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アロットロールゲイン  作者: 池金啓太
番外編『世界の垣根を超え崩す』

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『いやぁやばいよね。僕らも出力された映像見てびっくりしたよ。クエスト隊が血相変えて持ってきたのも納得の画像だった』


「こっちも同じものを見てます。これはちょっと……すごいですね」


 周介はスターズと会った後、さっそくドクに報告をしていた。当然クエスト隊の情報はドクの方にも挙がっていたようで、拠点の方もかなりの騒ぎとなっているようだった。


 かなりの早さで情報が共有され、今周介の手元にあるタブレットにもその画像が見られる状態になっている。


 上空から撮影された写真だ。爆発の瞬間と、その後の爆炎と煙。これが爆発によって引き起こされたのか、それとも噴火によって引き起こされたのか、周介には判別できなかった。


「これ、爆弾なんですか?この画像を見る限り爆発してるようにしか見えなくて……噴火……だったりするんです?」


『僕も確たることは言えないけどね。すごい爆発だよね。これだけの規模だったら衝撃波もすごそうだ』


「こんな爆弾あるんですか?核兵器とか?」


『僕もそのあたりのことは知識でしかないから、ちょっと確証は持てないけど……既存の爆弾じゃないと思う。完全に新型か、昨今の事情を考えると、どちらかと言えば能力の方があり得るかな?十キロ規模で爆発するってなったら相当の出力だけど』


「能力でこれだけの出力は……さすがに……」


『あり得ないと思うかい?それこそ、魔石で強化されていたらあり得なくはないさ。以前僕らが対応したような、インクバォのような系列の能力だった場合、全然あり得るよ』


 周介は記憶の中にあるインクバォを思い出す。だが周介の記憶の中にあるインクバォはあの船の状態が最後だ。


 助け出された後、インクバォは既に死亡したということを知らされた。


 あの能力者の最大出力だって見ていないし、それと比較にならないほどの規模となると想像もできない。


『それに、爆発させる能力だけがこういうことができるわけじゃない。爆発っていうのはある種の現象だからね。爆発の素材を集められる能力者がいれば、なおのことこれだけの爆発が起きても不思議はないさ』


「爆発の素材って言うと?」


『空気中で言えば水素と酸素だね。空気中の水素濃度と酸素濃度が一定の条件を満たせば、ドカンと爆発するよ?あー、一応訂正しておくけど、ただの水素じゃ水爆みたいなことは起こせないからね?あれは重水素とか三重水素とかだから』


「……化学の授業の範囲ですね」


『そりゃそうさ。あぁいうのは完全に化学の領域だよ。まぁともかく、そういう能力を駆使して、なおかつ魔石で強化されてたら、これだけの規模での爆発もあり得なくはないよ。まぁ、その代わりそれを発動した人間も巻き込まれるだろうけどね』


「自滅……ってことですか?」


『そりゃそうさ。爆心地に自分がいるなんて間違いなく死ぬよ。仮に、仮にだよ?爆発の衝撃や熱には耐えられたとしよう。その後酸欠で死ぬ。逆に酸素とかの物体を生み出したり操作できるとしたら、衝撃に耐えられなくて死ぬ』


「誰か手伝いがいたとしたら?それこそ、障壁を展開できる能力者とか」


『これだけの規模の能力を防げる能力者ってなったら、それこそ魔石を使わないと難しいね。まぁ、それもあり得なくはないけど……何かしらの方法で生き残ってくれるのであればそれはそれで好都合さ。そのほうが見つけやすくはなるからね』


 爆心地の何もなくなったような状態であればさすがに見つけやすくはなるだろう。ただ高熱によって近づけるかどうかは怪しいところだ。


「ここを攻撃する能力者は……使い捨ての可能性があると」


『まぁこれをやる時点でもうやばいよね。何考えてるんだって話だよ。南側はスエズと同じようなことをやってるから、さてどうなるやらって感じだけど……』


「俺らは南側へ対処するつもりで動く予定でした。問題はありますか?」


『ないよ。個人的にもそのほうが嬉しいかな。北側は万が一、君らを失うことを考えると……ちょっと行かせられない。現場でも、そっちの方にはいかないでほしいね』


「……それはフリかなんかですか?」


『じゃないからね。絶対に行かないでよ?これだけの爆発だ。仮に君がラビットシリーズに乗っていても防げるかどうか……いや、っていうかそもそもこの距離だ。君らが待機してる中部辺りにも影響出るよ』


「そんなに?」


『爆発の衝撃波を甘く見ちゃいけないよ?こんな距離だったら一気に衝撃波が伝わって辺り一帯ひどいことになるだろうね。空中にいる時は特に注意ね。ドローンの替えも用意しておかないとだなぁ……』


 周介は自分の割と近い場所で爆発を受けたことはあるのだが、遠くでの爆発がどれくらいの威力を持っていて、どれほどの衝撃波を生み出すのかはよく知らない。


 空中に出ていたとしても、多少態勢を整えれば問題ないだろう程度に考えていた。


 実際周介はその通りだろう問題なのは周介以外のドローンや航空機だ。簡単に制御を失って落ちてしまう。

 それらを考えるとドローンは飛ばし続けるのがかなり難しくなる。


「衝撃波って、すごく強い風みたいなものですよね?俺あんまりイメージできないんですけど」


『風……とは違うけどね?まぁ空気そのものが一瞬で勢いよく弾き飛ばされてできるから、風と言えなくもないかもだけど……ものすごく広範囲で窓ガラスが割れたりするよ?車が吹き飛んだりもするだろうね。あぁ、鬼怒川君のパンチでも同じことができるかな』


 強い風というイメージが強いためか、周介の中では衝撃波自体はそこまで恐ろしくはなかった。だが鬼怒川のパンチを連想すると話が変わってくる。


 あれはやばいという印象が強くなるため、警戒しなければという気持ちが強くなっていた。


「衝撃波の話はともかく、俺たちは南側に集中してていいんですか?こんな情報、俺たちだけで抱えておくわけには……」


『もちろん。こっちでも対策するさ。僕らが得られた予知の情報。これは今回参加するすべての部隊及び拠点に共有する』


 予知の情報をどの程度周辺の国に渡すかは、正直に言えば迷うところだ。その情報を得たことによって未来が変わる可能性があるのだから。


 相手の目的が全く別の場所に変わるかもしれない。そうなった時、もっと奥の被害が出る可能性も否定できないのだ。


 だがドクはそれを即断した。


「いいんですか?予知がずれる可能性もありますよ?場合によっちゃ被害が拡大する可能性だって……」


『むしろ今のまま放置してたほうが気持ちが悪いよ。現時点で僕らにできるのは被害を少しでも減らすために行動すること。それなら情報は共有したほうがいい。仮に場所がずれるにせよ、人数増やして予知すれば、それも先回りできるはずだ。日本だけじゃなく、今回参加するすべての国で協力しなきゃ』


 こういう時に即座にこういう決断を出せるのはさすがというところだろうか。周介は少しなりとも迷ってしまう部分もあった。


 あの被害を誘発させられるのであれば、むしろそれ以外の場所に人を誘導すれば人的被害はゼロにできる。

 だがドクは被害そのものをゼロにしようと考えているのだ。


 周介のように現場に出てからのことを考える人間よりも数段視野が広い。こういう時に現場の指揮慣れしている人間が味方にいるのは本当にありがたかった。


『僕らは北側の対応に注力するよ。その代わりと言っては何だけど、南側は頼むよ?予知の情報が正しいなら、スエズと同じことが起きる。時間勝負だ。必ず敵能力者を捕まえてほしい』


「了解しました。手段は問わない、でいいですね?」


『もちろん。君の全力で対応してほしいね。現地に向かったすべての部隊の力を結集させてほしい。少なくとも、かなりの広範囲だ。君達だけじゃフォローしきれないだろうからね』


「そうですね。相手が地形を動かせるってこともあって、空中にいないとまともに活動もできなさそうですし……でも例の爆発があると、空中にいるのも危ないっていう、いやな状況です」


 周介達の活動圏は地上空中どちらもだ。だが件の爆発が起きることを視野に入れると、空中に居続けるのもやや危険が勝る。


 周介だけならばまだしも他の面々もいると少々配置が面倒ではあったが、その点に関してはいくつか考えがあった。


「例の爆発は、どうやって防ぐつもりなんです?爆発が起きるとなると、確実に能力者本体を押さえないとやばいですよね?」


『うん、少なくとも簡単に行くとは思ってないよ。だけどまずは一般人の退避が最優先だ。あんな爆発の中にいたら死体も残らない。即座に行動。予知の時間まではまだ時間があるから、猶予……と言ってももうかなりタイムリミットは迫って来てるけども……ともかく、やるしかないのさ。数百人だろうと数千人だろうと数万人だろうと、黙って見過ごす理由にはならないよ』


 その結果、どのような変化が生まれようとも、人の命と比べてそれよりも重いものというのはドクにとって存在しない。


 それは周介にとっても同じだった。自分の指揮を執ってくれる人物がこういう考えを持つ人間で本当にありがたいと、周介は安堵の息を吐く。


 スターズも同様なのだが、マーカー部隊を指揮するうえで、なおかつマーカー部隊を従わせるうえで重要なのは損得ではないのだ。


 圧倒的な敵を前に、そして起きてしまう被害を前に、どれほど被害を少なくするように立ち回れるか。そしてそれを迷いなく指示できるか。何よりも、それを見逃した時に得られる利益よりも人命を優先できるか否か。


 それはマーカー部隊の指揮官として何よりも必須事項だった。


 ドクは自分の開発のことになるとそれ以外のことに関しては無頓着になりがちだが、長年周介と一緒に活動を補佐してきたのだ。そういう意味では周介の好みを把握しつくしていると言っていい。


「じゃあ、北側の方は任せます。どちらにせよ、俺たちじゃ手が回りませんから」


『オーライ。南側は任せるよ。ただ、北側の爆発を止められないとなった場合、待機場所を南側の海に変えてほしい。できるよね?』


「できますが……それは」


『わかってるよ。自分たちだけ逃げるのは気が引けるっていうんだろう?けどこれは絶対に守ってくれ。どんなことが起きるかだってわからないんだ。たぶん津波は起きるだろうし、辺り一帯にまき散らされる熱を考えると、あの場所じゃ危険かもしれないんだ。頼むよ』


 恐らくはドクとしてもここは引けないところなのだろう。


 周介としては、ギリギリまで現場で活動したいところだし、全体に行き来しやすい中部で待機したいところではあった。


 ただ今回の場合行動時に危険が伴うのは周介だけではない。他の部隊の面々の命運も周介が握っていることになる。


 勝手な行動をするわけにはいかないと、周介はその提案を了承していた。


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