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アロットロールゲイン  作者: 池金啓太
四話「小動物が生き残るために」
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 一度車に戻ると、瞳は画面を見ながらも周介たちが戻ってきたことを知ったようで、VRゴーグルを外しながら周介たちを迎えていた。


「おかえり、首尾は上々みたいね」


「ただいま。今度は猫ゲット。こいつがベッキーだ」


 合流することができたベッキーを車の中に入れると、ベッキーは自分の顔をなめながら助手席から後部座席を覗き込む瞳を見て小さく顔を伏せる。


「こいつぁどうも。兄さん方のお連れの方ですね。ベッキーいいます。どうぞお見知りおきを」


「声低。何この声。こんなかわいい見た目なのに声だけ低」


「まぁ、それは俺らもすごく思った。とりあえず、三分の二はクリアだ。あと問題は……」


「どいつが能力を持ってるかってことだな。今の二匹はどうなんだ?」


 玄徳が乾の方に視線を向けると、乾は意識を集中して二匹に能力を発動しているようだった。


「んー……今のところこいつら普通の動物と変わりねえんだよなぁ……能力持ってても普通の動物とおんなじ感じなんかな……?」


「三匹の誰かが能力を持ってる可能性が高いってだけで、別の誰かがやったってことは考えられない?例えば家族の誰かとか?」


「それなら動物が消える瞬間を見てるか、あるいはその変調に関して何かしら気づいててもいいはずなんだがなぁ……少なくともこいつらはただの動物としか思えんし」


 乾の能力では相手が能力を持っているかどうかまでは判別できないのか、それとも人間と動物で違うだけなのか、どちらにせよ乾はこの動物たちが何らかの能力を持っているとは思えなかったようだ。


「兄さん方、申し訳ありませんが、こちらにも情報をいただけませんかね。何故家にいたはずの俺らが、わけのわからない、見たこともないような場所にいるのか、そのあたり、兄さん方は何かご存知のようだ」


 かわいらしい猫の声に似つかわしくないほどの重低音で周介たちの顔を見比べるベッキーに、周介たちはどんな顔をしたらいいのか迷いながらもとりあえず二人、もとい二匹に事情を話すことにした。


 能力という特殊な力があるということ。今こうして話ができているのも能力のおかげなのだということ。


 それらを話し終えた時、ベッキーはようやく腑に落ちたのか、顔をなめてから小さく首を横に振る。


「なるほど、そう言った事情がありましたか。うちのオジキも、なかなか手広くシノギをやっていたようですな……」


「ベッキー、お前の知ってる限りのことを教えてほしい。何がどうなってこうなってるのか、テールははっきり言ってその……情報面ではほとんど役に立ってないんだ」


 唐突に自分のいた場所が変わってしまったことで混乱してしまったためか、テールはその時の状況をほとんどといっていいほど説明できなかった。


 いつの間にか場所が変わり、バラバラに逃げた程度の事しか知らないのだ。


 知りたいのはもっと別のことだ。正確にはいた場所から別の場所に移動していたというその事象の直前直後のことだ。


 場所が唐突に変わったということもあって、確実に能力が関与しているのは間違いない。その前後のことがわかればもう少し核心に迫ることができると思うのだが、どうにもまだ情報が足りなかった。


「ったくこの犬は……もうちっと冷静に動けんのか。それでもお前大型犬か。でかいのは図体だけか?あぁ?」


「ご、ごめんよベッキー。けどあっしもびっくりして、いっぱいいっぱいだったんだよ……」


 テールは申し訳なさそうにうなだれながらベッキーに詫びている。この関係から完全に上下がはっきりしてしまっているように思うのだが、周介は一つ気になることがあった。


「なぁ、お前らってどっちかが先輩とかってあるのか?なんかベッキーの方が年上って感じするけど」


「いいえ、俺とテールは同期の桜です。どういう縁があるかはわかりませんが、同じ日に生まれ、同じ日にオジキに引き取られました。こいつがヘタレなのは昔からです。図体がでかくなっても性根は小さいままだ」


「そんなに言わなくたって……あっしだっていろいろと頑張って……」


「ストップストップ、そういう話はまた後にしてくれるか?今までの話を聞きたいんだよ」


「こいつは失礼を。では、俺が知る限りのことを話しましょう。と言っても、俺もそこまで細かいことを話せるわけではありませんので、その点はご容赦を」


 腹の奥底まで響く声を聞きながら、周介たちは一体その瞬間に何が起きたのかを知るために耳を傾けていた。


「あの日、俺らは部屋の一角、日向の当たる場所で昼寝をしていました。俺とテール、そしてノーンの三人です。昼飯の後、どの程度経ったでしょうか、ノーンの声が騒がしく、一瞬日が陰ったことに気が付きまして、それが人影だと知って目を開けたんです。そしたらいつの間にか、部屋ではなく、どこか別の場所、道路に出ていました」


 話を聞くと、本当に唐突に場所が変わったのだろう。それは間違いなく能力が発動されたという証明にもつながる。


 ただ、問題はそれをだれが発動したのかということだ。


「その場には俺とテール、そしてノーンの奴がいました。ノーンは何が起きたのかわからず混乱していたようで、テールもしばらくして起きたんですが、この犬、混乱していきなり喚き散らしながら走り出したんです。おかげで上に乗っていた俺は転げ落ち、ノーンともはぐれる始末」


「ご、ごめんよ……」


 ベッキーの苛立つような声に、テールは申し訳なさそうに首を垂れる。もう何度見ただろうか、その光景を見て周介たちは苦笑してしまっていた。


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