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アロットロールゲイン  作者: 池金啓太
番外編『世界の垣根を超え崩す』

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「すっごいなスターズ!あんなことできるのか!」


 衝撃波と水飛沫が当たりの空を支配する中、パナマ運河南方の上空に位置していた周介はその光景を見て自分の目を疑っていた。


 自分ができた手伝いなどほんのわずかなものだった。はっきり言って隕石の位置を明らかにし、ほんのわずかな減速と軌道修正を行えたくらいだ。


 とっさにトイトニーと協力してそれだ。スターズの地力の高さに感嘆するほかなかった。


 衝撃波のせいで辺りのドローンは軒並み制御が聞かずに映像が乱れている。だがこの状況に合わせて絶対に相手が動くだろうという確信があった。


「各員気合入れろ!スターズが北側を押さえ込んだ!次は俺らの番だぞ!」


 周介の檄が飛ぶと同時に無線の向こう側から、そして周りにいるすべての能力者から気合の入った返事が届く。


 あれほどの被害を出すはずだった北部の爆発を、ほとんど比較にもならない程度のレベルまで軽減して見せた。


 もちろん衝撃波や海に落ちたことでその余波による津波などが発生しているが、それでも巨大なクレーターができるほどの被害を押さえられたのはスターズの実力としか言いようがない。


 そんな実力を見せられて、同じマーカー部隊として気合が入らないほうが嘘というものだ。


 周介の集中力が上がっていく。かつてないほどに高められていく感覚と集中。自然と放たれる威圧感に、作戦に参加するすべての能力者が周介を意識せずにはいられなかった。


 そしてそんな周介がやる気を出しているのを見て、奮い立つなというのは無理な話だった。


 周介達の担当する南部の異変はスエズ運河のそれと同じ、川幅を拡張するようにして行われる地形の変換。


 地上部分に何かがあるのは間違いない。敵がいるのは間違いない。索敵で見つからないということは隠匿の能力を使っているのだろう。その能力を解明するべく、敵のいる場所を把握するべく、索敵が行える能力者すべてが草の根を分けてでも探り出そうと集中して能力者の捜索、及びその能力によって生じる地形の変動を察知しようとしていた。


 もう間もなく南側も能力が発動する時間だ。少しでも被害を減らすために、早々にそれを見つけなければならない。


 索敵班にかかる重責は計り知れないだろう。


 索敵手がそれぞれバラバラに散らばって索敵をし、少しでも情報をかき集めようと必死で能力を発動し続けた。


『師匠、ちょっといいですか?確認してほしい場所があります』


 そんな中、この状況を動かしたのは各員のカメラから状況を確認していた美鈴だった。


 全員の見ている未来を確認していた美鈴にはとある未来が確認できたのだ。それは、特定の場所に向かう周介たちの姿。


『その場所を調べてみてください。何かあるはずです』


 その場所は一度他のメンバーが索敵している場所でもあった。だが、美鈴が言うからには何かあるのだろうと、知与はちょうど近くにいたために即座に移動してその場所を確認する。


 そして誰よりも早くそれを見つけたのは、さらに高まった集中力で索敵に取り組んでいた知与だった。


 それは美鈴から事前に情報を得られたからこそ知覚できた些細な気付き。いや、かつて感じたことがある事柄だった。


 違和感とでもいうのか、それとも既視感とでもいうのか、その僅かな歪を、彼女の天性の感覚は確実に捉えていた。


『隊長!隊長のいるヘリから距離八キロ!北西!川の分岐点の箇所!』


 確証はない。だが知与は即座にそれを伝えた。間違っているかもしれないという可能性もあった。ただの気のせいという可能性もあった。だがそれでも、知与の中の何かがあれがそうだと告げている。


 端的に告げられた知与の情報に、周介は即座に反応していた。


 知与の告げた方角が正しいか否かなど考える余地すらない。周介ではその場所以外に怪しいと思える場所などないのだから。


 その違和感に知与が気付けたこと、そして知与がその違和感のある場所を索敵できる位置にいてくれたことがなによりも幸いだった。


 周介達が真っ先にその場所へと向かうと、何か、何か違和感のようなものを覚えていた。


 いや、違和感というのは適切ではない。


 どこか、懐かしいような、何か慣れ親しんだような、そんな感覚がある。


 いったい何だろうかと、疑問を抱くよりも早くそれが目に入っていた。


 地形が変わりつつある。正確には川辺にある地面が陥没して川幅が広がりつつあるのだ。


 地形変化はすでに起き始めている。


 すぐに能力者を見つけなければ。


 一刻の猶予もない状況で、周介はそれを感じていた。


 この状況下で、関係がないとは言い切れないその感覚。少なくとも周介はそれを感じていた。


『隊長!位置をマークしました!北側の』


 知与が指示するよりも早く周介はその場に向かっていた。


 あの場に何かある。否、あの場に何かいる。


 周介の勘がそう言っている。


 それは周介にしか感じとることができないような気配だった。


「キャット01!ラビットシリーズ!Δとθを出せ!」


『了解っす!』


 周介が現地上空に到着した瞬間、その機体を取り出すべく袋が空中に広がっていく。


 巨大な袋を展開して出てきたのは、鉄の巨人の姿をしたΔと、同じく巨大でムカデのような長い胴体から多関節の脚部を無数に生やした機体だった。


 不整地において強いこの機体を地面に落とすと同時に、周介は第三の能力を発動する。二つの機体の随所から蒼い体毛が生えていき、あっという間に全身を包み込み巨大な獣の姿へと変貌する。


 あの場所にいる。周介には確信があった。


 目視はできていない。音も特には聞こえない。だが、その場所に何かがいると、何かがあるという確信が周介にはあった。


 θに取り付けられた装備が猛威を振るう中、周介はその気配を頼りに肉薄する。


 瞬間、まるで周介を阻むかのように地面が隆起して壁を作り出していた。


 勘だけではなく、周介も理性の上で確信する。


 この場所に何かいる。それを確認した周介の判断は早かった。


「ミーティア隊!俺のいる場所とその周辺!絨毯爆撃!俺に当てても文句言わない!やってくれ!」


『了解。巻き込まれるなよ』


 ラビット隊との、周介との連携にも慣れているミーティア隊の判断も早かった。


 周介ならば狙ったところで当たらないだろうという確信からくる即決即断。周介の指示から数秒と経たないうちに放たれた攻撃が周介の周辺一帯に降り注ぐ。


 まさに銃弾と砲弾の雨あられという状況だった。


 周介はその弾丸と砲弾の雨の中、回避しながらその気配を辿っていた。


 その先に何かいる。この先、爆撃の先にある懐かしい気配。周介はそれを頼りにθを一気に前進させていた。


 周りの木々を器用に避けながら高速で接近するその動きは、蒼い体毛が生えていなければムカデのそれにかなり近かっただろう。


 爆撃が辺りに続く中、変換によって辺りの地形が変わるのを確認しながら辺りを攻撃し続けると、それが目に入った。


 唐突に、いきなり人がその場に現れたのだ。


 だが、その現れた人物は、転移をしてきた、という感じではなかった。


 なんと言えばいいか、ずっとその場にいたのに、唐突に隠匿の能力を引きはがされたかのような、そんな感覚である。


 そしてその人物からも、先ほどから感じている懐かしい感覚を周介は覚えていた。


「目標確認!畳みかけるぞ!」


 周介の言葉に真っ先に反応したのは周りに展開しいつでも行動できるようにしていたビーハイブ隊の召喚獣たちだった。


 ラビット隊の他のメンバーの提言により、最低でも一体、召喚獣を周介の近くにつけておくようにと指示が出ていたのである。


 次に動いたのは雄太だ。周介を常に守るべく動いていた雄太は爆撃され続ける中周介の傍へと突撃し、その身を守ろうと前へ出ていた。


「兄さん!下がってください!あいつは俺が!」


「05!上に飛べ!」


 周介の言葉に半ば反射的に従って上空へと飛び上がった瞬間、周辺の大地が大きくめくれ上がり、まるで津波の如く辺りを飲み込もうとうねりを上げた。


「やばっ!」


 反射的に周介の指示に従ってしまった雄太だったが、ここは周介の指示を無視しても周介を守らなければいけない状況だったと思いいたり即座に空中で反転して周介の元に向かおうとする。


 だが辺りは既に変換能力によって地形も何もかも無茶苦茶だ。先ほどまでいたΔとθもどこにいるのかわからないような有様になってしまっていた。


「兄さん!兄さん!?どこですか!?」


『大丈夫だよ……!この程度でやられるか!』


 無線越しに周介の声が聞こえてきた瞬間、うねりを上げる大地の一角が爆散するように突き上げられ、その下からΔとθが地表に現れる。


 鬼怒川の攻撃さえも耐えるような耐久力を誇る機体が大量の土に埋もれたくらいではダメージなどはいるはずもない。


「敵の能力は大質量の変換。だけどその分遅い!前に出る人間であれば余裕で対応可能!けど飲まれると動くのは危なくなるから注意しろ!」


「目標はどこですか!?」


「今は土の中だ!今引きずり出してやる!」


 周介にはその気配がまだ追えている。どういう訳か、相手の能力者からは独特な気配が放たれており、周介にはそれが理解できた。


「04!俺が引きずり出す!地上に出てきたらその位置をミーティア隊に報告して一気に仕留めろ!」


『了解しました』


「んじゃ行くぞゴラアァ!」


 周介が全力で能力を発動し始めると、Δとθの機体に取り付けられたドリルが高速回転を始め、敵目掛けて一直線に進んでいく。


 当然相手もそれを理解しているだろう。二機を近づけないようにしているのだろうが、大質量の変換は総じてその形状の変化も遅くなる。


 人一人を押しのけるのと、巨大な機体を押しのけるのとでは当然必要な力も変わってくる。変換において、力任せに行動するよりは変換する部分を絞って高速で動かしたほうが総じて攻撃力は上がるものだ。


 ただ、Δやθのような巨大な機体を持ち出されてしまうと、それだけ大きな質量変化をしなければならない。


 大質量を変換して押し返す早さと、ラビットシリーズの掘削と前進の早さ。現在で言えばどちらかと言えば、後者の方に分があった。


『こちらからも援護する。地面にめり込むような形で打ち込んでやるぞ。巻き込んだらすまん』


「構いません!ぶち込んでください!」


 ミーティア隊からの援護狙撃が上空から降り注ぐ。ただの爆撃ではなく、地面に突き刺さってから爆発するタイプの特殊な弾頭を使っているらしく、辺りの地面が次々と爆発して抉れていく。


 地形がどんどんと変わっていく中、自身の身を守りながら二つの機体を押し返さなけらばならないという状況に変わり、さらに変換の効率が落ちたのか、一気に接近を許し、Δとθのドリルの先端が変換能力者にあともう少しで届くというところまで迫る。


 瞬間、危険だと判断したのか、自分だけが飛び出せるような小さな穴を作り出し空中へと逃げる。一度Δとθとの距離を作って逃げようとしたのだろう。その判断は間違ってはいないだろう。もしこの場に他の部隊がいないのであれば。


『当てます』


 瞬間、狙いすましたかのような狙撃が敵の脚部に命中する。


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