0022
「まぁ、自分以外の能力をまともに見ていないんじゃ強い弱いとかの判断も難しいね。能力の訓練を次のステップに進めるついでに、ちょっと見学してみようか」
「見学って……いいんですか?味方の能力は知らないほうがいいんじゃ」
「そりゃね。でもこれから君は味方の能力をよく見ることになるんだ。詳細までを知る必要はなくても、どんな能力があるのかくらいは把握していても損はないのさ。だから僕も、見た能力がいったいどんな能力であるのか説明はしないよ。君が見て、どう判断するかは君次第なのさ」
それはある意味クイズのようなものだ。見た能力がどのようなものであるのかを判断する。断片的な情報からそれを察するのはなかなか難しいだろう。
周介も同じように相手から観察されるのであろうということは理解できていた。
「さて、それに際して君に一つ装備をあげよう。これから君が活動するうえで必要不可欠なものだ。まだ試作品だけどね」
そう言ってドクは一つの箱を周介に渡す。所謂アタッシュケースと呼ばれるそれを渡すと、ドクは早く開けてほしいといった表情をしている。
とりあえず周介はその箱を開けてみることにした。するとその中には靴が入っていた。より正確に表現するのであれば、それはローラースケートのようなものだった。そして各種防具、肘、膝、腕や足に取り付けるタイプのプロテクターも同封されていた。
どれも非常に軽いが、随分頑丈なつくりになっているのがわかる。
一晩でこれを作ったのだろうかと、周介は目を丸くしていた。
「まずはローラースケート、君がこれから動くうえでこれがあるだけで機動力は大きく変わるだろう。能力を使ってこれを動かすんだ。それだけで計算上は車と同じくらいの速度が出せるよ」
「このプロテクターは、転倒防止ですか」
「そう。あとこっちのヘルメットも一緒につけておくことを勧めるよ。残念ながら専用のヘルメットはまだできてないんだ。本気で作ったのはローラースケートまで。各種プロテクターは急ごしらえだから、まだ君の体に合わせて最適化されてない。使用感を教えてくれればすぐに修正するよ」
「……この装備ってドクが作ったんですか?」
「ふふん、その通り。正確には『僕ら』が作ったといったほうがいいね。この組織にはそういったチームもあるんだ。装備を作る専門のチームって言えばいいかな?そのあたりはおいおい、君が一人前になったら教えていくさ。まずは訓練のために、そしてすでに訓練している人たちに自分の顔を見せてくるといい。新しい仲間としてね」
渡された装備をとりあえず周介は近くにあった椅子に座って身に着けていく。ローラースケートなどは今までの人生でやったことは数回程度しかない。スケートに似てるが、その動きは微妙に違うため慣れるのに時間がかかるかもしれない。
しかも動力を自分の足で押したりするのではなく、能力によって得るのだ。感覚的にローラースケートとはまた異なる可能性がある。
とりあえず周介は能力を非常に弱く発動しようとする。今まで全力で回す事しかしてこなかったが、加減をすることを試しているのだ。
ゆっくりと回る。回転のイメージは周介の中でできていた。
そのイメージは歯車に近い。それが強い力でゆっくり回るイメージだ。
周介は自らの履いているローラースケートのローラー部分が回転しているのを確認してから能力を一度解除し、立ち上がる。
やはり普通の靴に比べるとバランスはとりにくい。だが動いていないのであれば立つことくらいはできる。
「よし、じゃあそのまま移動してみようか。訓練場はこの先にある。まずは練習だ。僕についてくる程度の速度で動いてごらん」
「こ、このくらいなら……たぶん、できる、はず!?」
ドクが先を歩いたのを見て、周介は能力を発動する。瞬間、両足についたローラーが勢いよく回転を始め足だけが急速に前へ。当然体はその動きについていくことができず周介は勢いよくひっくり返ってしまう。
「うわぉ、綺麗にひっくり返ったね。いやまぁ、何となく予想はしていたけど。大丈夫かい?どこか強く打ったりしたかな?」
「だい、じょうぶです。くっそ……!もうちょっとゆっくり、ゆっくり……!ゆっくりだ、ゆっくり……!」
ゆっくり、ゆっくりとつぶやきながら、周介は立ち上がる。先ほどのように倒れないように今度はかなり前傾姿勢になっている。
そしてゆっくり動かすというその意識が強いためか、周介の体はゆっくりと前へと進んでいく。明らかにその速度はゆっくりだ。歩くよりもずっと遅い。
「なかなかスローリーだけど、まぁ最初はそんなものさ。それじゃあちょっとずつ加速していこうか?」
「ちょっとずつ……ちょっとずつ……ちょっとずつぅおああぁああぁ!?」
ドクに言われた通り少しずつ加速していき、ゆっくりと歩く程度の速度になり、早歩き程度の速度になったかと思ったら急速に回転が早まり、周介の体は一気に前へと運ばれてしまっていた。
前傾姿勢をとっていたおかげで、少し速度が上がっていたおかげで、先ほどのように転倒することはなかったが、当然コントロールできていない速度で前進したのだ。周介はその速度のまま壁に激突することになる。