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アロットロールゲイン  作者: 池金啓太
番外編『世界の垣根を超え崩す』

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1718

 周介達がホテルに着いた後、拠点を経由してラビット隊にはとある指示が出されていた。


 それは予め知らされていたアメリカのマーカー部隊スターズとの会合だった。


 周介達は装備を身に着け、パナマの一角へと集まっていた。場所の指定もアメリカからされていた。パナマ運河の南側にある出入り口のすぐ近くにあるクライトン公園。とにかく広い芝生と、所々木々の生えた自然公園だ。


 殺伐とした空気の現場とは異なり、穏やかな雰囲気が流れているこの公園で、周介達はスターズを待つ間芝生の上でくつろいでいた。


 こうやって日向ぼっこをするなどいつ以来だろうか。もっとも、パナマ自体が赤道に非常に近いために日向ぼっこというレベルを超えて暑いのだが、そこはもうご愛敬というものだ。


 太陽の下で、ただぼーっとする。周介にとってはなかなか珍しいことだった。最近働き詰めだったから、こうして何もしない時間というのは、最後にはいつ過ごしただろうか。


 芝生の上で寝転がり、強い太陽の光を感じながら僅かに流れる風の音を聞く。太陽の光のおかげで体に熱がこもるのも心地よい。


 このまま寝てしまいたい。そんなことを考えていると、周介の周りで控えていた玄徳が僅かに動く。


「兄貴、いらっしゃいました」


 玄徳の言葉に周介は体を起こす。その視線の先には何人かの能力者らしき装備を身に着けた人物たちがこちらに歩いてくるのが見えた。約一名、非常に早歩きになっているのが見えて周介は笑って手を振る。もっとも相手には表情など見えていないだろうが。


 周介は立ち上がってその人物を迎える。周介の存在をしっかり確認したからか、最後には全力疾走ですぐそばまで駆け寄ってきていた。


「やぁトイトニー。何も走ってこなくても」


「ラビット!こうして直接会えるのはいつぶりだ!?相変わらず軽いな!ちゃんと食事は食べてるのか!?本当に久しぶりだ!元気そうで何よりだ!」


 周介を脇から抱きかかえて持ち上げて振り回す。そして一度地面に置くと両肩をしっかりつかんで親愛のハグ。アメリカ式の挨拶はどうにも慣れない。


 会うたびに周介の持つトイトニーの印象はもう大型犬のそれに近くなっている。全力で信愛を表現してくるから、何というか拒みにくいのだ。


 実際、こうして直接会うのは実に久しぶりだ。一体何年ぶりだろうか。初めて直接会ったあの船の牢屋から十年。随分と長い付き合いになったものだ。


「そっちも元気そうで。ちょっと痩せたか?」


「わかるか?腹周りを少しシェイプアップしたんだ。とはいっても本職の戦闘部隊には劣るがな。ぜい肉を落とした程度だ。そっちは……新メンバーか?前と少し構成が変わっているな」


「あぁ。こっちは戦闘部隊からの出向やらもいるからな。前からメンバーが変わったのは三人。05以下のメンバーが変わってる」


「そうか。よろしく頼む。こっちは……ってまだあんな所にいる。おーい!何やってるんだスターズ!早く来い!足に鉛でもついてるのか!?」


 早く着いたのはあなたが走ったからだろうというツッコミは野暮だろうかとその場で周介に絡むトイトニーを眺めていた他の面々は苦笑するほかない。


 なんというか、憎めない人物だ。


 周介のことをここまで信頼し、懐いていると言ってもいいような人物はかなり少ない。


 大抵が信頼はしていても、どう動くかわからないが故に警戒したりするものなのだがトイトニーにはその様子が一切ない。


 最初からそれが周介なのだとわかっているような節すらある。


 不思議な関係性だ。一言では表すことはできないが、どういう訳か、その関係性が羨ましく思うことがある。


「トイトニー、そんなに急がなくても、別に焦るようなことはないだろう。それに、他所のチームのトップになんて扱いだ。失礼だぞ」


「何言ってる。これが良好な関係という奴だ。本当なら肩車だってしてやりたいくらいだぞ」


「それはさすがにやめてくれ。もう肩車にはしゃぐような歳じゃないんだ。久しぶりです。スターズの皆さん」


 周介がラビット隊を代表して前に出て小さく会釈した後右手を差し出す。


 その右手をスターズの隊長が即座に取る。


 細身ではあるものの、筋肉質な体をしているその人物。スターズの面々だ。周介たちのような全身を包む装備とはまた違う。そしてトイトニーが着ているような航空機のパイロットをほうふつとさせる装備品ともまた違う。装飾が多く、よそ行きと言った印象を受ける服装だ。


 マーカー部隊ということもあって、その辺り着飾っているのだろうと周介は解釈していた。


「久しぶりだラビット01。また君達と一緒に動くことができるのは、運がよかったと思うべきかな?それとも心配するべきかな?」


「後者だと思いますよスタージョー。今回は指揮系統ご自由にって感じらしいじゃないですか。なんで好き勝手やらせてもらいます」


 スタージョーというのがスターズの隊長のコールサインだ。トイトニーのそれと同じように、部隊名の後に名前がつくのがアメリカの部隊の特色でもある。


 以前一緒に活動したことがある事もあって、周介のことを知っている。その行動の突飛さもよくわかっているのがありがたかった。


「怖いなぁ。パナマの連中も、アメリカの上役も君の危険性を理解してない。まったくもうちょっと危機管理能力を身に着けてほしいものさ。君の外面がいいからかな?」


「ふふふ、他所の上役の人と会う時は優等生してますから。ちゃんと使い分けてますよ」


「そう言うところが怖いんだよなぁ。まぁ、いざって時は、頼りにさせてもらうよ」


「喜んで。今回はエリア分けされてますから、助けがいるかどうかは微妙ですけど」


 仕事の場所が離れていると援護もしにくい。ただ、周介達であれば数分もあればたどり着けるのは間違いない。飛行機の上から見たが、パナマの空は飛びやすそうだった。


 問題なく駆けつけることはできるだろう。


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― 新着の感想 ―
[良い点] 現場からすれば、いざという時は常識を無視して駆けつけてくれるっていう解釈もできますね。 躊躇しない。
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