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アロットロールゲイン  作者: 池金啓太
番外編『世界の垣根を超え崩す』

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「パナマ運河で街のあるのは北部、中部、南部の三つ。とくに北部と南部が大きく、中部は南寄りに少しある程度で、中部北側にはほとんど街らしい街はない。運河を中心に地形の変化が起きるのであれば……南部の方が人の住まいとしては多い。日本はどこの担当だった?」


「俺らは中部。人のいない場所を守れって感じだ。地図で言うと……この辺り」


「……バロ・コロラド島のあたりか。ちょうど中間……やや北よりの川の中というところか」


 パナマ運河は内陸側にあるガトゥン川につなげる形で作られた運河だ。その為川幅が非常に細い部分もあれば十キロ単位の川幅を誇る場所もある。そこまで来るともはや湖のそれに近いため、その中にいくつか島もあるほどだ。


 周介達の範囲に指定されているバロ・コロラド島周辺もその島の一つである。


「相手の目的から察するに、川幅が広い場所はむしろ放置するはず、北側のリモン湾に出るための運河か、南側の海に抜けるための川幅の狭くなる運河か……どちらかだろうな」


 川幅が狭くなると言っても、それでも幅三百メートルは余裕である。


 ただスエズ運河で起きたことを考えれば、川幅を無理やり広げるような形で地形を変化させようとするのは間違いない。


 北か南か。あるいはその両方。どちらを優先するべきかは少々迷うところだ。


「北側は人の住む場所が少なく、予想される影響範囲に街は少ない。それでも数千からの人がいるだろう。逆に南側は町が点々と存在していて、しかも大きな街が河口部分にある。ひどい被害になる可能性が高い」


「南側には……パナマの姉妹組織と……他の国がいくつかついてるみたいだな。アメリカの配置は?」


「北側にあるコロンの街だ。パナマ運河の北の出入り口にあるリモン湾に面している街だな」


「あぁこれだな。なら……なんかあった時は、俺らが南側をフォローする。アメリカには北を重点的に対応してもらいたい」


「……だが、いいのか?少なくとも北側はせいぜい五、六キロだから守り切れるが……南側は海まで四十キロ近くあるんだぞ?」


「なら三分もあれば端まで行ける。乗り物酔いを無視していいならもっと速度が出せるぞ?場所さえわかれば、即行でたどり着ける」


 周介の言葉にスターズの面々は驚いてトイトニーの方に視線を向ける。トイトニーは全く驚いた様子はなかった。


 そもそも周介やトイトニーのように機械を操って移動する人間からすれば、その程度の速度を出すことはさほど難しくはないのだ。


 驚くに値しないというと少々不遜かもしれないが、彼らにとってはそこは重要なところではない。


「今大事なのは相手を捕まえることだ。どうにかしてそいつを見つけなきゃいけないんだけど……スターズの中で隠匿系の能力を見破れるやつとかいるか?」


「隠匿か。日本も隠匿系の能力者がいると踏んだんだな」


「まぁな。あれだけ見つかってないんだ。それを疑わない方がおかしいだろ」


「……こちらも対策はしてきている。何人かスターズ以外の面々も手伝ってもらうことになっているからな」


 さすがにアメリカも隠匿能力者がいるということを予想して部隊編成をしてきたようだ。問題はそれでも見つけられるかどうかというところだが。


「人の中に紛れるか、自然の中に紛れるか……どっちにしろ面倒なことに変わりはないけど、アメリカはどうやって対策するんだ?」


「基本的には複数の索敵を同時に走らせる形になるが……その中でも特色があるのが、疑似的な索敵との併用だな。例えば……粒子を操作するタイプの能力者がいるんだが、そいつは粒子の接触や付着で索敵できる。透明なだけであればそれだけでも問題なく索敵できる。だから透明だった場合は見えていない人間かどうかは別で確認する必要があるな。認識阻害だった場合、まんべんなく展開しているはずの粒子を、その能力者の周辺の空間だけ粒子が認識できなくなるらしい。普通の索敵と併用することで八割方見つけられるそうだ」


「あー……なるほど、疑似的な索敵との併用か」


 疑似的な索敵とは、索敵能力のように空間そのものを把握する能力を用いたものではなく、物体や現象の操作などを使って周辺の索敵を行うものが該当する。


 例えばアイヴィー隊の桐谷などが扱うのが疑似的な索敵に該当する。彼女の能力は水分を操ることだ。霧などを発生することでその空間にいる物体を把握することができるので、準備に少々時間がかかるのが欠点でもあるが、広範囲を索敵できる能力となっている。


 透明化能力はともかく、認識阻害の場合、特定の範囲内、特定の物体に対して認識できなくなるという能力だ。例えば本人とその身に着けている衣服と言った形である。


 ほぼ無意識でその条件を決めていることが多く、途中で付着したゴミなども認識阻害がかかることが多い。この疑似的な索敵の場合で言えば粒子や水分なども、認識阻害の効果範囲に入った瞬間、認識できなくなるという状態になる。認識阻害をされることで、逆に見つけやすくなるという稀有な例と言えるだろう。


「その分、まるで砂嵐なんじゃないかってレベルの粉が着くからクレームも入るんだがな……そのあたりは諦めてもらうほかない。あとは天候の影響をもろに受けるのが欠点か。風なんかが強い日だとまともに索敵できないと聞く」


「疑似的な索敵だとそのあたりは仕方なさそうだな……日本にも何人かそういうのいるからよくわかる」


 疑似的な索敵の欠点は準備に時間がかかることと、物理的な影響を受けやすいということだ。特に風などの影響を強く受ける。


 桐谷の能力も、強い風を受けると能力の媒体となっている水分が吹き飛んでしまうために上手く索敵できないことが多い。


 逆に雨の日など、能力の媒体にできるものが多い時はその索敵能力はかなり向上するという。


 天候とその時の状況によって索敵能力が大きく増減するために、ある意味むらがあると言えるかもしれないが、それでも隠匿能力に対して強く出られるというのはかなりの強みでもある。


 今回の敵が隠匿能力を使っている可能性はかなり高いため、これを攻略できるかどうかが今回の作戦行動の肝になるだろう。


「あとは……アメリカの上層部が隠してる予知の情報が大したことでなければいいんだけど……フシグロ、拠点とつないで、確認してもらえるか?」


『了解。まだ起きてるかしら?』


「起きててもらわないと困る。せっかく時差ボケを直すだけの猶予時間もやったんだから。上空からの映像、もう準備できるか?」


『私たちが今いる場所の上空だけなら今すぐにでも』


「なら頼む。後でこの辺りをぐるっと一周飛んでみて、ドローンをばらまいてからもう一度確認するけどそもそもどういうことが起きるのかだけでも把握しておきたい」


『了解。ちょっと待ってて……………………起きてたわ。今見てくれてる。あんまりいい未来じゃないわね』


 美鈴はちゃんと周介たちの活動時間に合わせて行動しようとしてくれているようだった。


 ただ、やはりあまり良い未来ではないのか、その声音はあまり良いものではない。


「具体的には?やっぱ問題は起きるか?」


『起きる。あの子が言ったことをそのまま伝えるわね。北部は爆発する。大きな爆発。運河のあたりを中心に』


「爆発?それはまた、穏やかじゃないな」


 具体的にどれくらいの爆発なのかは不明だ。実際に見た美鈴にしかそれはわからない。ただ、フシグロがこれだけ声音を低くしているのが妙に気になるところだった。


「範囲はわかるか?」


『待って、今地図に書いてもらってる。けど、それでもあくまで見えた情報だけだからその後の被害状況の詳細は不明だって』


「なんだっていい。情報が欲しい。すぐに図示してくれ」


『地図に出してもらうわ……んー……ただ、見えた映像は……直後の映像と、その後の煙が巻き上がってる情報と、地形の変化くらいみたいね』


 映し出された画面に映っていたのは、パナマ運河北部側の部分が、直径十キロレベルで吹き飛ぶと思われるような、そんな円だった。


 この円が爆発範囲なのだろうか。そんなことを考えて周介は冷や汗が止まらなくなる。


「おい、おいおい……マジかこれ……」


「……こんなことが起きるのか……?いや待て、そんな事見逃せるはずがない……!いくら、いくらうちの上層部が腐ってても……こんなの……!」


 ただ地図に円を描かれただけであるため、どこまで被害が出るのか正確なところはわからない。


 だがこの爆発の円を見る限り、最も近くにある町などは壊滅。コロンの街も、その端のあたりは効果範囲に入っているようだった。


「アメリカからすれば……パナマの運河はもっとでかく開通してたほうが都合がいいとかそういう感じか?」


「それはまぁ……そうかもしれないが。だからと言ってこんな……こんなことを見逃していいはずがない……!」


 スターズの面々はアメリカのマーカー部隊だ。今までずっと人助けをしてきたし、それをやることが自分たちの役割であるということは理解している。


 いくら他国とはいえこれだけの被害をまき散らすようなことを容認できるはずがなかった。そしてそれは周介たちも同じ気持ちだった。


「フシグロ、これが起きる正確な時間を割り出させてくれ。これが爆弾で起きてるのか、能力で起きてるのか……その辺りも調べないと……っていうかこの規模の爆弾ってあるのか?」


「これほどの……以前ロシアが最大級の核兵器の公表をしたが……それでもこれほどの大きさだったかどうか……」


「っていうか爆発であるかどうかもわからないのか……煙が上がってたって言ったよな?噴煙……火山の可能性は?」


『不明。今急遽他のクエスト隊の人たちに声をかけてあの子が見た映像を図示してもらってるところ。それと、南側でも被害が出てるみたい。こっちは……スエズと同じ。川幅を広げるような形で陥没、それと一部地面の隆起』


「ってことは、スエズの犯人は南側にいる可能性大ってところか」


『あくまで現段階ではね』


「……予定は変わらない。スターズ、お前らは北側を担当してくれ。この爆発……いや、爆発かどうかもわからないけど……情報はわかり次第すぐに届ける。これは止めないとやばい……場合によっちゃ……各姉妹組織にこの情報流してアメリカ側にも圧力かけることを考えないとな……」


「北側の避難を行う必要もあるかもな……さすがにこれは見過ごせない」


「あまり派手に動くと爆発の場所を変えられる可能性もあるけど……もともと運河北側を標的にしてるから人的な誘導は問題ないか……?かなりこっそりやるか……本格的な予知チームと検討してもらわないと被害悪化しそうだな。そこだけ確認だ」


 十キロ規模での爆発。あるいはそれに近しい現象。それらが起きるとわかった時点で今まで想定していた被害とは比べ物にならない。


 目的は一貫して運河の拡張、ないし管理機能の停止という形ではあるが、それでも放置できるレベルを大きく超えていることに間違いはない。


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