体何人の人間が巻き込まれたのかは不明。そして助ける人間は一人だけ。そんなことを周介は認めたくはなかった。


「今回は、埋まっている人を助けろって、そういうことですよね?」


『そうだね。そうなるかな。君たちの能力全てを駆使してその一名を助け出してほしい。君が何を考えているのかはわかるけれど……』


「我儘は言うつもりはありません。その救出対象の写真などは?」


『まだ取り寄せているところでね。君たちが現地に到着するまでには用意できるようにするけど』


 救出対象者一名。住んでいる家の場所さえわかればある程度は場所も絞られるだろうが、土砂崩れによって家ごと流されていた場合はその限りではない。


 どうしたものかと周介は迷いながら車を運転する。


「現地に行くのはどのチームですか?」


『君達ラビット隊、そしてアイヴィー隊。あとちょうどいたスペース隊とエイド隊が何人か……一度に運べる人数としてはそれが限界さ。ヘリに乗れる人間的な意味でもね』


「もう一つ、救出するうえでの救出の定義をお願いします。埋まっている状態から助け出せばいいんですか?それとも、連れ出して病院まで連れていくまでですか?」


『それは……うん、確認しよう。そうだね、もしその場から引き出すだけでいいのであれば現地の滞在時間は短くて済むからね』


 助け出すという言葉の定義は広い。命を助けるだけでいいのであれば、埋まっている状態から救い出せばいいだけなのだから。


 ただ病院まで連れていくとなるとそう簡単にはいかない。一度移動を挟まなければいけないうえに病院にヘリで直接乗り込むとなれば穏やかではない。


 ドクターヘリでもないただのヘリで人命救助などあまりやっていい行為ではない。それが自衛隊や緊急時ならばともかく、周介たちが出て行っているのはスポンサーの都合でしかないのだから。


「それと、移動するにしてもそれだけの人数となると結構きつくないですか?あのヘリ何人乗るんです?」


『乗せられる人数、というより重量だけで言えばそこまで無理な話ではないよ。ただ少々乱暴なやり方をするけどね。後付けみたいな形さ。そういうことを想定して作った機体だから、ちょっとコツがいるようになるけど』


「訓練していない内容を実践でやれと?」


『それに関しては僕が保証しよう。君の技術であれば不可能ではない。それに後付けって言ってもそこまで変なものじゃないからね。あとは君の腕次第。そしてその腕は僕が保証する。君は安心して操縦してくれればいいのさ』


 また適当なことを言っていると周介は呆れながら車を運転し続ける。もう間もなく中部国際空港に到着する。ヘッドセットをつけて周介はいつでも作戦行動をとれるように準備を整えていた。


 かなり速度を出したというのもあるが、道が思っていたよりもすいていたこともあって先日よりかなり早く到着することが出来ていたのは幸いだった。


「これから中部国際空港に入ります。メイト隊の誰かにナビをお願いします」


『了解。無線機はつけているかな?』


「もう付けました。お願いします」


『よろしい。それじゃあラビット01、頼んだよ』


 頼まれたくないような内容だけれどと考えながら周介はため息をつく。助ける人と助けない人を選ばなければいけないなどと、周介にはあまり嬉しくないことだった。


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― 新着の感想 ―
[気になる点] 救助者は一名でしょうか?二名でしょうか? 途中で二名になってます。
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