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結果から言えば、すべての蓄電設備は問題なく設置完了し、同時に確認試験も無事終了していた。
ドクは終始縛り上げられ、何度も逃げ出すことに成功していたがそのたびに玄徳に取り押さえられていた。
非戦闘員である職員に比べると、玄徳の反応の良さは比べ物にならないようで、ドクは簡単に取り押さえられ、無力化されてしまっていた。
「ありがとう、君達のおかげで無事に蓄電設備を守ることができたよ。本当にありがとう」
無事に作業を終えた後、周介たちは一度現場に集まり、製作班の人間から強い感謝の言葉を受け取っていた。
周りの製作班の者たちもみな何度もうなずいており、視界の隅、部屋の一角にはミノムシのように縛り上げられたドクが転がされている。
「いいえ、ご協力できたなら何よりです。特に今回は玄徳がよく働いてくれたと思います」
「あぁ、彼が風見を完璧に抑えてくれていたおかげで被害を最小限に抑えることができた。ありがとう」
「いいえ、いいっすよあのくらい」
玄徳としては人に素直に感謝されるのはこそばゆいのか、困ったような顔をして頭を掻いている。
「これで蓄電設備の性能も上げられる。今後君の発電によってさらに安定した電力供給が可能になるだろう」
「そうなるといいですけど……ちなみに新しい発電システムに関してはどれくらい進んでるんでしょうか……?」
「一応、まだ決議を出しているところだね。けど近々進むと思うよ。少なくとも君一人に負担を強いることも少なくなる」
「そうなるといいんですけど……って、そろそろドクを解放しますか?」
床に転がされているドクはもがきながらうめくのをやめていない。だがその表情にはすでにあきらめのようなものが見える。
あまり良い光景ではない。一応ドクは今回の施工の責任者のような立場なのだ。いくら問題行動が多いとはいえ、このまま転がしておくのは良くないように思えた。
周介の言葉を聞いて、ドクの表情は『周介君!君ならそう言ってくれると思っていたよ!』とでも言わんばかりに歓喜に満ち溢れていた。
「ダメだ、こいつはしばらく頭を冷やしておかないと何度も同じことを……いや、今までもしてるからもうどうしようもないかもしれないけど、それでもだ!こいつを簡単に解放したらほかのものへの示しもつかない!しばらくはこのまま拘束して転がしておく」
製作班の人間がその発言に全員首を縦に振って納得しているようだった。
ここまで信用がない人間というのも珍しいなと周介は呆れてしまう。だがその原因が本人にある以上、仕方がないといえるのかもしれない。
「あの、そっちのチームの話なんであんまり聞いちゃいけないのかもしれないんですけど、なんでドクが製作班の中で結構上位の人間なんですか?少なくともこういう人に指揮をとらせちゃいけないと思うんですけど」
「その意見はもっともだ。俺も実際そう思う。けど、こいつむかつくことに滅茶苦茶優秀なんだよ。知識も技術も能力も、ありとあらゆる意味で優秀なんだ。普段の悪い癖さえ出なきゃいい班長なんだ」
「……悪い癖……ですか」
「そうだ。癖みたいなものなんだ。だからこれ以上は言っても仕方がない。ぶっちゃけこいつが上に立っててくれることで助かってる面もあるんだ。でも、だからといって、だからと言って何でも許されるはずがない!おい!風見を連れていけ!引きずっていけ!」
怒りをあらわにした男性の声に呼応するように野太い声が響き、ドクを縛っているロープを掴んで大勢がその体を引きずっていく。
ドクがうめき声なのか悲鳴なのか、それを上げている間、周介たちはその様子を眺めることしかできなかった。
「君たちも、今後風見の悪癖に振り回されることもあるだろうけど、どうかあいつのことを嫌いにならないでやってほしい。時々馬鹿だが、あいつも悪い奴じゃないんだ」
「それは……まぁ、わかってますけど」
今までドクにはいろいろと世話になっているのだ。ドクが決して悪い人間ではないということは理解している。
嫌いになるつもりもないのだが、あの悪い癖さえ出なければ良いのだがなと周介は思ってしまうのである。
あの癖さえ出なければ気配りもでき、能力も高いただの良い人なのだが。万能で完璧な人間などこの世にいないということだろうかと、周介たちは引きずられていくドクのうめきを聞きながら遠い眼をしていた。
「ひとまず今回の仕事は終わりになる。また今度、同じようなことがあったら頼らせてほしい。少なくとも重機に関しては君たちに任せても問題はなさそうだったからね」
「はぁ……まぁ、何かあれば声をかけてください。引き続き材料とかの運搬は行ってますんで」
またいつものように廃品が届けば周介たちも運搬を手伝うことになるだろう。周介たちのチームで今できることといえば運搬程度のものだ。
あまり格好良くはないかもしれないが、それが今周介たちができることなのだ。
今できることを、少しずつ。それが周介の能力者としての生活になっていた。




