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アロットロールゲイン  作者: 池金啓太
五話「同年大太刀小太刀」

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 アブノーマル三銃士。そんなあだ名をつけられてしまった周介たちは食堂に続く廊下から食堂での朝食の時間もばっちりとからかわれてしまっていた。


 だがそれ以上に周介たちと運命を共にする寮の男子生徒たちの結託が強かった。


 周介たち、所謂変態の頭目ともいえる存在が主に目立ってくれているためか、冷やかしながらも自分たちも一緒に行こうと乗ってくるものが多かったのである。


 当然そんな男子たちを、女子は侮蔑の視線で見ているわけだが、別に牧場にて乳しぼりをすることがいったい何が悪いのかと逆に開き直る始末。


 教師陣もまさか胸の柔らかさなどを比較するために乳しぼりに向かうものがいるとは思っていなかったのだろう、呆れかえるほかない状態になってしまっていた。


「諸君!我々はやるぞ!」


 真鍋の音頭に従って男子生徒の野太い声が食堂に響き渡る。完全に暴動に近い動きになってしまっていた。


 高校に入って初めての旅行。一時のテンションに身を任せた結果といえるだろう。


 もちろんそのノリに乗ることのできていない生徒もいる。だが大半の男子生徒が面白半分でこのノリに乗ってしまっていた。


「勘違いしてはいけない!我々はただ乳しぼりをするのだ!決していかがわしいことを目的としてはいけない!そう!建前はだ!だが本質は違う!我々は!自らの好奇心と性欲に従って行動するのだ!何故か!我々が男子たるが故だ!」


 真鍋の演説が続く中、周介と手越はその両脇に控える形で座り、うんうんとうなずいている。ここまで来てしまったからにはもう突き進むしかない。それに周介や手越も、このイベントはひそかに楽しみにしていたのだ。


「男子サイテー!」「牧場行くなし!」「引っ込め―!」「変態!」「大人しくしててよ!」「うるさいから!」


 もちろん演説を邪魔するべく、女子の姦しい罵倒が聞こえてくる。だがその罵倒さえも真鍋は演説の武器にしていた。


「このように我々は他者から見れば、蔑まれるような行為をするのだろう!だが!だがしかしだ!諸君!短い高校生活において、自分の好奇心を、性欲を、偽ったままでいいのだろうか!いいはずがない!三年という短い間!我々は!自らの好奇心に!性欲に!正直であるべきであると俺は思う!故に行くぞ!俺たちは乳しぼりを満喫する!大いに!大いにだ!」


 まるで政治家の演説のような盛り上げ方だ。話のうまさなのか、声のトーンの変化なのか、男子の多くは拍手と野太い歓声によって真鍋の演説に応えていた。


 もはや止まらない。一学年の男子全てが牛の乳しぼりに駆けこまん勢いだ。


 食事中にこれだけの騒ぎを起こしているということで、教師がゆっくりと真鍋たちの下に近づこうとする。


 だが男子生徒たちが近くを固めているせいもあって近づくことができずにいた。こうなってしまってはもはや止めようがない。


「諸君!我々は牧場を満喫する!しかし忘れてはいけない!他にもお客さんはいるんだ!我々は紳士に振る舞おうではないか!紳士であるがゆえに変態であることを許容されるのだということは過去の歴史が証明している!我が校の名を貶めることなく、純粋に楽しもう!」


 既にこの状況が自分の高校の名を貶めているのだが、そのことには気づいていないのか、それとも見て見ぬふりをしているのか。


 どちらにせよ、周介、手越、真鍋の三人は完全に変態のレッテルを我が物としていた。


 評価が変わらないのであればいっそのこと突っ走ってしまえばいいという結論に至ったのだろう。単純にテンションが上がってしまっているというのもあるのかもしれない。


 演説を終えた真鍋は手越と周介と手を取り合い硬く握手をする。その光景を見て男子全員がスタンディングオベーションをしていた。


「ナイス演説だ真鍋、お前にこんな特技があったとは」


「なに、ちょっとした趣味みたいなもんだ。これくらい朝飯前、実際には朝食中なわけだが」


「誰がうまいことを言えと。だがグッジョブだ。これで俺らの仲間が一気に増えたことになる。これは心強いぞ」


 周介と手越は真鍋の功績をほめたたえながら固く握手をし、その肩を叩いている。これほど口の回る奴だったとは思わなかったのだろう、純粋に真鍋を褒めたたえていた。


「あとは順番を決めるべきだろうな。これだけの人間が動くとなるとかなり混むぞ?他の客もいるだろうし」


「少なくとも回るべき場所は他にもあるんだ。ローテーションを組んでおけばいいだろ。そのあたりはクラス別々なところを利用して、うまくローテ組もうぜ」


「それもそうだな。よし、手越、百枝、お前たちのクラスのローテーションは任せた。俺のクラスは任せろ」


「おうよ」


「任せとけって」


 互いに肩を叩きながら親指を立てる周介たちを見ながら、未だ興奮冷めやらぬ男子たちを視界にいれ、ため息をつくものがたくさんいた。


「……むさくるしい……」


 そんな光景を見ながら瞳が呆れてしまうのも無理もない話だろう。ほとんどの女子がもう何を言っても仕方がないということを理解したからか、あきれながら朝食を続けていた。


 もちろん、こんな騒ぎを起こした周介、手越、真鍋の三人は教師からしっかりと叱られていたのは言うまでもないことだろう。


 周介たちが訪れた観光牧場はやはりというか当然というか、かなりの敷地面積を有していた。


 入場時に地図の記載されたパンフレットを見た際に抱いた感想としては『一日ではまず見切れない』というものだった。


 それは単純にそういった施設が多いということが理由ではなく、単純に敷地が広すぎるために移動時間がかかるというのが理由だった。


 牧場の敷地内に移動用のバスが出る程度には広い。単純に端から端まで移動するだけでも何時間かかるか予想もできなかった。


「さて、これから昼までの三時間は自由時間とする。昼にこの牧場の中にあるレストランに集合。そこで昼食をとってから移動となる。時間に遅れたものは昼飯抜きだから忘れないように」


 昼食は焼肉ということで男子生徒は気持ちを高ぶらせているのだが、その高ぶりが果たして焼肉だけが原因かと言われればそうではない。


 朝食の際に上げられたボルテージを下げられないままになっているものがほとんどだった。


 浮足立っている男子たちを見て、教師も危険であると判断しているのか、咳ばらいを一つしてから全体を見渡し、その中にいる周介、手越、真鍋の三人をしっかりと注視する。


「えー、見てわかるように、我々の他にもお客さんがいる。決して迷惑をかけないように。そして騒ぎすぎないように。もし騒いだらその時点でそいつの自由時間は終了となるため肝に銘じておくように!」


 念には念をということなのだろう。注意に注意を重ねることで男子たちの暴走を抑えようとしたのだろうが、それは逆に静かにやってしまえばいいのだという考えを男子たちに植え付ける結果になる。


 楽しむ子供を止めることができないように、単純に楽しもうとしている男子たちを教師が止めることができないのもまた仕方のないことなのかもしれない。


「それでは解散!」


 教師の声とともに、一斉に動き出す生徒たち。当然その中に周介たちもいた。そしてやはりというべきか当然というべきか、手越と真鍋もそれぞれ動き出している。


「さぁ行こうか諸君。静かに、紳士的に」


「おうよ。胸を揉みしだきに行くぞ」


「鷲掴みにしてやるよ。待ってろメス牛」


 アブノーマル三銃士と名付けられた三人は、その渾名にふさわしい発言をしながらそれぞれ何人かの男子を引き連れて牛の乳しぼり体験ができる場所へと歩みを進めていく。パンフレットなどで位置は把握済みだ。そこへの移動手段もすでに分かっている。


 時折放たれる女子からの侮蔑の視線に全くひるむことなく、周介たちは堂々と進んでいた。


「あんたらマジで行くんだ……」


 そんな中、周介たちに話しかけてきたのは途中まで同じ方向に向かうであろう瞳だった。瞳はクラスメートの何人かとどこかへ行くのだろう、周介たちへの侮蔑の視線を忘れずに呆れかえっているようだった。


「止めてくれるな安形。男にはやらねばならない時があるんだ」


「アホすぎて止める気もしないっての……また変な……って言うか変態だって噂が加速するけど、いいわけ?」


「もう今更だろ。噂じゃなくて事実として扱われるだろ。朝の一件でもう吹っ飛んだ。もういいやって感じ。開放感あるぞ、不思議な気分だ」


 昨日の実戦の後で妙な興奮状態が続いているのか、それとも単純に盛り上がってしまったテンションを鎮めることができないのか、どちらにせよ周介は妙な気分のままだった。


 そしてそれは手越も真鍋も同じなのだろう。良い事とは思えないその状態に、安形はため息をついてしまう。


「瞳、そんなの置いといていこう。変態男子!」


「近寄んないでよ変態」


「さっさと行こ行こ」


「ん……それじゃね。ほどほどにね」


 軽く女子からの罵倒を受けてしまった周介たちは逆に胸を張って進んでいた。


「いやぁ、やはり女子からの侮蔑というのはいいもんだな」


「真鍋……お前そっちの癖があったのか……それは俺も賛同できんな」


「何を言うか。女子から罵倒されるとかご褒美だろ。お前もそう思うよな百枝」


「悪い、そこに関しては俺もわからん。どっちかって言うと恥ずかしがってる女子を見るのはいいと思う」


「照れてる感じ?えー……俺はどっちかって言うと困ってるところのほうがいいな」


 周介は羞恥を、手越は困惑を、真鍋は侮蔑を。


 三人のそれぞれの性癖が異なる瞬間、まるでゴングを鳴らしたかのように一斉に三人の間に火花が散る。


「わかってないな!女子が罵倒するって言うのはそれだけ自分に興味を抱いてくれている証拠だぞ!罵倒イコール愛なんだ!」


「いやいやいや、罵倒は単純に嫌ってる証拠だろ。それより恥ずかしがってる姿の方がグッとくるだろ!普段見られない表情とか最高じゃね?」


「待て待て、困ってる顔とか不安そうな顔の方がそそるだろ!加虐心って言うのか?同時に庇護欲って言うのか?そういうのを掻き立てられるだろ!」


「わかってないわかってないお前らは何もわかっていない!いいか!女子から汚物のように扱われるって言うのはなぁ!」


 加速する性癖トークに、周りにいる男子ですら「またか」と思いながらも教師に目をつけられないように気を付けていた。


 もうすでに目をつけられているのかもわからないが。


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― 新着の感想 ―
[一言] 神回。この演説文は池金さんじゃないと書けないと思うw最高です!
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