表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
アロットロールゲイン  作者: 池金啓太
四話「小動物が生き残るために」
191/1751

0191

落ち込んだノーンに対し、誰も声をかけられなかった。誰もが一度は感じたことがあることだったからに他ならない。


能力を得てしまい、取り返しがつかないことをし、どうしようもない未来しか待っていないという事実に打ちひしがれているのだ。


その場の全員が、それに似た環境にあり、みな経験したことだからこそ、軽々しく慰めの言葉を言うことができなかった。


だが、だからこそ、だからこそ周介は、自分の手の中にいるノーンに視線を合わせる。


「ノーン、お前は、後悔するだけか?」


「……なんだと?」


「もうやってしまったことだ。お前の意志に関わらず、もう起きてしまったことだ。もうどうしようもない。どうしようもないんだ」


だからあきらめろ。そんな風に聞こえる言葉だが、周介はそんなことを欠片も思っていない。簡単にあきらめろなんて言えるような性格をしているならば、こんなに面倒なことにはなっていなかっただろう。


「だけど、お前はもうどうしようもないかもしれないけど、まだあの二人は、普通に生きることはできるんだ。ただし、お前が元の家に戻れば、間違いなく同じようなことは起きる」


「……つまり、俺に死ねって、そう言いたいのか?その気になればお前ら、いつだってそのくらいできただろ。俺に、何をさせたいんだ」


あれだけの動きをできる人間がいて、その人間が襲い掛かって来ていて、生きているというだけでもおかしいのだ。ノーン自身、周介たちが殺すつもりがないのはわかっていたことだった。


だからこそ、周介たちが何を目的としているのかがわからなかった。


「俺は、俺らは能力を持つ生き物を、お前たちを殺したくなくて行動してた。死なせないようにするために、何とかできないかって思ってた。でも、お前みたいにいつ能力が発動するかもわからない奴は危険で、生かしておくのが難しい」


「……それで、自殺でもしろってか?それとも人のいない山奥で他の生き物に食われろと?」


「違う。訓練すればいい。お前が自分の能力を自分で操れるようになれば、俺らと同じように生きて、いろんなものを見ることができる。誰かの役にだって立つことができる」


「誰か……誰かって誰だよ。俺は、俺は兄さんたちやおやっさんたちがいればそれで……」


家族を想う気持ち。その気持ちは周介にもよくわかる。周介も家族がいるからこそ、頑張ろうと思えるのだ。


あの時、周介が能力者になり、能力者として生きることを決めた時も、決め手になったのは家族だった。


自分が守るべき、妹や弟がいたからだ。自分を守ろうとしてくれる親がいたからだ。だからこそ周介は、ノーンに言うことができる。


「お前が頑張れば、いつかお前の家族だって助けられる。お前の家族は能力を使うことはできない。けどお前が力をつければ、いざという時に助けることだってできるんだ」


「……そんな都合のいいことあるかよ……第一、俺はもう、あの人らのところには帰れないんだろ?」


「そんなことない。お前が能力を完璧にコントロールできるようになれば、ずっと帰ることはできなくても、時々帰ることくらいはできるはずだ」


「本当か!?」


異様に食いついたノーンの反応に、周介は大きくうなずく。


「おいおい、いいのか勝手に……許可下りるかわかんねえぞ?」


「そのあたりはドクを説き伏せますよ。能力が暴発するっていうならやばいかもしれませんけど、思う通りに操れれば、爆弾扱いはされないでしょう。そうすれば、たまに実家に帰るくらい、許してくれます。いえ、許させます」


「……その確証は?お前何の権限もないだろ?」


「いざとなれば拠点の発電機止めるぞって脅しますよ。そのあたりは任せてください」


「うわ……こいつマジかよ」


今周介は実質一人で発電をしているに等しい。ある程度は蓄電池が機能しているために機能を維持できるだろうが、もしまた周介が発電をしないとなれば、再び以前のような薄暗い拠点に逆戻りだ。


さらに言えば今まで我慢していた開発欲が爆発せんばかりに機材を動かしまくっているあの工房も機能しなくなる。


それがどれほどの意味を持っているのか、ドクだってわかっているはずだ。


交渉に必要なカードはある。そのカードをどのように使うべきなのか、周介は心得ていた。


「さすがっす兄貴!半端ねえっす!」


「ドクと全面的に喧嘩になりそうだけど……まぁ、そこまで頑なじゃないでしょ。けど、その前提として、ちゃんと能力をコントロールできるようになることが前提だけど……」


そう言って瞳は乾の方を見る。


今こうしてノーンと会話できているのは乾の能力があるからこそだ。逆に能力の効果がなくなればノーンは再び何も考えていないような鳥に逆戻りである。


「というわけで先輩、ノーンの指導のために、能力の発動頼みます!」


「あぁ、やっぱりな。そうなると思ってたよ。やっぱりそうなるよな、そうなりますわな」


ノーンが訓練するというのであれば、乾の能力によって知性を与え続けなければ難しい。


つまり、乾が高頻度でノーンの近くに居なければいけないということにもつながる。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ