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アロットロールゲイン  作者: 池金啓太
五話「同年大太刀小太刀」

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 バスでの移動は比較的スムーズに行われていた。


 そう、バスの中でカラオケ大会が始まってしまったことを除けば。


 バスの中で何をするわけでもなく雑談するといっても自然と話題は尽きるものだ。特に高速に入ってからは見える風景も一定のものになってしまい、ビル群をかき分けている間に何かないかという話題になった時に、このバスにカラオケがついているということを一人の生徒が発見してしまった。


 バスの中でカラオケができるということに、生徒たちは単純にテンションが上がってしまったのだろう。


 周介たちの所属する三組の担任である志島も、この勢いを止められる気がしないのか、完全に流れに任せてしまっているような節があった。


 そうした経緯で始まったカラオケ大会。当然歌いたい人間が歌うという流れになるのだが、やはりというか当然というか、流行りものの歌が流れることになる。


 上手い下手はともかく、若者向けの曲が多くなるのは仕方のないことだろう。アイドルの曲、ドラマの主題歌、アニメの主題歌、テレビのCM等の曲、様々だ。


 そんな中でも白部は眠り続けていた。耳栓でもしているのかは不明だが、少なくともピクリとも動かない。


「おい百枝、お前もなんか歌えって」


「俺?何がいいかな……ってか何があんの?」


「ほい本、今時本ってのもあれだけどな」


「まぁバスの中だから仕方ないんじゃね?えっと……結構新しいのもあるな……」


 話を振られてしまった以上、周介も歌いたいという気持ちがなかったわけではないために曲を探し出す。


 普段寮生活をしているとカラオケなどに行く機会は全くと言っていいほどにない。というか学校の外に遊びに行くということ自体がかなり少なかった。


 こうして歌うのはいつぶりだろうかと、周介は中学時代を懐かしんでいた。


「ってか百枝って歌上手いのか?」


「普通じゃないのか?自分じゃうまい下手ってわからないって。これ頼む」


「まぁそういうもんか。はいよ」


 周介が友人に本を渡して曲名を告げると、カラオケ用の機材に番号を打ち込んでいく。


 流れ始めた曲は少し前に流行った曲だった。周介が中学時代に良く歌った曲でもある。


 歌詞などが流れる画面を時折見ないといけないが、それでもマシに歌えた方だろう。圧倒的に上手いというわけではないが、下手というわけでもない、普通の歌声だ。昔はやった曲だったということもあって、その曲を聞いて懐かしんでいる者も多い。


 周介が歌い終わった後、曲を入れる者は少し前に流行ったものを多く入力していた。昔を懐かしむというわけではないが、その流れに乗ってしまうという話だろう。


「先生はなんか歌わないんですか?」


「え?私はいいです。たぶん私が知ってる曲は、みんなは知らないと思うし……」


 志島は困ったように笑う。実際この中で最年長になるわけで、当然曲の趣味も周介たちとは違うだろう。


 周介たち高校生がその曲を知っているという保証はない。もちろんその逆も然りだ。先ほどから志島が『こんな曲もあるんだなぁ』という表情をしていたのは何人もの生徒が目撃している。


 輪に入れないというわけではないのだろうが、今は生徒たちだけで楽しんでいるのだから楽しませておけばいいという気持ちなのだろう。


 そんなやり取りを見ているとき、組織の同世代間でかわしたグループメッセージの中に手越が『暇だ』という内容を送ってくる。


 周介は『こちらカラオケ大会勃発中』という内容を送ると、周りからは様々な返答が返ってきた。


『このバスカラオケついてたのか』と驚くものもいれば『悪いけどさすがに寝たい』という眠気を訴える者もいる。逆に『歌いたくないんだけど』という消極的な意見もある。誰がどの発言をしたのか、名前を見なくても何となくわかってしまうのが不思議なところだった。


 そして数分後に『こっちも始まったぜ』と意気揚々とメッセージを送ってくるものがいた。手越である。


 バスの中で暇をしていたから仕方がないといえば仕方がないのかもしれないが、これもクラスの中で友好を深めるためには必要なことなのかもしれないと周介は苦笑していた。


 そんな中『ってかちょい待ち、白部は?カラオケの中寝てんのか?』というメッセージが飛んでくる。周介は『寝てる。ピクリとも動かない』とアイマスクをつけて寝ている白部の方を一瞬見てから返事を送った。その反応は『マジかよすげえな』というものだった。


 おそらくは昨日一緒に夜に待機していた福島としては、この騒ぎの中で寝られることに驚いているのだろう。


 周りを気にせずに寝られるというのは一種の才能だ。少なくとも周介は周りが気になって眠ることは難しいだろう。


 白部のこういうところは見習うべきかもしれないなと、周介はアイマスクをつけたままの白部の方を見て苦笑していた。


「おい百枝!お前もう一回歌えって。なんか歌いたい曲が出てこない!」


「知らないっての。適当に入れろよ」


 歌いたいときに限って歌いたい曲が思い当たらないというカラオケでよくあることを繰り返しながら周介たちを乗せたバスは順調に高速を移動し続けていた。


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