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「ってなわけでさ、動物を捕まえるコツみたいなものってないか?」
「お前もつくづく難儀な奴だな。スポンサーのわがままなんて放って処理しちまえばいいのによ」
どうやら手越の耳にもスポンサーのペット探しの一件は届いているようで、同情するような、それでいて面白がるような表情をしながら周介の話を聞いていた。
手越も個人的には能力を有してしまった動物は処分するべきという考えなのだろう。別にその考え自体を否定しようとは思わない。ただ単に周介が助けてやりたいと思っているだけの話なのだ。
「で、どうなんだ?動物を捕まえる方法」
「まぁ、単純に追い込みが大事だな。動物は基本的に自分よりも強い相手からは逃げる。逃げ道をいかになくせるかってのがポイントだ。そのあたりは安形と協力すればいいだろ」
「犬猫はそれで何とかなるかもなんだけどさ、問題は鳥の方なんだよ。インコ」
鳥という単語に手越は難しい表情を作る。手越は能力で宙に浮く手を操ることができるため、空を飛ぶ相手にだって問題なく対処できる。
だが問題なのはその速度と軌道だ。鳥は空中を自由自在に飛翔する。それを捕まえるのは容易ではない。
「簡単なのは止まってるところを捕まえることだな。物理的に逃げ場をなくすのもいい。動物ってのは一定範囲内、自分のテリトリーって言えばいいかな、そういうのを理解して逃げられるところまでは気にしないんだ。ついでに言えば、意識も重要だ」
「意識?」
「そう、お前も今まで妙に近くまで鳥とかが来たことってないか?鳩とかスズメとか」
「あぁあるある。いつの間にかすごい近くまで来てたこともあるな」
「あいつら、人の視線なのか、人の意識なのか、そういうものにすごい敏感なんだよ。こっちに攻撃の意思がないってわかってると逃げないし、存在に気付いてても敵意がなけりゃ近づいてくる。そういうのが大事かもな」
それは人間には失われつつある第六感と呼ばれるような本能の話になってくる。野生を生き抜く動物にとって、相手の意識、殺気とも呼べるようなものを感じ取る本能はある種の必須技能に近いのかもしれない。
相手が自分に意識を向け、攻撃する意思があるか否か。それを判断して近づいても問題ないものとそうでないものを判別している。
もちろん本人達、野生動物にはそんなことをしている意識はないのだろう。危ないか安全か、それを本能で察知しているのだ。
「手越ならどうやって捕まえる?」
「俺か?俺なら能力を使ってうまいことやるな。あいつらが飛んだとしても逃げられないように隔離する。それから追いかけっこの始まりだ。鳥と俺らじゃ燃料タンクの差が出てくるからそれで勝てる」
一度に活動できる時間というのは動物によって決まっている。食事をしてそれをエネルギーに変えて運動する。単純なその生き物としてのあたりまえの動作の性能差で勝つ。それこそが最も簡単で楽な方法だ。
相手を逃げられないように隔離をして、あとはそこの範囲内で追いかけっこをすればよいだけなのだから。
こちらの数が勝っているのであれば、交代で追い詰め、疲弊するのを待つのも手だ。人間が太古から行ってきた狩りに近い。
「今回の相手が能力を持っていたとしてもか?」
「なおさらだ。能力を使うっていうのは結構疲れるだろ?相手が能力を使えばそれだけ疲弊する。特に発動したての奴はな。お前もそうだっただろ?」
周介も能力の訓練を始めたばかりの頃は疲れがあった。脳の裏側とでもいうべきなのか、そういう場所が熱を持ち、意識が朦朧とすることもあった。
最近はそういうことは全くなくなったが、なるほど動物でも同様のことが起きているのだなと周介は納得していた。
「それに、もし相手が逃げるのであれば発信機みたいなのはつけておきたいよな。そうすればそいつをずっと追いかけるだけで良くなる。そうすりゃ隔離ができなくても……そうだな、二日くらい追いかければ捕まえられるんじゃないか?」
二日。相手に睡眠も食事もとらせずに二日間動き回り続ける。こちらは交代で相手はとにかく逃げ回る。
飛ぶのだって逃げるのだって体力を使うのだ。それを相手は補給と休憩なしで。こちらは補給と休憩ありでずっと続ける。
数の差を前面に押し出したやり方だ。だが確実でもある。
兵站の差で相手との接触を有利にするのは常套手段だ。相手は今回野生に帰りかけているペット。であれば食事も満足にとれていない可能性が高い。
少しずるいような気もしたが、それもまた作戦の一つだ。相手が動物である以上、人間である周介たちは知恵を用いて挑まなければならない。
「発信機か……鳥とかにつけられるレベルの大きさのものってあるのか?」
「そのあたりはドクの専門だな。あるいはなんかペイントしておくだけでもいいんじゃないのか?見分けがつくだけでもかなり違うだろ」
今回の動物は割と派手な色をしているためにわかりやすいかもしれないが、もっとわかりやすい蛍光塗料などをつけるだけでも大きく違うはずだ。