0179
周介たちは再び車で移動していた。車の中には周介達ラビット隊の装備も入っている。と言っても全身に用いる装備ではなく、周介の能力で動くローラースケートなどの移動用装備だけだ。
そして各員腕に取り付けられているプロテクターだけが普段のそれとは異なるものだった。
ドクが作ったトリモチ弾の入った装甲、これを直接動物に当てるか、あるいは球そのものを動物に当てるとそれが破裂して動きを止めることができる。正確には動きを鈍らせるといったほうがいいかもしれない。
ちょっとした衝撃でも割れてしまうために、取り扱いには注意しなければならないだろう。
「情報収集しながらこの近辺を回る。あとは白部の情報が追加され次第行動って感じだ。異論は?」
「ないです。乾先輩は情報収集のために動いててください。俺と玄徳でとにかく周りを確認していくので。いいな玄徳」
「問題ないっす。とにかく怪しそうな路地とかを駆け回ります。犬猫なら適当な場所で見つかるでしょ」
「安形は人形を適度に配置して白部の能力が使いやすいようにしてくれ、カメラ付いてるんだろ?」
「つけてもらった。常に情報配信中。ただいくつかの場所は配置は手伝って。屋上とかはあたしが行くけど、路地裏はあんたらの方が早いし」
そう言って瞳は手持ちの人形の中からいくつか周介たちに渡す。それは小型の人形だ。それぞれにカメラが取り付けられており、白部が情報を確認できるように携帯端末を取り付けることで通信を行っているのだろう。
「どこに置いといてもいいけど汚れないようにしてよね。後で回収するから」
「了解。こういうのを粗末にするとなんか夢に出そうだからな」
「そういうこと。あたしは車の中で人形の操作に集中するから、あんたらは外回り頑張って」
「姉御、この人形……その、場所によってはだいぶ汚れるような場所に置くと思うんですが……」
場所的に、動物、しかも野良の動物がいるとなればある程度は汚れてしまうことは仕方のないことだ。
それも瞳は理解しているのだろうが、VRゴーグルのようなものを取り出して目を見開いて玄徳を睨む。
「汚さないでよ?あたしその人形気に行ってるんだから」
「わ、わかりました。気を付けます」
「無茶言うなよな。まぁ汚れたら一緒に洗うの手伝ってやるから」
周介は苦笑しながらそれらをカバンの中にしまっていく。
人形を配置して監視カメラなどの死角部分に情報収集用のカメラを配置、そして周介と玄徳が常に動き回りながら周辺の散策。乾は周辺の情報源となっている動物たちに聞き込み。
やるべきことがはっきりと分かれているうえに、捜索範囲もかなり狭まっているために少しは楽に活動できそうだった。
「ちなみにさ、前に手伝ってもらったノーマン隊だっけ?索敵専門の、あの人たちに手伝ってもらうことはできなかったんかな?あの人らがいれば探すのすごい楽になると思うんだけど」
「ノーマン隊は人気だからな。ぶっちゃけ、この組織で一番外部からの依頼が多いチームだ。小太刀部隊の中で一番稼いでるチームって言ってもいいな」
「そうなんですか。それまたどうして」
「単純な話だ。あいつらの索敵能力、まぁその内容にもよるんだろうけど、見なくてもその場に居なくても情報が拾える。例えばそうだな、前に聞いたのだと、建設系の仕事をやるときに結構役立つって聞いたぞ。それこそあれだ、地下に何が埋まってるかとかそういうのをつぶさに調査できる」
「あー……そっか、普通の人だと掘り返さなきゃいけないところを即座に確認できると」
「他にも設計とか、測量とか、そういう部分で活躍してる人もいる。かなり正確に情報がわかるからな。あとはそれを図面とかに起こしてやれば一発だ。能力の有効活用ってやつだな」
それは、能力が社会に貢献しているといえるのだろう。この場合はスポンサー企業の依頼という形であるため、その貢献は部分的かもしれないが、それでも能力が社会に活かされるという前例となる。
公にできないのが難しいところだが、それでも、能力者が人の役に立つということだ。
「他にも別のチームでそういう活動をしてる人ってのはいるぞ?特に災害とかそういうのが起きると、国の要請を受けて結構出動してたりする。まぁ、それはないに越したことはないんだけどな」
災害などは、それこそ国そのものの被害となる。そういう時自衛隊などが出て救助活動を行うのだが、この組織は能力を駆使してそれを補佐するのだろう。
それこそ大地震、台風、津波、大雨などなど、この国はいつ自然災害が襲い掛かってもおかしくない状態にあるのだ。
そういった環境の中で活躍できるものは多くいるだろう。それこそ能力を有するものであればなおのことだ。
「そういう場面だと大太刀も出たりするんですか?俺ら小太刀はいろいろできそうですけど」
「人によるとしか言えないな。本当に戦うことにしか使えない能力もあるからよ。そのあたりはしょうがないとしか言いようがないわな」
能力の差はある意味絶対的な活動能力の差になる。できるかできないかが分かれてしまうため、ただの人間程度の能力しか持たないものだっているのだ。
それは、すでに決定してしまっているため、仕方がないことなのかもわからない。
周介たちは現地近くの駐車場に車を止めるとさっそく移動を開始していた。
無数の人形を持った周介と玄徳は持ち前の機動力をもってして路地裏を移動し続け、とにかく路地がしっかりと見えるように人形を配置していく。
時刻は夕方をとうに過ぎ、すでに暗くなってきている。街の明かりのおかげでそこまで暗くはないとはいえ、それでも限度というものはある。
周介たちは人込みを避け、なおかつ高速で移動しながらあらかじめ設定した範囲を移動し続けた。
乾は近くに居る情報源にもなっている動物たちに会い、情報を集めるための基盤を作っている。彼の能力があれば動物を探すことはさらに容易になることは間違いない。
そして瞳は周介たちが置いている人形それぞれを画面を見ながら操って適度な配置に変更していた。
周介たちはとにかく速度を出して移動している。周介はローラースケートで、玄徳は自分自身の身体能力に加え時折彼自身の能力も使っている。
二人とも遮光性のサングラスのようなものをつけ、目の光がばれないようにしているが、それでも誰かに見られないようにするためにとにかく急いで行動する以外にないため、人形の置き方がかなり雑だ。
そういった部分を瞳が微調整して位置を変え、うまく白部が確認できるようにしているのだ。
「こちらラビット02、クエスト03、人形の約三割ほど配置完了。そっちの状態は?」
『こちらクエスト03。配置はまぁまぁ。あとはこっちで探索して、何かわかったら伝える。あんまり焦らせないでね』
「了解、うちの男どもにも伝えとく」
そう言いながら瞳は自らがつけているVRゴーグルに映し出されている複数の画面を適度に切り替えながら人形を操作している。
路地裏にいる生き物は多彩だ。それこそ見たくもないものも多くいる。だが見なければいけないのが悲しいところだ。
ただの小動物ならまだよかった。だが路地裏にいるような動物などある程度想定できてしまう。
それこそネズミ、ゴキブリといった不潔とイコールで結び付けられているような動物たちも多々存在している。
瞳は目を背けたいのを必死にこらえながらため息をついていた。
「こちら02、03、もうちょっと丁寧に置きなさい。調整が面倒くさい」
『すいません姉御!気を付けます!』
無線の向こうから無駄にやかましい声が聞こえてくる中、瞳はため息をつく。玄徳が置いている人形はその場に倒れたり壁の方を向いてしまっていたりとあまり監視役としては好ましくない状態となっていた。それを人形の操作で微調整するのだが、周りに人間がいるかもしれない状況でそれはしたくない。
そのため瞳は細心の注意を払って動かさなければならなかった。
『こちら01、人形置き終わった。これから巡回に入る。02、なんか情報あったか?』
「今のところない。クエスト03も頑張ってるだろうから、そのあたりは待ってやんなさい。適当に休憩しながら動けばそのうち見つかるでしょ」
『適当だな……そんなんで大丈夫か?』
「どうにもならないことってのはあるでしょ。クエスト02、状況はどうですか?場合によっては隊長を向かわせますが?」
『こっちは問題ない。あと一カ所回ればこの周辺の動物はカバーできる。あと、いい情報が入ったぞ。駅の裏側の中華料理屋があるあたりで、見慣れない犬を見たって情報があった。手の空いてるやつで向かってくれるか?』
「了解。隊長、聞こえてた?」
『聞こえてた。今すぐ向かう。クエスト02、その情報どれくらい前のものですか?』
『半日くらい前だとよ。その場にはいないかもしれないけど、場合によっては近くに居るかもな」
「オッケーです。隊長は即座に現場に急行して、03は人形配り終えたら同じように現地に直行。いい?」
『了解』
『わかりました!』
広範囲の人形を操っているため、肉体的な負担が少ないということもあって今は瞳が指揮の真似事をしなければならない。
どちらかといえば連絡要員に近いのだが、こういった立ち位置の人間はどの隊でも必要になってくる。
こればかりは仕方のないことだと瞳もあきらめていた。
『姉御!人形配り終えました!今から兄貴のフォローに入ります!』
「はいはい、気を付けて。隊長は無茶するから助けてやってね」
『もちろんです!兄貴!今行きます!』
『俺も今向かってるところだから急がなくてもいいぞ?』
周介と玄徳の会話を聞きながら瞳はゆっくりと車の座席に背中を預ける。
人形を操るのは終わった。あとは画面を見ながら白部と協力して状況を判断するだけだ。
とはいえ、それが一番疲れるということを彼女は知っている。多くの者を同時に操ればその分疲れるのと同じ、多くの者を一度に見ればその分疲れるのだ。
現場で疲れるというのも嫌なものだなと思いながら、瞳は目の前に広がる路地裏の光景に目を通していた。