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アロットロールゲイン  作者: 池金啓太
四話「小動物が生き残るために」
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 周介は移動を始めた乾の周りをまわるように移動し続けていた。常に周りに意識を向けながら乾の位置を常に確認していた。


 テールは乾と会話しながら自分の家族でもあるペットのにおいを常に追おうとしていた。においが残っていると思われる、最初に覚えている場所から順々に、匂いを追っていく中、無線機の向こう側からノイズ音が聞こえてくる。


 そして少ししてから無線の向こうからせき込む声が聞こえた後、白部の声が聞こえてくる。


『こちら、クエスト03、猫を見つけた。位置的に近い、その近くに居る、02、近くに居ます』


 たどたどしく、とにかくすぐに情報を伝えようとしたのか、白部の声はわずかに掠れている。いったいどういう状態にあるのか今の周介たちは理解できないが、その言葉を聞いて乾はすぐそばにいるテールの方を見る。


「おいテール、近くに猫がいるらしいぞ」


「猫、ベッキーですね。あっしの声を聞いてくれるかもしれやせん、ちょいと声を出しますよ」


 次の瞬間、テールはその場に座ると上を向きながら吠える。


「ベッキー!ベッキー!どこですか!あっしです!テールです!ここにいる!ここにいます!ベッキー!聞こえていたら!聞こえていたらここに!ここまで来てください!ベッキー!」


 周りの人間にはただ犬が吠えているようにしか聞こえないが、乾の能力のかけられたものにはその声が聞こえていた。


 それは悲痛な声だった。家族を探したいと、家族に会いたいと心底願う男の声がそこにはあった。


 何度も名を呼ぶ彼の声が聞こえているかどうかはわからない。通行人がテールの方を訝し気に見る中、乾はじっと周囲を観察していた。そして周介もまた同じように周囲を確認している。


 そんな中、勢い良く誰かが走ってくるのが見えた。その姿が玄徳であるというのは割とすぐに理解できた。


「兄貴!兄貴!」


「どうした。今この辺りに例の猫が」


「捕まえてください!そいつ!」


 玄徳の叫びに、周介は彼が何かを追っているのだということを理解すると、周介は視線を玄徳の顔から地面すれすれの方へと移す。


 そこには人ごみを縫うように疾走する猫の姿があった。首輪はつけていないが写真の通りの柄の猫だった。


「任せろ!捕まえる!そのまま追い込め!」


「ベッキー!どこですか!ベッキー!」


 テールはまだ猫のベッキーが近くにやってきていることを知らない。何度も何度も叫んでいると、猫が急に進行方向を変え、テールとは別方向に向かおうとしていた。


「させるか!意地でももっかい会わせてやる!」


 周介はローラーを駆動すると装備の中にある網とトリモチ弾を用意する。これを使うのは最終手段だ。この猫の機動力に勝てないようならばそれを使うことになるだろう。


 だが周介だって能力者だ。人ごみの中で高速で移動する術くらいは身に着けている。普段伊達に人形の群れの中を駆け抜けているわけではないのだ。


 ネコ独特の蛇行するその動きに、周介は見事に反応していた。手越との訓練は無駄にはなっていない。小さな物体から逃げるということを何度も何度も続けていたのだ。それが今度は逆になっただけの話だ。


 しかも今度の相手は手よりも大きく、見つけやすい。周介は玄徳が追いかけるその猫の逃げ道にしっかりと回り込む。


 だが猫も周介が目の前にやってくると同時に身を翻して方向転換し逃げようとする。動物独特の方向転換だ。ノーブレーキで方向を変えようとするその動きに、周介が反応しようとすると、猫のはるか後方から玄徳が跳躍し、そのままの勢いで横に逃げようとした猫を掴み、転がるように止まった。


「おい、大丈夫か?」


「へっへっへ、大丈夫ですよ。こら暴れんな!この馬鹿猫、お前の飼い主のところに連れて行ってやるだけだっての!落ち着け!」


 最初、猫を捕まえた玄徳の様子を周りの一般人も訝しげに見ていたが、玄徳がネコを捕まえようとしていた原因を口にしたことで少し興味がそがれたのか、そのまま通り過ぎていく。


 ネコというものがどういう生き物なのか周介はあまり知らなかったが、玄徳の手や顔をひっかこうと暴れているその姿からは愛玩動物の要素は感じられなかった。どちらかというと肉食獣のそれだ。


 ライオンがネコ科の動物だというのも納得できるその暴れっぷりに周介は苦笑しながら無線で乾を呼ぶことにした。


「先輩、猫を捕まえました。近くに居ると思うんで、来てくれますか?」


『了解、今行く。おいテール、ベッキー捕まったってよ』


 無線の向こう側からは犬の声が聞こえている。どうやら乾の能力は無線越しには発揮されないらしい。


 どういう再会になるのかはさておいて、家族が再び会うことができるのだ。多少の感動はあるのだろうと周介は勝手に思っていた。


 とはいえこれだけ暴れている様子を見ると、そう簡単にはいかないのかもしれないなと思いながら周介は玄徳の腕の中で暴れている猫をなだめるべく、飼い主から借りてきた猫の玩具を取り出して猫の機嫌を取ろうとしていた。


 結局ネコは暴れに暴れ、玄徳の腕や顔は傷だらけになってしまうのだが、それはまた別の話である。


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