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アロットロールゲイン  作者: 池金啓太
一話「蒼い光を宿すもの」
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0027

 能力の訓練を続け、体力の限界まで体を酷使した後、訓練場にドクがやってきていた。


「だいぶ頑張っていたようだね。結構体にも傷ができているんじゃないのかい?」


「まぁ、それなりですかね。一番痛いのは、足と、プロテクターの部分ですか…」


 周介はそういってローラースケートを脱ぎ、体に取り付けていたプロテクターを外していく。


 その装備が肌や体に擦れて、わずかに靴擦れにも似た傷を作っていた。


 一度二度使った程度ならばこのような傷はつかない。何十回も何百回も擦れたことによってできた傷だということがわかる。


「んん、細部の調整が甘いのと、どうしても体が激しく動くから部分的な装備だとこういう傷ができてしまうんだね…うん、よしよし、構想が浮かんできたぞ。任せてくれ、あとは僕の方でいろいろと調整をしておこう。今日の訓練はここまでだね」


 ドクが時間を見せてくれると、すでに夕方近くなっていた。昼も食べずに行動し続けていたせいか、時間を認識した瞬間に自分が空腹であるということを体が意識したのか、腹の虫が勢いよく鳴り始める。


「ははは、どうやら君はガス欠みたいだね。機械と一緒で、人間も燃料を入れないと動くことはできないよ?夢中になるのはいいけど、体調管理はしっかりね」


「はい、すいません。次は、なんか軽く食べられるものを用意しておきますよ」


「うん、それがいい。で、次の訓練の話なんだけれど、君、明日からまた学校だろう?」


 今日は日曜日、そして明日からは月曜日だ。まだ卒業していない周介は中学校に通わなければいけないわけで、こうして訓練などもしにくくなるだろう。


「ところで君は部活とかは入っているのかい?」


「卓球部に入ってましたけど、もう部活自体はやってませんよ?受験とかもありましたし」


 周介は中学三年間卓球部に入っていた。それなりに強かったが、去年の夏の大会を最後に引退した。


 今は時折顔を出す程度のものだ。本格的な活動はすでに終わっている。受験勉強のために頑張っていたわけだが、それもついに意味がなくなってしまった。


「あぁそうだった。君の受験の話もしなきゃね。形だけだけど、試験を受けてもらわなきゃいけないんだよ。粋雲高校を受けるんだろう?」


「一応、そういう話になっています。結構レベルが高い高校だって聞いて、ちょっと尻込みしてますけど」


「うんうん、実は安形君はそこの中等部に通っていてね。彼女にいろいろ案内をしてもらうついでに受験してくるといい。安形君!ちょっと頼みがあるんだけどいいかい!?」


 ドクに呼ばれて携帯をいじりながら訓練を続けていた瞳はゆっくりと立ち上がり周介たちのいる場所にやってくる。


「なんですかドクター。そろそろ帰ろうと思ってたのに」


「ごめんごめん、実は今度彼が粋雲高校を受験するんでね。君にその案内を頼みたいんだよ?頼めるかい?」


「案内って……あたしも高等部の方にはあんまりいかないんですけど?」


「施設とか寮とか、そういうところも紹介してあげてほしいんだよ。実際に見ておいたほうがいいだろう?特別入試だから一般の人とは違うしね。あらかじめそういうのも把握しておいたほうがいいし。どうだい?」


「……まぁいいですけど?いつやるんです?」


「そうだね…今週の水曜日辺りにしようか。そのあたりでようやく体制を整えられると思うから。周介君は大丈夫かい?学校には話を通しておくよ?」


「それはありがたいですけど、安形はいいのか?なんか迷惑かけちゃってるっぽいけど」


「……別にいいし。今度から通うんでしょ?いろいろ知っておいたほうがいいっていうのはわかるし。どうせ暇だし」


 瞳は周介の案内をすることはあまり嫌ではないが面倒なのか、小さくため息をつく。


「でもドクター、どっかで報酬ちょうだいよ?先輩たちに頼まないであたしに頼むんだから」


「わかっているよ。今度君のリクエストした人形を作っておくように話を通しておく。それでいいかい?」


「それならよし。それじゃあ、えと」


「百枝周介」


「そうだった。ドクターが下の名前でばっかり呼ぶから苗字忘れるし」


「下の名前で呼んであげればどうだい?別にいいんじゃないかな?」


「百枝でいいじゃん。ドクター、気に入ってるのはわかるけど、他の人と差をつけすぎるといろいろと言われるよ?」


「おっと、すまない、確かにその通りだ。でもその言葉から察するに、君も周介君のことは嫌いではないのだろう?」


 まだあったばかりであるために、瞳は周介のことをほとんど知らない。だから気に入るとかそういった部類にはまだない。


 だが、ひたむきに努力して、頑張っている姿から、そして素直に話ができるその性格から、瞳は周介のことが嫌いにはなれなかった。


「別に普通です。じゃあ百枝、水曜日連絡するから、んじゃね」


 瞳が大広間を出ていくとそれぞれの人形たちも瞳に続いてぞろぞろと退室していく。ゲームのようだなと思いながら周介はその光景を眺めていた。


「安形君は中学に上がるちょっと前くらいから能力者になってね。今までずっと訓練してきたんだよ。あの能力だから、なかなか状況にはまることがなくてね」


「はぁ……でもあの動きはすごかったですよ?全部コントロールできてる。あんだけ動かせるようになるまでどれだけ訓練したんだか……」


「性格はまじめだからね。なかなかチームに恵まれていないんだけど」


「……チーム?」


 所属が小太刀部隊だということは話していたが、チームに所属しているとは言っていなかった。チームメイトと仲が悪いのだろうかと思っていると、ドクは話してもいいかなとつぶやいてから歩き出す。


「僕ら小太刀部隊だけじゃなくて、大太刀部隊もそうだけど、状況や能力の相性とかを加味してチームを組んで行動するんだ。ある程度のコンセプトを持ってるチームもあれば、急造の、いる人だけで組んだチームもある。彼女の場合、能力がちょっと特殊だから、そういう状況で役に立ちにくくてね」


「役に立ちにくいって……でもあれだけの数を一度に操れるなら、あれだけの数の人手を得られるのと同じじゃないですか?それならいくらでも……」


 あの人形たちの動きを見る限り、瞳はあの数の人形を意のままに操っているように思えた。つまりそれだけの数の人形を操れるということだ。


 本人曰くそこまで力は出せないようだが、それでもできることは山ほどある。人手というのはそれだけ有用だ。


 あれだけの数の人手を一気に得られるというのであれば、活躍できる場はいくらでもあるように周介は思えたが、どうやらそう簡単に話が進むというわけではないようだった。


「確かにあれだけの人手を得られるのは大きいよ。でもね、あの能力はあくまで人形を動かすだけだ。それだけの人手を運搬するということができなければいけない。わかるかい?」


「……あ、そうか。あの人形をたくさん運ぶって、それだけ手段がないと……」


「そういうこと。優秀な能力だし、彼女自身努力している。それは僕が見てきているから間違いない。けど、運搬して展開して、そういうことをしている間にほかの能力者が解決できてしまうんだ。あの人形自身が高い機動力を持てるのであれば、話は別なんだけどね」


 そう言いながらドクは一瞬だけ周介を見る。その可能性をドクは感じ取っていたのだ。それができるのではないかと、ドクは思っていた。


 だがそれはまだいうつもりはなかった。いう必要がないと思っていた。


 もう少し周介がこの組織に慣れてからでも遅くはない。何より周介は今自分のことで手一杯な状況だ。そんな子供にこれ以上大人の期待を押し付けるのは悪いと、ドクは考えていた。


「ちなみにどんなチームがあるんですか?聞いていいのかわかりませんけど」


「ん、そうだね。僕ら小太刀部隊なんかで言うと、僕が所属している装備とかの開発チーム。傷を癒すことに特化した治療チームなんかもあるよ。これらは組織内で活躍するチームだけど……あとはそうだね、君を電車から連れ出した、彼らなんかは外で問題が発生した時に出動するチームだ」


「あぁ、そういえば、あの人たちはこの場所にはいないんですか?」


「普段から訓練をしているけれど、場所が違うからね。外部で活動する人は、それなりにしっかりとした訓練場で訓練するのさ。この場所はただの平坦な場所だから、あくまで初心者用なのさ」


 この訓練場は能力を発現したばかりの人間が問題なく行動できるように作られた場所であるらしい。


 外部で活動するということはそれだけ高い問題解決能力を求められる。そのため訓練場もそれなりに必要な設備などをそろえたものであるらしい。


「安形はこの場所でずっと訓練してるんですか?」


「たまに向こうの、外部活動用の訓練室に行ったりもするけど、彼女自身あの場所は居づらいんだろうね。チームメイトがいないっていうのもそうかもしれない。一緒にいればいろいろとできると思うんだけど。だから普段は物を運んでもらったり、僕らの手伝いをしてもらっているんだ。彼女の力は僕的にはすごく助かってるんだよ」


 瞳の能力は機動力のなさがネックだ。それさえ解決できてしまえばできることは山ほどあるというのに、それができないだけでチームを組むことが難しいらしい。


 物を運ぶといった単純作業だったり、人形を使っての補助などは組織の内側での作業では非常に有用であるらしい。


 どちらの方がより良い形なのかはさておいて、周介からすればあれだけの能力を腐らせておくのはもったいないと思ってしまうのも事実だ。


「俺もいずれチームを組むことになるんですか?」


「なるかもしれないし、ならないかもしれない。ぶっちゃけ!ぶっちゃけだ!君の能力は組織の内側で使ってほしい!君の能力は素晴らしい!でも同時に外部で頑張ってほしいという気持ちもある!ものすごく悩ましいところだよ!」


 またテンションが上がってきてしまっているなと、周介は話題の転換を間違えたなと少し反省していた。

 ドクはテンションが上がると妙に声が大きくなり、早口になる。身振り手振りがかなり大きくなるから見ていて飽きないが、それでも話が先に進まなくなるからこの状態になるのはなるべく避けたほうがよさそうだなと周介は思っていた。


「とりあえず、ドク、今後の俺の予定を教えてくれますか?あと連絡先とかも教えておいてくれるとありがたいんですけど」


「っとと、そうだったそうだった。決めなきゃいけないことも教えないこともまだまだ山積みだったね。それじゃあまずは……」


 そうして周介とドクはこれからの予定を話し始める。とりあえずは今週の水曜日に向けての話し合いをすることになった。


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