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アロットロールゲイン  作者: 池金啓太
一話「蒼い光を宿すもの」
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0023

「なかなか前途多難だね。自転車に乗るよりは難しいかな?」


「難しいってもんじゃないですよ。能力の加減がこんなに難しいとは…」


 先ほどまでは全力でとにかく発動する、いわゆるスイッチのオンオフ、百かゼロかのコントロールを行っていたが、今度はその強弱をコントロールしていかなければならない。


 そういう意味ではこの装備は最適だろう。ミスすればそれだけ自分の体に痛みが返ってくるのだから。


「全力を出すことはできる、そして能力のオンオフもできるようになった。若干ではあるが手加減もできるが、その加減の調整は今後の課題になるだろう。訓練のいい指標ができた。まずは訓練場の中を自由自在に動けるようになることだね。まずは平地訓練からかな?」


 ドクに続いてゆっくりと動いている周介が連れてこられたのは、広い空間だった。大きな部屋というべきなのだろうが、その広さは体育館なんて目ではないほどに広かった。


 周介は昔見に行ったサッカーの試合を思い出していた。圧倒的に広い空間に何人もの人がいて、その人を見下ろしている。


 人は米粒ほどに小さく、手を伸ばしても全く近づいた気がしない、そんな広く遠い距離感を覚えるほどの広さ。


 奥行きも高さも一体どれくらいあるのか把握できなかった。少なくとも周介の記憶の中に、これほどの大きさを持った個室は存在しない。


「ここは訓練場の中ではかなり広い部類さ。完全にフラットな床を作り出しているから、操作性を向上するには一番適している。特に君の今の状態ならね」


 少し力を加えるだけで一気に加速してしまう周介の能力の今の状態では、下手に障害物があると危険極まりない。


 誰かにぶつかっただけで怪我をさせてしまうこともあるだろう。


 見た限り、この部屋の中にはそれなりに人がいるように見えた。中には人には見えないようなものも動いているが、あれも能力の一種なのだろうかと内心首をかしげてしまう。


「幸い、今ここを使っているのは一人だけのようだ。ぶつかる心配はあまりしなくてもいいよ」


「え?一人?」


 周介の目には何人もの人がいるように見えている。だがどうやらあれらは人間ではないらしい。あるいは人間ではあるが分身か何かなのかもしれない。


 どちらにせよ、周介が能力の訓練をするにはうってつけといえるだろう。


「能力の加減を覚えるなら、低速で行うよりも高速で行ったほうがいい。少なくとも君にはそっちの方が向いているように思えるよ」


「そう、ですか?」


「残念ながら確証はないけどね。何となくそう思うんだ。僕の勘は結構当たるよ?何せ結構な人間を見てきたからね」


 ドクはそう言いながら部屋の一角にある休憩室に入っていく。すると数秒してこの大きな部屋にあるスピーカーがハウリングしながらドクの声を響かせていた。


『安形君、これからこの間入った新入りの人が能力の訓練をするよ。ぶつかりそうになったり、危なくなりそうだったら助けてあげてくれるかな?』


 どうやらこの部屋で訓練をしているのは安形という名であるようだった。いったいどのような能力だろうかと思いながら周介はこの部屋の中にいる人々に目を向ける。


 スピーカーの声に反応するかのように飛び跳ねたり手を上げたりと、反応は様々だ。これが一人だけの能力によって成り立っているということに周介は疑いの感情さえ抱いてしまう。


 だがドクが嘘をつく理由はないのだ。周介はどんな能力であるのか、それを把握してやろうと少しだけ小さな目標を設定しながら軽く屈伸する。


 能力を発動することはできるのだ、あとはその調整をするだけ。


 力の強弱。周介は自分の頭の中でイメージを作っていく。ただオンオフをするだけではだめなのであれば、今度はそれを調整するためのイメージが必要だ。


 歯車を回すだけのイメージでは足りない。周介はゆっくり息を吸いながら能力を発動していく。


 その目に蒼い光が宿ると、周介の履いているローラーが回転していく。徐々に加速していく中、周介はその加速を止めるつもりはなかった。


 これだけの広さがあるのだ。ちまちまとした制御をしていても仕方がない。


「ぶつかったらごめんなさぁぁあい!」


 かなりの前傾姿勢になりながら、周介は部屋の外周を走り始める。ローラースケートの動きには少しは慣れてきた。あとはこのスピードに慣れるだけ。


 そして速度に慣れたなら、その次は能力を少し弱くする。


 少しずつでいい、少しずつできるようになっていけばいいのだ。


 ドクに言われた通り、最初はできないのが当たり前なのだ。訓練をするということは、できないことをできるようにするということなのだ。


 周介はまだ全力で能力を使うか、ほんの少しの手加減程度しかできない。今はまだできない。


 だからできるようにする。そのために訓練する。失敗するのは当たり前だ。当たり前なのだ。まだ周介はそこまで成長できていないのだから。


 始まりの智徳(プレイスオール)。そう名付けられた自分の能力がいったいどれほどの性能を持ってるのか周介もまだ完全には理解できていない。


 教えられたとしても、それを実感できていない。


 素晴らしい能力だといわれても、それを自分自身納得できていない。だからこそここで納得してやろうと、周介は思っていた。


 そして、勢いよく走りだして十数秒後に、周介は体の操作を誤って思い切り転んでしまう。加速していたのだから当然地面を転がりまくる。


 そんな様子を、この部屋にいる一人の能力者は眺めていた。


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