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アロットロールゲイン  作者: 池金啓太
四話「小動物が生き残るために」
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「テール、ベッキー!良く戻ってきた!ありがとうございます。本当にありがとうございます」


 客間で待つ吉野に二匹を見せ、二匹が吉野めがけて駆け寄ると、老いた表情を満面の笑みにしながら吉野は二匹を優しく、しっかりと撫でまわしていた。


 そして撫でながら、しっかりと礼を言う彼は、あの二匹にとって、いや、三匹にとっては良い主人だったのだろう。その事実が、周介の心を少しだけ締め付けた。


「それで……この場にいない、ノーンは……」


「まずはその報告を。結論から言います。今回の三匹のペットの脱走、この原因はペットの一匹、ノーンが原因でした」


「つまり、ノーンが能力を」


「はい。記録を確認しますか?」


 念のため、乾は周介の装備のカメラに映っていたものに加え、拠点内での監視カメラの映像も持ってきている。


 ノーンが瞬間移動をするその光景をしっかりと確認することができるのだが、吉野は首を横に振った。


「いや、君達がそういうのだ。嘘ではないのだろう。つまりノーンは……すでに……」


 処分された。そのように考えているのかもしれない。だが乾はその様子を見て話しをさらに先に進めることにした。


「インコのノーンは、我々の組織で管理することにしました。あの能力はかなり有用ということもあり、危険も少ないと判断しました」


「ノーンは、生きているのか……だが……それは……」


 組織の理念に反するのではないかという言葉を吉野は飲みこんでいた。何故、その理念に逆らうようなことになったのか想像したのだろう。


 その背景の中に、自分が組み込まれているということも理解して、吉野は小さくうつむく。


 これは貸しだ。ペットを二匹回収し、本来であれば殺すはずだったペットを生かしている。一種の特別扱いをされることで、貸しを作っている。


「今回の我々の措置が、少々特殊であることは認めます。それもすべて理由があってのことだとご理解ください」


「そういうことか。いや、当然だな。わかった。それでも言わせてほしい。ありがとう。あれが死ぬところを想像するのは、たとえ頭の中でも辛いものがある」


 生き物を飼うものからすれば、ペットが死ぬというのは何度あったとしても辛いものだ。それがかわいがっていた相手であればなおさらである。


 周介はそれを理解しているがゆえに、何も言うことができなかった。


「可能ならば、ノーンを大事にしてやってほしい。あれはやんちゃだが、頭の良い子だ。頼む」


「こちらとしてもそのつもりです。能力を扱うことができる動物というのは発見例があっても、あそこまで人に慣れていることは稀ですから」


 能力を有している動物に今まで何度もあったことがある乾からすれば、あそこまで人間に近い位置を好むものも珍しかった。


 大抵は他の生き物から距離を取りたがるものなのだが、あれは少々特殊というべきなのかもしれない。


「今回の依頼はこれにて完遂となりますが、何かご質問などはありますか?現段階で、我々にお答えできることであれば、お答えします。」


「……率直に聞こう。ノーンは……動物実験に利用されるのだろうか」


 組織のことを知り、能力のことを知っている者からすれば当然の疑問だろう。能力の全容も詳細も完全には判明していない現状では、能力を有した動物というのは貴重なサンプルに他ならない。


 人体実験をするようなことができない以上、ランクを下げれば動物が実験の対象となる。そして、都合よくそのサンプルが手に入った。となればどうなるかは想像に難くない。


 その可能性は否定できない。将来的にそれが起きないと絶対の約束はできない。だが乾は姿勢を正したままで断言した。


「いいえ。現時点でノーンは我々のチームに入る予定です。なので実験などの被検体に選ばれることはありません。今は能力をコントロールできるように訓練中です」


「訓練……動物も能力を操ることができると?」


「それも含めて実験と言われてしまえばそこまでですが、まずは一種の芸のようなものだと考えていただければと思います。少なくとも、解剖や薬物投与などはしないとお約束します」


 それも、あくまで現段階での話でしかないが、その答えを得られて吉野は安心したようだった。


 例えそれが目の前で起こることでなくとも、そのようなことがされているとわかった日には夢に出てきてしまうだろう。


 そのようなことは可能な限り避けたかった。


 そして吉野が安心しながらも、未だ少し不安に感じているのを察したからか、テールとベッキーがその体にすり寄っていく。


 人間の感情を機敏に感じ取るのは動物ならではだ。特に犬はそう言った感情の変化に敏感である。

 テールは吉野の体に顔を擦り付け、自分の頭をなでさせようとしていた。


 そしてベッキーは少し吉野に体を擦り付けると周介たちの方を向き、小さく頭を下げた。



 頼みます。



 そんな低い声が聞こえてきそうな気がした。少なくとも、あの猫の目はその言葉を告げているように見える。


 その約束を違えるつもりはない。周介たちは報告を終えると吉野の家を後にしていた。


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