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アロットロールゲイン  作者: 池金啓太
五話「同年大太刀小太刀」

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「というわけで、話は全く進まなかったよ」


「まぁ、ドクにそういう話をした段階である程度オチは読めてたけどな。って言うか、よくお前そういうことやる気になるよな」


「まぁ毎回迷惑をかけるのも癪だしな。そういうところからやってかないと、なんかむずむずするだろ?」


 周介は寮に戻って部屋の中で漫画を読みながら手越と話をしていた。手越は周介の動きを聞いた上で呆れている。


 長い事組織で過ごしてきた手越は周介が感じているような感覚は既に薄れてしまっているようだった。


 少なくとも、今更行動して変えようとは思えないらしい。


「にしてもよくもまぁそんなこと思いつくよな。普通ルールじゃしょうがないかって思っても仕方ないように思うけど?」


「いや、俺の場合どうしようかなって思ってた時にさ、大門さん知ってるか?あの人から助言もらったんだよ」


「大門さんって、善人さんか。なるほど、あの人にアドバイスもらったってことか……あの人もこの組織にいて長いだろうに、随分とまぁ……」


 大門が今年二十歳になるといっていたため、現在大学生としても、相当以上の長さを組織で過ごしてきたらしい。


 それが具体的にどの程度の長さなのか周介はわからなかったが、それほど長く組織にいて、その体制に未だに疑問と不満を抱けるというのはよほどのことなのだろうと、周介は今ようやく理解していた。


「手越はあの人知ってるのか?」


「あぁ、あんまり一緒に動いたことはないけどな。あの人の場合、出られる現場そのものが限られてるし」


「あぁ、大太刀部隊だもんな。そりゃ仕方ないか」


「まぁそれもあるし……まぁそれはいいや。で、それでルールごと変えてしまえと」


「いや、その後に安形とかと相談して決めた。んでドクに話に行ってこの様だ」


「大隊長に話してみてもいいと思うけどな。あの人、話は聞いてくれる人だぞ?」


「いや、さすがにいきなり大隊長はちょっと……」


 周介は大隊長である柏木に何か苦手意識があるというわけではないのだが、やはりそこは小太刀部隊を統括している隊長だ。いきなり話をするよりも身近なドクに相談するのが筋というものだろうと考えていた。


 とはいえ、柏木とのつながりが薄いために相談がしにくいというのも正直なところなのだが。


「まぁそのあたりは旅行の後で考えればいいじゃねえか。いちいち考えてるとはげるぞ」


「はげるかよ。あ、そういえばさ、大門さんが言ってたんだけど、千葉の方になんか部隊が派遣されたって話知ってるか?」


 周介は大門との会話で出てきた千葉の話をしていた。知り合いの部隊が千葉の方に向かったようなことを大門は言っていた。


 大門の知り合いということは十中八九大太刀部隊だろう。そこに若干の不穏さを感じたのである。


「千葉に?あー……そういや先輩がそんなこと言ってた気がする。けど千葉の北部だったはずだぞ?どっちかって言うと茨城寄りの方。俺らの今度の旅行とは全く違うって」


「なんかあったのか?問題?」


「まぁ問題って言えば問題か。組織が追ってる能力者の目撃情報があったって話だ。それで調査と戦闘を想定していくつか部隊が出てる」


 組織が追っている能力者。それだけであまりいい予感はしないのだが、周介は眉をひそめて心配そうな顔をする。


「それって平気なのか?組織が追ってるってことは、やばい系の奴なんだろ?この間の高速みたいに」


「あー……まぁうん。ぶっちゃけだ、うちの組織が追ってる能力者って結構いる。その理由が大体、相手が素早いって言うのが共通点なんだわ」


 素早い。相手を逃がす理由としては十分に考えられるものだ。


 素早いだけで相手を逃がすだけの理由になり得てしまう。大太刀部隊の戦力がどの程度なのかは不明だが、戦闘特化部隊である中で機動力の高い部隊がいない可能性もある。


「素早いから逃げられるってことなのか?大太刀に機動力の高い部隊は……」


「もちろんいる。けどそいつらと遭遇する時には運悪く配置されてなかったり、配置されてても遠くに居たりと、結構逃げられるパターンが多いんだ。その能力者自体はもう表でも指名手配って形で捜査されてるから、見つからないってことはないんだけど」


「なるほど、警察とかの通報で情報が入っても、捕まえられるかどうかは運次第ってことか……」


「そういうこと。こっちが人数をそろえられるかどうかってのもあるんだけどさ、単純にその情報から相手の位置を割り出さなきゃいけないから正確じゃない。空振りも多いってわけだ。この間のお前がチャリで激走した高速は運がよかった方なんだよ。発生位置がお前の住んでるとこに近くて、なおかつお前が機動力があったからおびき出せた。そんで、俺らも展開できたからな」


「機動力が高くても戦闘能力が高いわけじゃないってことか……大太刀が出なくてもいいってことだもんな」


「もちろん速くて強い奴もいるぞ?大太刀部隊と正面からぶつかって逃げ切った奴もいる。そういう意味じゃあんまり油断はできないぞ」


「そんなのいるのかよ……ニュースとかでは……まぁ流れるわけないか」


 組織の影響力はマスコミにも及んでいる。そういったニュースが流れないように情報操作するのも容易なのだろう。


 そんな危険な能力者がいるのであれば会いたくないものだなと、周介はため息をついていた。


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