0202
「うっし、ここだな?」
周介たちは再び運んできたダンプ車を搬送路の出入り口に配置した後、今度は搬送先にクレーン車を置くべく移動していた。
その場所もかなり大きな扉で区画されているようで、開いている部分を見ても上下幅十メートル近くありそうだった。
通常の門ではないのは明らかで、これほどの高さと幅を維持するだけの意味がある場所なのだなと少しだけ身構えてしまう。
「やぁやぁ待ってたよ。基本的なマークはしておいた。あの人形がいる場所にクレーンを頼めるかな?」
「了解です。玄徳、誘導頼む」
「うっす!」
玄徳の誘導に従って、周介はクレーンを配置してその場所に駐車すると同時に、アウトリガーを張り出してその周りへのクレーンの動きを確認していた。
「で、ドク、どのあたりに荷物を置くんですか?」
「基本的にはこのあたりかな。蓄電設備だから後々の組み立てなんかも必要なんだけど、そのあたりも考慮したいところだね。本当のところを言えば、組み立てなんかでも手伝ってほしかったりするんだけど」
「ドクたちの仕事を手伝うと何回も徹夜させられそうなんで嫌です。天井にクレーンとかつければもっと楽になりそうですけど」
「うん、実は今後格納庫には付ける予定なんだよ。今後装備を開発するのが加速するからね。もっと工房と格納庫を拡大する予定もあるんだ。今までは電力が足りなくて車の力に頼ってたけど、そのあたりは改善の結果だね」
周介が来るまでは基本的に電力そのものが不足していたために、施設そのもので利用できる電力も限られていた。だが周介のおかげで使用できる電力が一気に増したため、比較的施設で使用できる機材なども増えてきている。
周介の言っている天井クレーンもまた同様の改善点なのだろう。
もっとも、それなりの資格がないと正式に天井クレーンを扱うことは憚られる。そのあたりは重機に関しても同じなわけだが。
「で、ここにダンプを横付けして、奥の方に順に入れていくって感じか。吊るための道具とかはあるんですよね?」
「そこは問題なく手配しているよ。まぁもしもの場合は待機部隊の人に手伝ってもらうさ。基本的に暇してる人を連れてくれば結構作業できるはずだからね」
「俺らは別に暇してるわけじゃないんですけどね」
周介のように常に発電をしている人間からすれば、常に暇というわけではないためになんとも言い難いところだった。
もっとも、実際はただ部屋でじっとしていなければいけないために暇といえば暇なのだが、そのあたりは説明しても意味がないだろう。ドクだってそのあたりを知っているのだから。
「ちなみにドク、その蓄電設備が運び込まれるのはいいですけど、完成するのはどれくらいになるんです?」
「一応ゴールデンウィーク中には完成させたいと思ってるよ。根本から作るんじゃなくてただ組み立てるだけだから多少短くなるとは思うけど、例によってまたメーカーに正常かどうかをチェックしてもらうからね。そのあたりの手続きなんかがあるからちょっと面倒なのさ」
蓄電池と言っても大量の電気を扱う以上は精密機器の部類に入る。専門の人間が問題がないことを確認してから実際に使用していかなければならないために多少行わなければいけない検査や手続きなどが必要になってくる。
そうなってくると、さすがに時間がかかるのだろう。いくら能力者の施工が通常のそれと異なっているといっても限度があるのだ。
「ところで先生、今兄貴が発電とかやってますけど、この組織って電気を売るとかってのはやらないんすか?家とかでやってる余った電気を売るってやつ」
「あー、そのあたりやろうって言いだしてる人もいたんだけどね。ぶっちゃけよう、今の発電システムで他所に回せるだけの余裕はない。そもそも今の発電のほとんどを周介君に依存してる。先日の一件から、そういう意見も下火になってるんだよ」
「あぁ、電気を売って稼いだ分俺の取り分に増やせとか言い出しかねないって思われてるってことですか」
「嫌な言い方をするとそういうことだね。そういう意味では周介君の提案はグッジョブだった。少なくとも僕らが使う分の電力を金に換えられなくてよかったと安心しているよ」
単純に自分たちが使う分の電力を確保しておきたかったというのもあるのだろうが、確かに今の発電システムでは周介の発電に依存しすぎているために、売買を行うというのは難しいだろう。
それこそ周介がいなくなったり、周介が病気などをしたら一時的に発電ができなくなるのだから。
売買のシステムにもよるだろうが、電力の安定供給ができていない以上、そういった話をするのはまだ早いといわざるを得ない。
周介個人の意見からすれば、売ってもいいからもう少し金が欲しいというところなのだろうが、そのあたりは今更という話である。
「借金がある身としては、守銭奴のように金金金と言いたいところだけどな」
「俺らは肩身が狭いっすね。早く返済したいです」
「ほら借金コンビ、とっとと終わらせてくれない?」
周介と玄徳がうなだれているのを瞳が窘める。本当に肩身が狭いなと周介は呟いて車の位置を微調整することにしていた。




