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アロットロールゲイン  作者: 池金啓太
四話「小動物が生き残るために」
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『見つけた』


無線の向こう側からその声が聞こえてきたのは雨の中捜索を続けて一時間ほどが経過したころだった。


即座に反応したのは周介と玄徳だ。外で行動を続けていた二人はその言葉を聞いた瞬間に足を止め、無線に耳を傾ける。


「どこだ?位置を頼む」


『駅から約二百メートル程度南南東に移動したところにある楽器店の裏、小さな商店街から少し離れたところにある場所。住所的には……』


桐谷が読み上げる情報を聞きながら周介たちはその位置情報を確認していく。自身も携帯でその住所の場所を確認しながらその方角に視線を向ける。


「了解。ここからだと少しかかる。03、そっちはどうだ?」


『こっちは割と近いです。先行します。肉眼で確認できたら行動しても?』


「構わないけど、能力を発動する可能性が高い。警戒しろ。攻撃されないとも限らない。インコには……薬物関係は危険か……眠らせるよりも動けなくしたほうがいいだろうな。必要に応じてトリモチ弾を使え。殺すなよ?」


『了解です、注意します』


周介はインコという生物に対してどのような薬が効き、どのような薬が毒となるのかを知らない。

下手に行動し相手を殺してしまうということは避けたかった。


周介は軽く準備運動をするとその方角めがけて移動を始める。ローラーによって屋根部分を高速で移動し、アームを利用して跳躍する。


アームを用いて空中での姿勢制御を行い、アームを使って着地、再び加速して跳躍する。それを繰り返し、普通の人間では決して行えない速度での移動を可能にしていた。


『こちら03、目標と思われる鳥を発見。羽休め中のようです』


『03、カメラ向けて。その様子を確認したいから』


『了解っす。これでどうです?見えますか?』


玄徳がもっている人形のカメラを向け、瞳がその様子を確認していく。カメラを通じて白部たちもその様子を確認していることだろう。


『こっちでも確認した。目標のペット、ノーンの可能性大。03、捕縛しなさい。優しくね』


『了解です姉御。兄貴、先に捕まえても?』


「あぁ、俺が付くよりも早く捕まえてもいい。早いところ保護して先輩のところに連れていくぞ」


周介の指示によって玄徳は目標であるインコ、ノーンのもとへと向かう。屋根から降り、店の裏側で休んでいるノーンは、玄徳の存在を感じ取ったのか即座に飛び立とうとした。


野生での活動をしているうちに、感覚が鋭敏になったのだろうか、玄徳が行動を起こしたと同時にすでに逃げの態勢に入っている。


『こちら03、逃げようとしています。追跡します!』


玄徳は逃げようとするノーンを壁を蹴って追いかける。空中の機動であれば玄徳も決して負けてはいない。


能力を使った速度勝負であれば普通の鳥にだって互角以上に競うことができるだろう。玄徳がその鳥に追い付くのも時間の問題だった。


そして、逃げ切れないと悟ったのだろうか、ノーンは勢いよく飛び上がり、建物の隙間から一気に上空へと逃げていった。


玄徳も即座に追おうとするが、跳躍によって得られる限界高度をはるかに超えた高さにインコは飛び上がっていた。


玄徳の能力はあくまで加速と減速を操ることまで。自身の身体能力によって得られる加速をいくら増加させても、その増加量にも限界がある。


肉体で出せる速度にも限界があり、同時に跳躍時に得られる高さにも限度がある。


手を伸ばすも、インコのノーンの高さには届かない。


「跳ぶぞ!」


届かない。玄徳が歯噛みし、わずかに落下し始めた瞬間にその声は聞こえた。


下には遅れてやってきた周介が立っている。そして、今にも跳躍しそうなそぶりを見せていた。


周介が何をしたいのかを理解した玄徳は、即座に能力を発動する。


アームを使った跳躍に加え、玄徳の加速の能力によって加速した周介は普段のそれよりもはるかに高い場所へと飛んでいた。それこそ、玄徳がいる場所まで簡単に届くほどに。


周介は玄徳を掴むと同時に、その体をアームに乗せる。


「いけるな!?」


「いけます!」


短い意思疎通の後、周介は腰についている噴射装置を使いながら姿勢制御をし、アームを用いて空高く跳び上がっているノーンめがけて玄徳を投げる。


玄徳は自身の加速の能力を用い、通常では絶対に届かないほどの高高度まで至ると、即座にトリモチ弾を手に取る。


そして通り過ぎるその直前にノーンめがけてトリモチ弾を投擲した。


勢いを持って叩きつけられたその球は、衝撃によって弾け、その全身を粘着質の物体で覆いこんでいく。


翼を自由に使えなくなったインコのノーンは、その場から落ちかけるが、玄徳はその体を掴むと減速によってゆっくりと落下していく。


同じように落下している周介は、噴射装置を使って減速しアームを使ってビルの屋根の上に何とか着地していた。


この小型の噴射装置では空を飛ぶことはまだできないが、落下速度の減速くらいはできてくれる。なかなか使える装備だと思いながら、捕まえることができたことに安堵していた。


「よっしゃ!兄貴!捕まえましたよ!」


ビルの屋上に緩やかに着地してくる玄徳を見て、周介は小さくため息をつく。


「悪いな、打ち合わせもなしでいきなり」


「いいえ、最高のタイミングでした。おかげでこいつを捕まえられましたよ」


そう言って自分の手の中にいるインコを見せる。全身トリモチがついてしまっているために必死にもがいているが、もがけばもがくほどにその粘着質の物体は絡みつき、身動きが取れなくなっていく。


幸いにして顔にはかかっていないため、窒息することはないだろうがこのままというのは少し可哀そうに思えなくもない。


だが鳥という動物の性質上、この場でトリモチを取り除けばそのまま逃げだすだろう。申し訳ないがこの状態で連れていくほかない。


インコのノーンを持つ玄徳の手もトリモチが絡みつき、べたべたになってしまっているがそこは仕方がないとしか言いようがなかった。


両手でしっかりと抱えてしまっているために、両手はばっちりトリモチだらけになってしまっている。これは後でしっかりと洗わないと大変なことになるだろうと、周介はノーンと一緒に玄徳の手も少し可哀そうに思っていた。


「というか兄貴、よくあの高さから無事に着地できましたね?結構高かったように思いますけど」


「それはほれ、こいつのおかげだよ。飛ぶことはできなくても減速はできた。あとはこっちで着地した。ちょっと体が折れ曲がったけど、そのあたりは我慢だ」


周介は腰についている噴射型のエンジンもどきと背中についている四本のアームを動かして見せる。

技術自体は優秀でも、まだ周介の能力に対して最適化が行われていないためにこの装備だけでは空を飛ぶことはできない。


だがこの装備を使って減速することくらいはできた。かなりの高さからの落下であっても、速度さえ落とすことができれば安全に着地はできる。もっとも、それでもアームでの着地に頼ったのは事実だが。


「とにかく戻ろう、早いところ先輩に能力を発動してもらわないと……そいつが一体どれくらいマナをため込んでるかもわからないし」


「暴発したら厄介ですからね。早いところ車に戻って……あぁ、それと連絡もしないとですか……すいません兄貴、無線してもらってもいいですか?」


両手がふさがっている玄徳は頭部装備についている無線を使うことができない。周介は苦笑しながら無線で連絡を行うことにした。


「こちらラビット01、および03。目標を確保した。これより一度車に戻ります。先輩も車に戻っていただけますか?」


『了解、一度戻る。気をつけろよ?そいつが黒である可能性は限りなく高いんだからな。周辺も監視しとけよ?たぶんだけどそこまで遠くには逃げられないはずだ』


「わかっています。それでは後ほど……っ!?」


周介は無線での通話を終えようとした瞬間に、ふとインコのノーンの方を見た。


早いところ連れていかなければならない。それと同時にこのインコの様子を常に監視していなければいけないという意識からの行動だった。


そして周介はそれを見た。インコの、ノーンの瞳が蒼く輝いているのを。


「玄徳!」


「え?」


つい名前を呼んでしまう周介に玄徳は驚きながら身を強張らせた。次の瞬間、玄徳の手の中からノーンの姿が消える。


そして消えた瞬間に玄徳もその異常に気付いたのだろう。手の中にあるのはトリモチだけだ。掴んでいたはずのインコの姿はない。


「あれ!?どこ行った!?」


「こちらラビット01、能力発動されました!目標喪失!」


周介は無線機に向けて叫びながら周辺を探す。いったいどこに行ったのか。先ほどの乾の言葉を信じるのであればそう遠くへは行けないはず。何よりどこに転移したのかが問題だった。


空中か、あるいは地面か。どちらにせよその場所が特定できない限りまた鬼ごっこの再開になってしまう。


相手は能力を使った。おそらく捕まえられたことによる突発的、ないし暴走に近い形の発動だっただろう。コントロールできていない状態であればどこに飛んだのかは明確だ。


今この場から、とにかく逃げようという意識が勝ったはずだ。危険であると判断し、この場からとにかく逃げようとしたはずだ。であれば逃走経路はわかりやすい。


空中、だがそれも決して高くではない。高い場所で先ほど捕まった。ならばただ高い場所に飛んで捕まることを学習していても不思議はない。


そして、この雨の中、桐谷の索敵の効果が強く及んでいるこの場所において、突如空間に現れる存在は、ひどく目立つはずだ。


『目標捕捉。そこから東北東、距離およそ百メートル弱、逃げ続けてる。急いで』


桐谷の報告が入ると同時に周介と玄徳はその方角を確認してから視線を向ける。その視線の先、遠くてよく見えないが、その方角にいるということであればまずは向かうべきだと周介と玄徳は即座に行動した。


「行くぞ!」


「はい!」


周介と玄徳は同時に能力を発動し、高速で移動を開始する。逃げるのであれば追うまで。一度能力を発動してからのタイムラグがどの程度かはわからないが、追う以外の選択肢がないのがもどかしいところだった。


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