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アロットロールゲイン  作者: 池金啓太
五話「同年大太刀小太刀」

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 牧場というのはいろいろとできることが多い。特に観光牧場となっているこの場所では多くの見世物や体験コーナーがある。


 ただ周介たちにとって問題なのは、時間がないのだ。


 移動時間は馬鹿にならず、体験するために並んでいる場所も多いため、できることは限られている。


 そのため周介たちはなるべく集合場所であるレストランの近くにあるコーナーで体験することにしていた。


 今周介たちがやっているのは乗馬である。乗りやすい大人しい馬の上に乗り、職員に誘導される形で乗っている。自分で手綱を引くわけではないため、完全にただ乗っているだけの状態なのだが、それでも普段あまり見ることのない高さに加え、独特の振動が尻から腰に掛けてに響く。


 それを体験した全員が思ったことは「ケツが痛い」ということだった。


 乗馬などは乗っている人間こそ軽々とやっているように見えるが、実際にやってみると普段使わない筋肉を使う。


 鞍の上に乗り、鐙に足をかけているといっても体を安定させる方法がわからないうちは太ももやふくらはぎ、そして体を支えるために腹筋や背筋など、ありとあらゆる筋肉を使う。


 普段使わない筋肉を使っているということもあり、その疲労は通常のそれとは違うものがあった。


「おーい、こっち向け。写真撮ってやるから」


「へっぴり腰になってんぞ!もっと背筋伸ばせや!」


「うるせぇ!結構怖いんだよ!ついでに言うとバランスとりにくいんだよ!やってみろやぁ!」


 周りから飛んでくる同級生からの野次に反論しながら周介たちは何周かした後で馬から降りる。


 馬はじっと周介たちの方を見た後で次の客を乗せるべく準備をしていた。


「にしても馬って結構でかいよな。高さ二メートルくらい普通にあるだろこれ」


「上に乗るってだけでも結構大変だもんな。こんなのにスパッと飛び乗れたら格好いいだろうに」


「映画とかゲームだとよくあるよな。後ろから飛び乗ろうとしてそのまま蹴られそうだけど」


 草食動物というのは基本的に背後に回られるのを嫌うものだ。相手に敵対心がないとしても、自らの安全を確保するための行動は忘れない。


 牧場経営などをしている人間ならば、草食動物の蹴りがどれほど強いかは語るまでもないだろう。周介たちは自らが乗っても全く意に介さない馬の筋力を体感し、蹴られたら間違いなく死ぬだろうなと直感的に理解していた。


「馬に蹴られて死んじまえなんて言葉があるけどさ、まさにそれだよな。牛とかもそうだけど、普通に戦ったら負けるもんな」


「スペインだっけ?あの暴れ牛と戦う祭り。あれ見てると人間って弱いなってすごく思うよな。完全に吹き飛ばしてんだもんよ。紙切れ同然だよ」


「質量と速度には勝てないってことか……物理って偉大だな」


 単純に人間と牛や馬の体重を比較しても、人間の何倍もの重さがある牛と馬だが、それでも人間よりもさらに速く走ることができるのだ。


 単純な体当たりで勝てる道理はない。正面衝突すれば間違いなく吹き飛ばされるのは人間の方だろう。


 そんなことを話していると周介たちの腹が空腹を告げる音を奏でだした。そろそろ昼になろうという頃だ。


 短い時間であったが、少なくとも牧場らしいことは体験できたと周介たちは満足していた。


「よし、そろそろ時間だ。行こうぜ。焼肉焼肉!」


「食うぞ!めっちゃ食うぞ!肉!肉!」


「出るのって牛か?豚か?それとも……馬か?」


 先ほどまで自分たちが乗っていた馬を見て、周介たちは目を細める。確かに馬の肉は食べることもできる。


 今は小さな子供を乗せている馬を見て、まさかそんなことはないだろうと首を横に振った。


「馬はあれだ、食用に育てないとまずいだろ。ここで年老いた馬を……なんてことはない……と思うけど」


 否定しきれないだけに少し複雑な気分だった。この場所でかつて誰かを乗せた馬が食卓に並ぶことがないことを祈るばかりである。


 もっとも、肉を食べるというのはそういうことだ。誰かが育てた、あるいは生きてきた動物を殺して食べるということだ。


 周介たちはかすかにではあるが、自分たちがこれまで食べてきた肉などがこのようにして育てられてきたのだということを知り、少しだけ食べ物に対する考え方が変わっていた。


「とにかく肉だ!肉食うぞ!」


「よっしゃ!馬だろうと羊だろうと何でも来いだ!」


「肉!肉!米!肉!肉!」


「野菜も少しは食べようぜ?」


「じゃあお前野菜係な」


「ふざけんな!俺にも肉食わせろ!」


 もっとも、そんなセンチメンタルな気分は男子高校生の肉に対する欲求の前には三十秒も持たなかったわけで、周介たちは駆け足で集合場所にもなっている焼肉のレストランへと向かっていた。


 当然、他の生徒たちも同じことを考えたのだろう。近づくにつれて生徒の数は増え、レストランはほぼ貸し切り状態となっていた。


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