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アロットロールゲイン  作者: 池金啓太
一話「蒼い光を宿すもの」
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 何度転んだだろうか、何度派手に転ぼうと、周介はとっさに反応して怪我をしないように心がけていた。


 各種プロテクターが周介の体の一部を守ってくれているとはいえ、それなりに速度を出している状態で転がるのだ。当然痛い。


 幸いにして、完全な平地であることが周介の怪我が少ない理由にもなっていた。とはいえ、怪我がないわけではなかった。


 バランスを崩したり、曲がろうとして速度が高すぎたりしたせいでどうしても地面に叩きつけられ転がるのだから、当然擦り傷や打撲に近い傷もできている。


 節々が痛いが、それでも走ることができるように要所要所だけはしっかり守っていた。


 足首や膝、そして腰や腕など、走ることに対して必要な部分だけはしっかりとかばっている。


 とはいえ、それにも限界があるためどうしても多少の負傷はしてしまうわけだが。


 だが、転び続けた甲斐もあってか、転ぶたびに、そして走り続けるたびに転ぶ回数がどんどんと減ってきている。


 最低限の回転の強弱とでもいえばいいだろうか。直線部分での加速と、曲線部分での減速、回転の力のかけ方というものを、少しずつ理解し、なおかつその時に必要な体の姿勢や動き方なども徐々に学習しつつあった。


 時には肘や膝についているプロテクターを床にこするようにカーブすることも少なくない。あるいはそういった行動を意図的にとってブレーキ代わりにもしていた。


 ローラー部分で周介がコントロールできるのは、せいぜい回転を弱めたり強めたりする程度だ。そのために減速するためにはこうやって強引にブレーキをかけるほかない。


 もう何度目だろうか。思い切り転倒した時に体ごと床を滑り、壁に緩やかにぶつかる。未だ回転し続けるローラーの回転を止めるために、周介は能力を解除して壁に押し付けて回転を止めようとするが、その時にふと気づく。


 この回転している状態で逆回転の力を加えるとどうなるのかと。


 回転の向きなども、一応周介はコントロールできる。前進方向への回転と、後退方向の回転。これを思いついた周介はとりあえず実践してみる。


 すでに前方向に対して高速回転し続けているローラーに、逆方向の回転の力を加えると、ゆっくりと回転が止まっていき、一気に逆方向へと回転していく。


 ブレーキ、というのとは少し違うかもしれない。回転しようとしているローラーに対して、逆方向の力を加えることによって、回転そのものを緩やかにしている。


 今は地面に接していない状態であるため、これが実際に地面を転がる時どのような挙動をするかは周介には分らなかったが、とりあえず試す価値はありそうだった。


 体の節々から発せられる痛みを我慢しながら、周介はゆっくりとスタートする。まずは普通のローラースケートと同程度の速度から、徐々に加速していく。


 ドクは理論上は車と同程度の速度が出せるといっていたが、周介はそこまでの速度を出せる気はしなかった。


 ゆっくりと、だが確実に加速し、曲がろうというタイミングで逆方向の回転力をローラーにかけていく。

 すると唐突にローラーが減速し、前傾姿勢になっていた周介はそのまま慣性に従って思い切り転倒してしまう。


「っつ…そっか、そりゃそうだ。能力と一緒に体も一緒に動かなきゃいけないのか」


 先ほどまで周介は自分の体を使ってブレーキをかけていたが、今度は能力を使ってブレーキをかけようとしている。能力でブレーキをかけると同時に、体の姿勢を変えなければ今のように倒れてしまう。


 周介が操っているのはあくまで足についているローラー部分だけだ。ローラーだけ加減速しても、正しい姿勢を維持していなければ当然体はその加減速についていけない。


 体を動かしながら能力をコントロールする。それは言葉にすればそこまで難しいことではない。だが今まで全く使ってこなかった部分を、新しく使い、同時に今まで使ってきた部分と連動させる。


 これはなかなか容易にできることではない。訓練によっていずれはできるようにはなるだろう。だが簡単にできるほど単純なものでもなかった。


 まずはゆっくり、加速と減速の練習をする。回転の向きを変えると同時に、周介も姿勢を調整して問題なくその加減速に対応しようとする。


 何度も転倒しながら、だがそれでも先ほどに比べて派手な転倒は少なくなっていく。尻もちをついたり、前に倒れ込むといった、怪我を負わない倒れ方になっている。


 だがそれも徐々に少なくなっていく。緩やかな速度での転倒が少なくなってくると、周介は徐々に速度を上げ始めていた。


 先ほどまでの緩やかな速度ではなく、確実に早く、そして安全な走行へと移行し始めている。


 自分の訓練に夢中になっている周介は、近くで訓練をしているもう一人の能力者の動向には全く意識を向けられていなかった。


 それだけ高い集中を維持しているということが、この場にいる能力者にも理解できていた。


 それを邪魔するほど、その能力者も野暮ではない。自分も同じようなことがあったのだと思い出しながら、その様子を見守っていた。


 そしてその光景を見て、ドクは満足そうに笑みを浮かべる。


 周介が何をやろうとしているのか、そして何をしているのか、ドクには何となく理解できたのだ。


 そしてその頭の中では周介の新しい装備などを考え始めている。


 周介が今身に着けている装備は最低限の試作品でしかない。これから周介が使える、周介だけが使える個人装備を考え、それを実装するための構想を練っているところだった。


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