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アロットロールゲイン  作者: 池金啓太
一話「蒼い光を宿すもの」
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「えっと、ドクターから聞いてるかわかんないけど、とりあえず能力の詳細は省くから。それでいい?」


「いい。詳しく話すとやばいってのは聞いたから」


「んじゃ軽く説明だけ。あたしの能力は『人形劇の矜持(マトペットクレイズ)』見てわかると思うけど、人形を操る能力。最初はぬいぐるみしか動かせなかったけど、訓練してる間にマネキンとかも動かせるようになったんだよね」


「へぇ、能力が成長したってことか?」


「わかんない。ドクターは認識がどうとか言ってたけど、そのあたりはあたしもよくわかってないから後回し。で、最初はぬいぐるみで、しかも一つか二つくらいしか動かせなかった。だから少しずつ増やしてったの。同じ動きを複数のぬいぐるみにさせたり、数は少なくてもいいから別の動きをさせたりして。そうやって少しずつ増やしてった」


 特別なことは何もしていないように聞こえた。今周介が行っている事とあまり変わらない。複数同時に別の動きをさせてみたり、逆に同じ動きでもいいから数を多くしてみたり。周介で言うなら逆回転にしてみたり、強弱をつけてみたりといった話だ。


 特別なことはしていない。特別なことなど一切せず、彼女はこの場所までたどり着いたのだ。


 毎日の努力の結果、彼女はこの光景を作り出しているのだ。


 それを理解した周介は目の前の瞳という少女に尊敬の念を抱いていた。どのような背景があるのかはわからない。周介のように借金などを背負っているのかもしれないし、そういうことではないのかもしれない。


 だがここまで能力を操作するまでにはかなりの年月が必要だっただろう。かなりの努力が必要だっただろう。


 まだ能力をほんの少ししか操れない周介には、その努力が膨大で、果てしなく途方もないことだということが理解できた。もっとも、その理解さえも十全のものではないということも、周介はわかっていた。


 わかったふりというわけではない。上澄みしか理解できないのだ。今の周介では、頂に至るその一歩目しか踏んでいない周介からすれば、その頂へ至ったものの苦労などわかるはずもない。


「あんたの能力、見てた限り、その靴、ってかローラースケートを動かしてたし、道具の力を発揮するとかそんな感じの能力っしょ?こういっちゃなんだけど、試行錯誤するしか能力を操れるようになる方法とかないんじゃない?しかもあたしのと違って、あんた自分の体も同時に動かしてるんだし、難易度はあたしのよりは高いと思うよ」


 能力を見てどのような能力であるのかを瞳もある程度は予想しているようだった。その予想は間違ってはいない。


 実際周介は今ローラースケートの力を発揮しているといえなくもないのだ。実際はただ回転させるだけの能力なのだが、そのあたりは詳しく言わないほうがいいだろうというのは共通の認識だった。


「だからさっきまでの頑張ってるのが一番いいと思う。って言ってもあくまであたしの意見だから。決めんのはあんただし」


「ん、ありがと。とりあえずちょっとやる気出た。もし派手に事故りそうだったら助けてくれな?」


「助けろって言われたって、あたしの能力じゃ大したことできないんだけど。んじゃ、曲がるところとか、ぶつかりまくってたところにクマさん配置しとくから。クッションくらいにはなるっしょ」


 瞳がそういうと先ほどまでクマっぽい動きをしていたぬいぐるみが二足歩行で歩きだし、先ほどまで周介が何度かぶつかっていた壁の部分に移動し始める。


 そして移動を終えると、両手を広げていつでも飛び込んできていいぞとアピールしてきている。


「動きはなんていうか、人並みなんだな。ボクシングとか格闘技とか」


「そ、あたしの能力は数を出せる分、発揮できる力はそこまで高くないって感じ。でもあたしは結構気に入ってるけどね」


 瞳がそういうと、散らばっていたぬいぐるみだけが瞳や周介の周りに集まってくる。


「こうやって集めて動かすこともできるし、なんかちょっととってほしいときとかも思うが儘だし。慣れちゃえば自分の体と同じくらいに操れるから、結構楽」


「そういうもんなのかな」


「能力って、自分の中の感覚だから、結局自分が操ることができるかどうかは、自分次第だって、ドクターは言ってた。あたしもそうだと思う。あとはあんた次第だって」


「それもそうか。ありがと安形、ためになった」


「ん。あんたこれからここで訓練すんの?」


「一応そのつもり。少なくとも体を動かしながら能力を発動できれば楽になるのは間違いないから、なるべくこっちで訓練させてもらえるようにお願いする」


「……ふーん。じゃあ、まぁあたしがいたら訓練の手伝いくらいはやったげる」


「マジでか。でもいいのか?」


「別にいいし。一人で訓練してても暇なだけだから。連絡先交換しよ。訓練するとき声かけて。暇だったら手伝ったげる」


 携帯を突き出して瞳は周介と連絡先を交換させる。周介の携帯に新しく瞳の連絡先が登録されると、瞳は再びサングラスをかけて携帯を操り始めた。


「あと、目、隠せるような装備を早く作ってもらったほうがいいよ。能力は使ってるところすぐわかっちゃうから、そういうのを隠すのは大事だし」


「なるほど、確かに。いろいろと悪いな」


「別に。いろいろ大変だってのは聞いてるから」


 誰から何を聞いたのかは知らないが、少なくとも瞳は多少周介のことを知っているらしかった。


 とはいえ能力のことについて相談できる人物ができたのは周介にとってかなり大きな収穫だった。


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