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アロットロールゲイン  作者: 池金啓太
番外編『世界の垣根を超え崩す』

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 現地時間の朝六時。周介たちは活動を開始していた。


 もう既に日は昇り待ちが徐々に活性化し始めている頃、周介達はパナマ運河の南側を中心に索敵を行っていた。


 周介達ラビット隊は上空から周辺の状況の確認をし続けている。ミーティア隊はいつでも攻撃できるように待機状態になっている。


 ビーハイブ隊とアイヴィー隊は一時的にではあるが行動を共にしていた。


 既に桐谷の能力が広範囲にわたり展開しつつある。効果範囲の関係で、本人と一緒に霧が移動する形となるため、船を使ってパナマ運河を巡回し続ける形になる。


 ビーハイブ隊の召喚獣が船の周りの川辺を探索している。とはいえ、街中ではない森、あるいは道路など、探したところで人一人として見つからない。


 予知の時間までまだ猶予はある。だがすでに北部は大きく動き始めている。


 件の爆発の効果範囲。そしてその影響を受けそうな範囲における防御対策と、今回出張っている海外の組織陣営もパナマの姉妹組織もそうで担って行動している。


 当然南側の能力の被害を受けそうな場所にも避難勧告が出されている。


 パナマは北から南まで大騒ぎになるだろう。少なくとも今日の午前中は人々の移動ラッシュが始まる。

 早朝の今は、まだその影響が少ない静かな時間だ。


 とはいえ、周介の頭の中では警鐘が鳴り響き続けていた。


『トイトニー経由でアメリカからのプレゼント。上空の無人機及び衛星の映像をこっちに回してもらったわ。今拠点に投げたところ』


「オーケー。ようやく協力関係らしくなってきたな……ったく……ここまで根回ししないと腰を上げることをしないってのは、随分とまぁ……」


『ありがとう。そういう意味では、助かった。おかげでいい情報が集まってる』


 周介は昨日の晩、ちょうど雄太が起きてくる直前まで、今回参加している各姉妹組織の上層部に働きかけをしていたのである。


 現場サイドのラビット隊、及び日本の組織の上層部、その二つの側から各姉妹組織の上層部の個人的な知り合いに追加の情報を流したのだ。


 情報、というよりは条件というべきかもしれない。今回の事件、少なくともこれだけで終わるわけがない。

 周介の読みでは、もう一つか二つ、大きな事件に発展する。


 フシグロに頼んで、それっぽく情報を編集してそれらを流してもらった。次はどこになるかわからない。もしかしたら、次は我が身か。我が国か。


 対岸の火事であると楽観視していた人間も、そんな風に考えさせられれば必死にもなる。どうしてこうも煽らなければ本気になれないのだろうかと周介としては頭が痛い話だった。


『いや全くもってこっちとしても頭が痛いよね。昔はこうじゃなかったんだけどなぁ……どうにも政府と繋がりが強くなっちゃって皆腰が重くなったよね』


 一緒に説得に回っていたドクとしてもこんな風になってしまった姉妹組織に対しては悩みの種であるらしい。


 昔と組織の在り方が変わって来てしまっている。それはよい変化と見るべきか、あるいは悪い変化と見るべきか。


 どちらかと言えば、今の状況では悪い方が勝っているようにも感じられた。


「うちはその割にスムーズな動きしてますけどね。一部の組織の動き出しは、確かに遅いですけど」


『まぁすべての姉妹組織がそうだとは言わないさ。今回の場合で言えば大きな金の絡む話だからね。および腰になる気持ちはわからなくはないよ。少なくともそういう話に乗っちゃう人はいるだろうさ』


 全ての姉妹組織が悪い影響を受けているとは言わないが、それでも組織を運営するのは人だ。そして人とは欲にかられる生き物だ。


 どんなに高潔な考えを持っている人間だって、欲に少しだけ流されてしまうことだってあるだろう。


 それが少しずつ、本当に少しずつ、多くの人間がほんのわずかに流されれば、それは大きな濁流へと変わるのだ。


 今回の一件はその典型的な例と言っていい。人間の作り出した利権という名の業。それが複雑に絡み合い、流れを生み、いくつかの姉妹組織の人間も少なからずその流れに取り込まれてしまった。


『悪いことばかりとは言えないんだけどね。ただの事件云々ってだけじゃなくてさ、世界情勢とか、経済面とか、今まで組織が気にしてなかったような部分にも干渉するだけの理由付けにもなるし、社会に役立てるってことでもあるからさ』


 ドクの言うように今回のような影響がいい時もないわけではないのだ。人の営みに影響を受けるということは、それだけ人の社会に寄り添った対応ができるということでもあるのだ。


 かつての組織は、問題を起こす能力者に限り対応していた。だが表に出たことで、まったく別の分野にも対応するようになってきた。


 それがいい方向に働くこともあるし、逆に悪い状況になることもある。


 今回の場合は後者だった。ただそれだけの話だ。


『まぁ、現場の君達が動きやすくなるのが一番重要なことだよ。フシグロ君、情報の収集度合いはどうだい?』


『かなり進んでます。他の国もツクモアプリをどんどん採用してくれているので集まってくる情報量が増えてます。この件が終わったらスパコン増設してください』


『これ以上の増設は世界の存続にかかわるからちょっと遠慮したいかなぁ……僕としても人工知能に滅ぼされる人類は見たくないよ』


『安心してください。私は滅ぼすつもりはありません。やったとしても人間を管理下に置く程度です』


『うん、やっぱりだめだね。これ以上のスパコンは上層部の結果によって決断させてもらうよ。僕はまだ今の人間社会が気に入ってるんだ』


『えー……百枝からも口添えして。もう一台欲しいって』


「ノーコメント。仕事中だ。おねだりなら別の機会にしろ」


 フシグロは拗ねてしまうが、本気ではないことは周介にもドクにもわかっている。


 長い付き合いだ。一部本気である事は間違いないだろうが。


『こちらアイヴィー隊より各員へ。現時点で目標確認できず。再度河口から上流への探索を実施する』


『了解。こちらラビット04より各員へ。各方面の避難は順調。能力効果範囲からの避難状況は八十パーセント程度。現時点をもって当該区域への一般人への立ち入りも禁止されます。ここからは見つけたら敵くらいのつもりで索敵しましょう』


「あー……ラビット01より各員へ。やや過激な発言があったが、全員適切に対応してくれると助かる。以上」


 避難が進み、今回の索敵範囲内に人間が限りなく少なくなったからと言って、まだこの空間にいるすべての人間が敵であると決まったわけではない。


 この十年の活動で、知与はすっかり過激になってしまった。葛城校長の指導が行き過ぎているという報告も上がってきているが、同じ指導を受けていた周介からすればそれが原因ではないと思いたいところである。


『お嬢、今のいい方は大変語弊があると思いますよ?』


『え?でもこの状況でこの周辺に来ようとする人はものすごく怪しいじゃない?仕方ないと思うけど』


『それには同意するけど、さすがに他国の人間だからね。あたしたち一応マーカー部隊だってことを忘れないで』


 玄徳と瞳が軽く注意するも、知与の言い分も決して間違ってはいない。


 避難を呼びかけ、危険な状況だと言っているのに近づこうというのはよほどのバカか、怪しい人物だけだ。

 昨今日本ではそういう馬鹿が多発していて頭が痛い限りではあるが、海外ではそういうことはないと願いたいところである。


「04、作戦区域内……その中で街の中にいる、組織以外の人間の数……どれくらいかわかるか?」


『現時点ではあと数十人程度かと。まだ避難が完了していない人達でしょうか。早く逃げてほしいんですけどね』


「そう簡単にはいかないんだろ。フシグロ」


『はいはい。どうしたの?』


「ドローンの展開の比率を変えてくれ。04の言うように、避難場所からこの作戦範囲内に入る人間が怪しいのは間違いないんだ。04は索敵範囲を、危険区域へ。ドローンは町の方から入る人間の警戒に重点をおく。それでいいか?」


『了解しました。必ず見つけます』


『わかった。ただ、抜けは出るわよ?すべての場所をドローンでは確認できないから』


「その辺りはどうしようもないかな……こうなってくると見つけられるかは運の要素が滅茶苦茶強くなる。予知はどうだ?」


『未だ変わらず。相変わらず時間にこの辺りの隆起と同時に爆発と衝撃波が巻き起こる未来のまま。幸いなのは、その場所、効果範囲は以前のものから変わっていないっていうところかしら』


 つまり相手は人を目的にしていない。あくまで攻撃目標は地形ということになる。


 人を避難させた行動は、幸いにも良い結果を生んだということになるだろう。人的被害はゼロに抑えることができるかもしれないのだから。


「効果範囲は変わらず……発生時間も変わらず……だけど未だ見つけられず……こりゃ本格的に隠匿か?あるいは、まだこの場にはいなくて、一気にやってくるとか?」



『だとしたら厄介ですね。連中が何かしらの移動手段を持っていて、パパっと移動できたら、それだけでこっちからすりゃ面倒極まりないですよ』


「現場からすれば……車よりは……船、飛行機、能力のどれかか。飛行して飛んでくるか、あるいは転移か」


 移動手段。飛行機か、車か、船か、あるいは能力か。


 機械の暴走が起きた十年前ならいざ知らず、今のこの時代であれば移動手段を選ぶことは十分に可能だ。

 そして能力を含めればその選択肢はさらに増える。


 周介やトイトニーの移動も、機械を使ってはいるが、同時に能力も併用している。そういう能力がほかにないとは限らない。


 あるいは転移能力。複数人の転移を行える能力であればそれこそ一度に一気に現場を移動することも可能だ。


 周介の口から転移という言葉が出て何人かは渋い顔をする。


 転移の能力者には何度か痛い目に遭わされている。今回の相手がどんな移動手段を持っているのか、はたまた隠匿能力なのか。それはまだわからない。


 だがこうして現場を調べてもまったく誰もいないということは、まだこの場にはいないと考えるのが自然なような気がしてしまう。


 だがそれだとアメリカの式典の時に索敵網を潜り抜けられた理由が説明できない。


 やはり隠匿能力はあるのだと予想するべきだろう。


 能力者の索敵に対して見つからないというのはそういうことだ。普通の人間なら間違いなく見つけられるものが見つけられないのだから。


「フシグロ、念のため周辺の空港で不審な飛行機がないかだけ調べておいてくれ。この辺りの空港で目標の時間に飛ぼうとしてる、あるいは着陸しようとしてる飛行機も全部チェックだ」


『了解。やっておくわ』


 以前のように飛行機が乗っ取られる可能性だって捨てきれない。可能であれば事件前後の飛行機は離着陸も遠慮してほしい位である。


 特に近くに飛んできている飛行機は単純に危ない。墜落する可能性もあるのだ。その辺りは早々に可能性を摘んでおきたいところである。


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― 新着の感想 ―
[良い点] 転移・・・ガッツのあるあいつが野放しだったような。
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