0175
「ただあれだぞ?ぶっちゃけだ、そもそも捕まえられなきゃ話にならないわけで」
「そうなんですよね。乾先輩的には今回のペット、全員捕まえられると思いますか?」
「思う。そこまで内容的には難しくないしな。地球外にでも行ってなければ俺らが見つけてやる。ただ俺らができるのは見つけるところまでだ。捕まえるのはお前らに任せることになる。俺足遅いし」
今までの経験からくる確固たる自信なのか、乾は堂々と自分たちならば見つけられると豪語する。いや、その言葉の背景からくる実績を鑑みれば豪語といえるようなものでもないのだろう。
おそらくは熱もなく誇張もなく、事実だけを述べているだけに過ぎないのだ。
だからこそ、できることとできないことをはっきりと述べている。
「動物を捕まえるのって大変ですからね……そのあたりはどうするかな……」
「安形の人形と連携すればそのあたりは何とかなるだろうけどな。犬猫はまだいいとして、鳥の方が面倒だ……飼われていた鳥って言ったって普通に飛ぶし、飛んだらさすがに捕まえるのがめんどくせえ」
飛ばれでもしたら周介たちの手では届かない上空に逃げられてしまう。周介たちだけで捕まえるのであればそれなりの道具が必要になる。
「そのあたりはドクと要相談ですかね……あるいは手越あたりに相談するかな」
「あぁ、そうだな。あいつなら捕まえる時のコツとか教えてくれるかもな。あいつあれでも結構な手練れだし。場合によっては協力を仰ぐのもありだ」
「ですね。犬猫はともかく空を飛ばれたらこっちも空を飛ばないと面倒ですし……まだそういう装備はできてませんし」
「そのあたりはお前らで交渉してみろ。一応同世代なんだし」
同世代なうえに周介に至っては同室だ。相談自体は割と簡単にできるだろう。あとは手伝ってくれるかどうかだが、そのあたりは本当に交渉次第となりそうだった。
「動物の捕獲っていうと、網とか麻酔弾とかですかね?」
「大型犬ならまだしも、さすがに猫とか鳥相手に麻酔弾はちょっとな……殺す目的であればそれでもいいのかもだけどよ……しかも鳥、インコはそういうのにめっちゃ弱いしな」
麻酔というのはその対象に対する負担も大きくなる。大きな動物であれば当然体力もあるため耐えられる可能性も高いが、小さく弱い生き物ではそう言った無力化するための道具でさえ致命傷になりかねない。
単純に効果を弱めればよいのかもしれないが、高速で動き回る相手に対して重要な部位に当たらないとも限らないのだ。
周介は銃など撃ったことはない。当たっても大丈夫な場所に当たらない限り、それは傷つけることと変わりはない。
一応生かす目的でとらえようとしているのだ。方法はもう少し考える必要があるかもわからない。
「そういやドクが前に装備にトリモチ弾とかを取り付けるとかなんとか言ってたな……確か玄徳の装備にもあれついてたろ」
「あぁ、ペイントもどきの奴っすね。あれが動物相手に使えれば捕まえるのは楽になりそうっすね」
周介たちの装備は非殺傷を目的としたもので構成されつつある。その中に拘束用のトリモチ系の装備もある。
それらを改良すれば比較的簡単に捕まえることもできるかもしれない。
「そのあたりはお前らに任せる。俺らは情報集めまくって、少しでも早く見つけられるようにするからよ。お前らはそっちの準備をしておけ。じゃないと、やりたいこともできない」
「わかりました。準備しておきます」
「じゃあ兄貴、俺は先生のところに行って装備を注文してきます。今兄貴が行くと、ちょっとややこしいことになりそうですから」
「悪い、頼むよ玄徳」
先ほど相談をして、半ばこっちはこっちで勝手にやります、というようなニュアンスで出てきてしまった手前、またすぐに戻って装備の相談というのはさすがに気まずい。
玄徳はその辺りをよく理解してくれている。荒っぽい男ではあるが、周りをよく見て気遣いができる。それが玄徳という男の性質なのだろう。
「あぁデカブツ、装備に関してドクに相談しに行くなら、ついでに武器関係も注文しとけ」
「武器?具体的には?」
「すぐに殺せる武器だ。なるべく音が出ないものがいい。当たれば死ぬ。そういう武器を用意させておけ。もちろん相手は動物相手だ」
それがどういう意味を持っているのかも周介たちは理解していた。万が一の時にすぐに殺せるように。そういう準備をしておけということだ。
「わかった。兄貴は何か要望はありますか?あったほうが先生も作りやすいと思いますが」
「武器……武器か……そういうのは使ったことがないからなぁ……普通に銃とかそういうのでいいと思う。慣れてないから扱いやすいので」
「了解っす。それじゃ伝えてきます」
玄徳は走ってドクのもとへと向かって行った。
武器、いつかはもたなければならないと理解していたものだ。
周介の装備の中にあるアームにも適応されることになるであろう武器。それがどの程度重要なのかわからないわけではない。
少しずつ、自分が一般人から離れていくのを感じ、周介は少し複雑な気分だった。
この感覚に慣れる日が来るのだろうかと、周介は小さくため息をついてしまう。