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「周介!帰ってきたのか!」
「あ、父さんお帰り」
リビングでくつろいでいるとき、周介の父が家に戻ってきていた。帰ってくるなどの連絡は一切していなかったために、まさか帰ってきているとは思わなかったのだろう。
母も周介の帰省を驚かせるためか、連絡などはしていなかったようである。
「今日は友達も連れてきた。こっちが安形で、こっちが玄徳」
「初めまして、安形瞳です」
「初めまして、加賀玄徳っす」
紹介されてそれぞれ自己紹介すると、周介の父もつられて頭を下げる。友人を連れてきたという事実には単純に驚いたが、それ以上に周介が帰ってきたという事実の方が彼を驚かせていた。
「友達を連れてくるなら、もっと早くに連絡しなさい、驚いたぞ」
「ごめんって。帰ってこられるかわからなかったんだよ。仕事のついでにこっちに来たからさ」
仕事という単語に、周介の父は反応していた。それがどういう意味か彼もわかっている。つまり周介が組織の仕事をしたついでにこちらに戻ってきたのだということを意味していた。
そして、一緒にやってきたこの二人が、おそらくはその関係者なのだということも何となく察しがついていた。
「なるほど……わかった。学校は、どうだ?」
「うん、まぁ忙しいけどうまくやってるよ。寮の奴らとも仲良くなったし、部活は、やってないけど」
部活はできないということは周介の両親も既に把握していることだった。その代りの組織の活動だ。それがどういう意味を持っているのか、少し不安に思う気持ちもあれど、自分にどうすることもできないということも周介の父は理解していた。
「危ないことはしていないのか?」
「あー……危ないことは……あんまりしてない。物を運んだりとかが多いからかな。そういうほうが向いてるし。あとは部屋の中でできる作業かな」
「そうか、それならいい」
よもや発電したり死体を運んだり能力者と戦ったりヘリを動かしたりしているなどといえるはずもない。周介は非常に言葉を濁しながら誤魔化していた。
もっともその誤魔化しがどこまで続くのかは不明なところではあるのだが。
「安形さんと、加賀君だったね。周介がいつもお世話になっています。これからも愚息をよろしくお願いします」
「こちらもお世話になっていますので、気にしないでください」
「任せてくださいっす!」
周介の父の目には、二人は周介を預かる能力者の先輩のように映っていることだろう。実際にその認識は半分正解だ。
だが実際は周介こそがこの二人の隊長なのだが、そのあたりはわからなくても無理のない話だろう。
「周介たちはいつまでいられるんだ?」
「俺はゴールデンウィーク最終日まで。二人は明日帰るよ。俺が送ってく」
「そうか、ゆっくりしていきなさい。何もないところではあるが」
「いいえ、こういうのは久しぶりなので」
「そうっすね、家族団らんってのは久しぶりっす」
瞳と玄徳の言葉に、周介の父は僅かに目を細めていた。それは、二人が周介と同じような境遇なのではないかと、親から引き離され、強制労働に近い形で組織に入れられたのではないかと、そう考えてしまったのである。
能力を有してしまった周介を連れに来たあの男たちのように、同じような境遇で子供の時から能力者として生きてきたのではないかと、そんなことを考えたのだ。
不憫な。
そんなことを思い、首を横に振る。人の人生を勝手に決めつけるのは良くないことだと、そう思いながらその場にいる全員に視線を向ける。全員が笑っている。楽しそうにしている。その楽しい時間を台無しにすることはないだろうと、周介の父は自らが感じたものを押し込め、苦笑する。
「そろそろご飯できるから、食器の準備してちょうだい」
「あいよー。玄徳は飯どれくらい食う?大盛りか?」
「いいっすか?大盛りで!」
「安形は?」
「普通でいい。あんまり食べられないかもだし」
周介が白米を茶碗に山盛りにしている間、瞳はテーブルを布巾で綺麗にしていた。
箸を並べ、できてくる食べ物をそれぞれ並べていく。
「麻耶、風太連れてきてくれるか?」
「ん……呼ばなくてももう来るよ」
「そっか、そりゃそうか」
周介がこの家からいなくなってもう一カ月だ。周介がいない中でもある程度の家の中での役割というものも変わってきている。
子供だと思っていた二人も徐々に大人になってきているのだということを実感して、周介は少しだけ安心していた。
これなら自分がいなくても、直に平気になるだろうと。少し寂しい気もしたが、それが嬉しくもあった。




