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アロットロールゲイン  作者: 池金啓太
四話「小動物が生き残るために」
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「それで……依頼自体は完遂……というわけか?」


「えぇ、贔屓目に見ても、彼らはよくやったと思いますよ。多少現場での判断をしたことは認めますが、それも結果オーライに終わっています」


「結果オーライ……ね」


 ドクは小太刀部隊隊長室にて、柏木に報告を行っていた。今回の依頼に関しては無事に完遂できるという中間報告ではあるが、ここまでくればもはや完遂したも同義だろう。あとは送り届けるだけなのだから。


 結果オーライ。ドクはあえてそのような言い方をした。あらかじめその危険性を指摘していたことも、現場での判断をしなければ完遂が難しかったということも含めて報告をしていた。


 そして同時に、周介の思惑でもある能力を有したインコ、ノーンの処遇についても報告済みである。


 周介の我儘に関しては言葉をかなり柔らかくしているものの、周介の思惑である内容に関しては正確に伝達してあった。


「発電そのものを個人に任せればそういうことも起きるか……個人的には、君が何かしらの入れ知恵をしたのではないかと疑ってもいるんだが?」


「なんてことを言うんですか。僕としてはとても憤慨しているんですよ。まさか彼があんなことを言いだすなんて思ってもみませんでしたからね。せっかく発電ができるようになったのにそれを止めるだなんて言語道断です」


「……そういうセリフを言うのなら、せめて顔ももう少しそれに似あう顔をしてくれないものかな。あと、声音もせめて変える努力をしてくれ」


 ドクはその話をしている間、ずっと満面の笑みだった。声もこれから開発ができるという期待からか弾んでしまっている。


 こんな報告を受けてしまっては、柏木が何らかの取引、具体的にはドクが周介に入れ知恵をしたのではないかと疑ってしまうのも仕方のない話だろう。


「失礼。ですが今回のことに関しては本当に僕は関与していませんよ。むしろ危険性を指摘したところからは完全にノータッチです。彼の思惑を聞いて承諾、もとい脅されてしまっただけの話です」


「発電を個人に任せるのではなく、別の発電方式があったほうがよい……その原因を作ることで開発を促進……さらに言えば能力を有した動物を手元に置くことにも成功。君からすれば今回の依頼は望むことだらけというわけだ。これで疑うなというほうが無理だ」


「まぁ、正直に言えばどちらもまさかこの段階でどうにかなるとは思っていませんでしたよ。特に発電設備に関してはもっと時間がかかると思っていましたからね。上層部への圧力をかけるのは今ある施設が老朽化、あるいは破損してからだと思っていたので」


 あの時、周介が初めて発電設備に触れた日にドクが意図的に壊そうとしていたのはそう言った背景もあった。


 機材が壊れれば再び元の暗闇が戻ってくる。不便な環境が戻ってくる。それをアピールするためにもあの破壊工作を行おうとしたのだが、あの時は止められた。だがドクも思わぬ方向から新しい発電施設の開発への糸口をつかむことができた。まさに僥倖というほかない。


「彼からすれば、発電の負担も減り、なおかつ望みであった動物の殺傷を避けることもでき、なおかつ自分たちが使いにくい駒であるという印象を与えることもできる……か。多少悪印象を与えたかもしれないがそれはあくまで現場以外の話……彼にもメリットは大きい」


 現場にそこまで出たいとも思っていない周介の事情を知っている者からすれば、周介の今回の我儘はそう言った理由もあるのだろうと感じ取ることができる。


 もっとも周介自身にそこまでの思惑はなかった。ただノーンを殺させないためにドクを説得するにはこういう手が効くのではないかと考えただけの話なのだ。


「そう、さらに言えば彼が今後、これ以上の我儘を言おうとしても我々は拒否しやすくもなる。今回のこの話は、誰も不利益がない話なんですよ」


「……まだ能力者になって半年も経っていない子が、そんなことを考えられるとはな……末恐ろしいと思うべきか。交渉に関してはなかなかに秀でたところがあるようだ」


「えぇ、まだ僕はデータは見ていませんが、今回出撃した彼らの動きを振り返るつもりです。なかなかいいデータが見られるでしょうね」


 周介たちの装備には部分的に録画が可能なカメラを取り付けてある。今回の周介たちの動きももちろん録画してあるのだ。


 どのような動きをして、どのように活動したかがわかるようになっている。確認していくことでさらに装備を改良することができるのだ。ドクは早くデータを見たいと考えているのか、満面の笑みを止めるつもりはないようである。


「わかった。この話は私が上にしよう。いつまでも多感な高校生一人に発電を担わせるのは問題だと、それと、新たな発電システムを構築するべきだとな」


「ありがとうございます。ところで、あのインコについては」


「……本音を言えば、私は殺処分するべきだと思う。けれど、発電を止められれば困る人間は多い。そこまで徹底することもないだろう」


「ありがとうございます。これで僕のチームの人間が暴動を起こさなくて済みますよ」


「君たちに本気で暴れられると面倒なんだ。やめてくれるとありがたいね。とはいえ、これっきりだ。彼にも伝えなさい。二度目はないと。まぁ、こんな話を持ってきているんだ。彼自身、我儘をしたくてしているのではないということはわかっているけれどね」


 柏木の抱く周介の印象は、危うい子供から、優しく、そしてとても危うい子供へと変化していた。その優しさが周介にとって悪い結果を呼び寄せなければ良いのだがと、柏木は少し心配にもなっていた。


「ところで、先日うちに入ったあの暴走族崩れはどうだったのかな?彼に関しては副長から気を付けるようにと話をされているんだが」


 唐突に話が変わったことで、ドクは少し返答に困ったが、玄徳と直接面接をした井巻がその素行や性格を考えて心配しているというのも納得できなくない。


 そして何より柏木はまだ玄徳に会ったことがないために少し心配になっているようだった。


 どのような理由があれど能力を使って好き勝手やっていたことには変わりはない。ドクと本人の強い希望で周介たちの部隊に配属したのだが、それだって完全に納得しているわけではないのだろう。


「彼もなかなか良くやってくれていますよ。連携も、他の班に比べればまだ稚拙ですが、徐々にでき始めています。問題はないと思いますよ」


「そうだろうか?今あのチームの最年長になっていると聞いた。少なくともラビット隊の隊長よりも幅を利かせるとなれば処遇も考えなければならない」


 暴走族を率いていたということもあり、年下やチームメンバーに対しての面倒見が決して悪くはないということは予想できても、暴走族という悪印象を取り除くことはそう簡単にはできない。


 何より普段の様子を知らないためか、事前に与えられている悪い情報だけが先行してしまっていて心配はより強くなっているのだろう。


「少なくとも上下関係に関しては問題ないと判断します。周介君をトップとして、しっかりとチームとして成り立っていますよ。もっとも、安形君が適度にフォローしているというべきでしょうが」


「……それならいいんだが……君の人を見る目を疑うわけではないが、これからも注意してほしい。簡単にはいかないと思うが、さりげなく監視をつけることも許可する」


「随分と警戒しますね、それはあなたの勘か何かですか?」


「……いいや、常識的な判断をしているまでだ。少なくともうちの組織にいる以上、更正したと判断するのに慎重すぎて悪いことはないだろう。我々はそういう組織なのだから」


 これでこの組織がただの能力者の集まりだったなら何も問題はなかったのだろう。だがこの組織は巨大で、国にもかかわりのある組織だ。そういった組織の人間の中に、過去犯罪を行っていたものがいるという時点で問題がある。


 もちろん、犯罪行為というのであれば周介も似たようなものだが、周介の場合は意図的ではなく、本人の過失的な意味合いが大きい。更正も何もないというのが実情だ。


 だが玄徳の場合は違う。能力が暴発したわけでもなく、自分の意思で暴走行為を繰り返していたのだ。


 能力を持ってしまった不幸を否定するつもりはなくとも、その不幸を利用して他者に不幸をまき散らしていい理由にはならない。


 もちろん、柏木も玄徳の行動が可能な限り一般人を巻き込まないように気を付けていたということは理解できる。


 だがそれでも、それでも行ってきた事実は消えないのだ。小太刀部隊を統括するものとして、柏木にはそういった部分をしっかりと統括するだけの責任がある。本人の言うようにこの件に関しては慎重すぎて困ることはないのだ。


「だが同時に不思議でもある。副長の話では、少なくとも人に従うようなタイプではないようなことを言っていた。彼の言葉が絶対とは言わないが、それほど気性の荒い人物が何故……」


 柏木はそれ以上口にはしなかったが、ドクは彼女の言いたいことを何となく察していた。


 それほど気性の荒い人物が、何故周介に従っているのか。そこが気がかりなのだろう。


 言ってはなんだが、周介にそこまで特別な何かはない。才能があるわけでも、強いわけでも、指導力や指揮能力が優れているとも思えない。


 現時点ではまだまだ発展途上。それが柏木の周介に対する能力的な評価だった。


 実際その評価は正しい。周介の能力ははっきり言ってまだまだ未熟もいいところだ。身体的にも、発動できる能力の応用、実用においても、そして現場における思考、指示、指揮、対応力、何もかもが組織内の平凡にも至らない。


 まだまだ子供らしさの抜けない、青さを持っている。少年らしいといえば少年らしいだろう。そんなただの少年に、井巻が警戒するほどの男が付き従うということ自体が信じられないようだった。


 柏木のような人間からすれば、御しやすい人間の下について、何かを企んでいるように見えてしまうのである。


「本人に聞いてみるのが一番でしょうけどね、そのあたりは僕にもさっぱりです。でも、少なくとも彼は周介君に良く懐いているように見えますけどね」


「……懐いているというのは、まるで動物のような物言いだな」


「失礼、慕っているというべきでしょうか。まぁどちらにせよ、悪い感情を抱いていないことは間違いないでしょう。それに僕だけではなく、安形君もしっかりと目を光らせているでしょうから、そのあたりは問題ありませんよ」


「……君にはもう何度も言ったが、あまり試しすぎるなよ?君は検証の時に被検体に気を使わないきらいがある。留意しなさい」


「わかっていますとも。僕としても周介君に居なくなられるのは困る。何より、彼はなかなか面白い」


 面白い。その言葉にどれほどの意味が含まれているのか柏木は理解はできなかった。だがその意味の中に、よいものだけが含まれているとはどうしても思えなかった。


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