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アロットロールゲイン  作者: 池金啓太
五話「同年大太刀小太刀」

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 周介たちの旅行の当日、周介たちは学校の校門部分に集まっていた。


 集合時間そのものが早かったということもあって、周介たちのように寮に住んでいる生徒はともかく、別の場所から通っている生徒たちは眠気を隠そうともせず欠伸をしている者も多い。


 まだ四月ということもあって、朝早い時間はまだ肌寒い。制服に身を包む彼らの中には、早朝の肌寒さに自らの体をさするものもいるほどだ。


「さすがにこの時間だとまだちょっと冷えるな……あともうちょっとすれば暑くなってくるんだろうけど」


「六月とかになってくるとそれこそ暑さの方がきつくなってくるぞ。俺は寒いほうがいいわ……まだ対策とれるだろ?熱いのはどうしようもないじゃんか」


 同室の周介と手越は荷物を持った状態で集合場所までやってきていた。


 暑さと寒さについてどちらが良いという議論はさておき、もうすぐやってくるゴールデンウィークの前にこれほどの冷え込みを見せる朝に、億劫な気分のものも少なくはないのだろう。


 だが同時に高校に入って初めての旅行ということもあって少し高揚した気分のものが多いのも事実だ。


 徐々に集まりだす生徒たちを見ながら、周介が視線を動かしていると、周介たちから少し遅れて瞳と桐谷がやってくる。


「よう、おはよう」


「おはよ……ちょっと寒くない?」


「ちょっとだけな。これから暑くなるだろうから我慢だろ」


「私は寒いほうがまだいいんだけどな……」


「あたしは暑いほうがいい。寒いのは手足が冷えるから嫌」


 どうやら瞳と桐谷の間でも暑さと寒さに対する好き嫌いはあるようだった。と言っても、少なくとも現状でどうしようもないのだが。


「っていうか、あんたらその荷物何?なんで一泊する程度でそんなに荷物あんの?」


 周介たちが抱えている荷物は少なくとも一泊するためだけの荷物とは思えない量だった。


 肩にかけるタイプの大きな旅行鞄とでもいえばいいだろうか。少なくとも一泊のためだけの衣服が入っているとは思えない量の体積である。


「もちろん遊ぶための道具に決まってんだろ。ゲームやらお菓子やらだ。今まで節約した分こういうところに使わないとな」


「……あんたこの前帰るための旅費がどうこう言ってたくせに……こういう時は無駄に使うんだ」


「って言っても千円程度だぞ?今時は安い菓子もたくさんあるしな」


「はいはい……まぁいいけど」


「そういう安形と桐谷も結構荷物あるじゃんか。何入ってるんだよ?」


 瞳たちがもつ荷物も、周介たちがもっている荷物に勝るとも劣らない体積をしている。だが比較的軽そうに持っているその姿から察するに、かさばるだけのものであるという予想はできていた。


「女子にはいろいろ持ってくもんがあんの。そういうの聞くのは野暮ってもんでしょうが」


「そうか、そりゃ失礼。って言っても一泊だけなのに必要なのか?」


「それこそあんたたちもおんなじでしょうが。なんで一泊だけなのにゲームなんて持ってくんの」


「だってあったほうが楽しいじゃん?なぁ?」


「あぁ、ないよりあったほうがいい」


「……聞いたあたしがバカだった」


「男子はこういうものだから、気にしてもしょうがないって」


「そうだった、変態三人組の二人だもんね」


 変態三人組という単語に、周介と手越は反応し、一瞬顔を見合わせる。


「おいおいなんだその変態三人組って言うのは。俺ら別に変態じゃないぞ」


「聞き捨てならねえな。俺らのどこが変態だって?」


「寮で騒いでる時点でお察しでしょ。もうちょっと自分の行動を顧みたらどう?」


「そうか?そんな変なことはしてないと思うんだけど……」


「そうだよな?別にそこまで変なことは……」


 自覚をしていないというのは恐ろしいものだと、瞳はため息をつく。ただ男子で面白おかしく話すということ自体は別に学校の中でもやっていることだ。それを寮の方にまで延長しただけの話。


 とはいえその内容そのものが問題になっているのだが、そのあたりは気にしても仕方がないのだろう。桐谷が言ったように、男子というのはそういうものなのだから。


「で、他の連中は?登校組の方。まだ来てないっぽいけど」


「あぁ、福島とかか。確かに遅いな。あとちょっとで集合時間だけど」


 周介たち寮生の組織に所属する人間と、実家から通っている人間、そういった人間の姿がまだ見えていなかった。


 福島、十文字、白部の三人なのだが、八割近い生徒たちが集まる中で彼らの姿はまだ見えていなかった。


「いや、近づいてる。走ってる」


 長い瞬きの後にそう告げた桐谷の言葉に、周介たちは校門の方を見る。能力を発動して把握したのだろう。僅かに湿り気のある、朝霧さえ出そうになっているこの環境では桐谷の水分によって索敵を行う能力はかなり高い効力を発揮するのだろう。


「三人仲良く寝坊……ってわけでもないだろうな。なんかあったのか?」


「特に聞いてはいないけど……なんかありそうだな。ちょっと話だけでも聞いてみるか」


 他にも何人か一般の生徒も走っているとはいえ、登校組の三人がそろって遅れてきているというのは少々気がかりだった。


 だが集合時間も迫っているということもあって、すでにクラス別に集まりつつある。周介はとりあえず白部に話を聞いてみようと考えていた。


「それじゃ全員集まったな、この後バスに乗って……」


 教師からの説明をしている最中、クラス別に集まる生徒たちの影に隠れるように、周介は小さな声で白部に話しかけていた。


「なぁ、今日は三人で遅れてどうしたんだ?」


 先ほどまで肩を上下させて息を荒げていた白部だが、さすがに少し落ち着いたのか、大きく深呼吸するように息をしている。


 どちらにせよまだ平静を取り戻しているとは言い難いが、それでもまともに受け答えができる程度にはなっていた。


「別の依頼を受けてた。私は後方支援、福島は待機、十文字はただ寝坊しただけだって」


 三人のうち二人は仕事で、一人はただの寝坊。どちらが不幸であるのかを同情するべきなのか少し気がかりではあったが、周介からすれば依頼の方が気がかりだった。


「その依頼って、昨日やってたってことか?」


「そう。昨日の夜からずっと。正確には一昨日からだけど。問題なく解決したから」


「それって、千葉の方面の?」


「千葉?違う違う、今回は長野の方。なんで?」


「いや、噂で千葉方面で追ってるやつがいるって話を聞いてさ」


 白部は何か考えているようだが、そのあたりの情報を仕入れていなかったからかむずかしい顔をしている。


 依頼にかかりきりだったせいでそういった情報を集めることができていなかったようだ。


「その話、あとで聞かせて。場合によっては情報集めるから」


「わかった。けどパソコンとかないと難しいんじゃないのか?」


「最悪携帯で調べる。ただそうするとだいぶ精度は落ちるし入れない場所とかもある。何より電池をものすごく消費するから可能な限りやりたくない」


 携帯を使って情報を集めるというと白部的には最終手段のようだった。


 携帯の電池がもたないというのもそうなのだろうが、そもそもの精度が低くなってしまうというのが白部的には問題なのだろう。


 情報を扱うものとして、精度の低い情報を扱うということはしたくないというのもあるかもしれない。単純にパソコンなどよりも扱いにくいというのもあるのかもわからない。


 もっとも、現状白部以外にこれ以上の情報を得る手段はないために頼む以外にないのだが。


「でも、その情報どこから出てきたの?」


「大門さんって知ってるか?あの人と手越から」


「……なるほど、なら信憑性はまずまずってところか……千葉方面、具体的にどこってわかる?」


「えっと、手越曰く茨城の方だって言ってた。どのあたりかって言うのはわからないけど。なんかマークしてるやつの目撃情報がって言ってたな」


 周介の言葉に白部は目を細める。いったい誰の事なのか、そして一体どうなったのか。そのあたりのことを考えているのか、その視線は鋭く、どこを向いているのかもわからない。


「具体的な話までは分からないか……最悪大隊長に話を聞くことも……わかった。こっちでちょっと調査する。何かわかったら連絡するから」


「サンキュ、悪いな、疲れてるだろうに」


「徹夜は別に珍しいことでもないし。バスの中で寝るから、ある程度は休めるし」


「きつそうだな。ってことは福島も徹夜か?」


「あっちは待機組だったからどのくらい動いてたかはわからない。まぁ、多少はマシってところだと思うけど」


 待機していた福島と違って、白部はずっと後方支援として動いていたのだろう。そのためか目の下にわずかにクマのようなものも見える。


 もともと前髪が長いうえに眼鏡をかけているためにそのあたりが非常にわかりにくいが、それでも疲労の色は強い。


「あんま無理すんなよ?なんかあったら言え、フォローするから」


「ありがと。けどあんまり話すると怪しまれるから、あまり干渉しないほうがいい。普通に騒いでるくらいなら平気だから」


「そうか?なら、こっちはこっちで楽しませてもらうからな。せっかくの旅行だし」


 そう言いながら笑う周介の横顔を見ながら、白部は小さくため息をついていた。


 周介がまだ普通の高校生として学生生活を楽しもうとしていることを知って驚いているのか、それともまだあきらめていないのかと少しあきれているのか、その表情は見ただけではわからない複雑なものだった。


「白部もせっかくだ。情報収集より楽しんだほうがいいんじゃないのか?」


「情報は何よりも早く正確なほうがいい。そういうのが状況を大きく左右させる。適当なことをやってると痛い目を見るから」


「なんかすごく重いセリフだな。情報が重要なのはわかるけど」


 最近の情報は比較的すぐに広まる。その正確性がどうかは不明だが、少なくとも大雑把な情報であればそれこそ秒単位で広まることも少なくない。


 その中で必要かつ確実な情報のみを選定して伝えなければいけないのだ。ある程度調べるのにだって時間と労力がかかるのはよく理解している。


 ネットが普及したことによった弊害ともいえるが、同じくそれによって得られる恩恵でもあるのだ。

 情報は命である。そしてその情報を素早く得られるように白部は努力しているのだろう。


「というわけで、バスの中はよろしく。基本寝るから」


 そう言ってカバンの中からアイマスクを取り出す白部。寝る気満々の様子に周介は苦笑するほかなかった。


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