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アロットロールゲイン  作者: 池金啓太
番外編『世界の垣根を超え崩す』

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「ワーカー部隊がそんだけでて、戦闘部隊も出るってことは、何かしら動きがあるってことだよな……被害はどれくらい出る想定なんだ?それも知らされてない?」


 周介達は大太刀部隊二に対し小太刀部隊三という構成だ。アメリカの構成もやや小太刀、つまりはフォローに回る部隊が多い構成となっている。だが日本のそれとは数が段違いだ。


 ワーカー部隊はそれこそ周介たち全員を足しても足りないほどの数が展開することができる。


 アメリカの能力者組織の強みは人海戦術。一度の現場に大量の能力者を展開できるというところである。


 復興に役立つ能力者の数も多いが、同じかそれ以上の戦闘部隊を擁している。


 多少復興に人が割かれてもこうやって別の国に派遣できているのがその証拠だ。


 アメリカがそれだけの人を出す。つまりはそれだけの被害が出るのではないか。そんな風に周介は考えていた。


『正直俺たちもわかっていない。展開範囲と状況から、俺たちのような外部の人間は人の少ない場所に配置されている傾向が強いのはわかっている。それが意図的なものなのか、予知に沿った自然な形なのか、正直判断ができない』


「そうだな。主に人がいる場所は地元やら、近くの国の人間がフォローしてる感じだし……やっぱり外部の人間に実情を知ってほしくないのかね?」


『それもあるだろうな。だがもう一つ。日本のラビット、合衆国のスターズ。この二つの部隊が同時に動くんだ。その注目度は大きいだろう。そんな中で、地元の部隊よりも活躍するような場を見せたくないのかもしれないぞ?』


「まぁ、俺らは目立つし名前だけは通ってるもんな……」


『あのロボットも持ってきているんだろう?それなら市街地よりは人のいない場所の方が動かしやすいだろう』


 周介の持ってきているラビットシリーズはとにかく大きい。その為一般人を巻き込まないための運用に非常に気を遣う必要がある。


 そう言う意味では人の少ない場所の方が都合がいいと言えばその通りだ。


 何より人のいない場所ならば好きなように行動できる。何かを壊したとしても多少は目立たないように調整することもできる。


 今回の敵が地形そのものを大きく変えることを目的としているために、周介達からすれば人のいない場所に放り出してくれたほうがいろいろと手を打ちやすい分楽だった。


「ただ、市街地の方が被害が出た時やばいだろ?フシグロ、パナマの能力者部隊ってどれくらい出てきてるんだ?」


『今回活動予定なのはパナマの能力者組織に所属してる約半数。と言っても現場に出られる部隊を全部動員してるようなもの』


 訓練を必要としているものや、現場仕事に向かないもの、現段階では未熟なものも多いだろう。それを考えれば半数という数はほとんど全戦力に等しいのかもしれない。


「あー……それじゃ地元?の人たちだけで街の方を構成するのは別におかしな話じゃないのか……そうなってくると文句言えないな」


 もしこれで戦力に余裕を持たせていて、なおかつ自分たちの得意とする場所を別の国の人間に任せていたり、逆に面倒な場所を押し付けているような形であったのであれば文句を言うこともできたのだろう。


 だが実際は組織のほぼ全戦力を投入して事に当たっている。自分たちでできることを全力で行おうとしているということであれば文句を言うことなどできるはずもない。


 他の国の力を借りなければどうしてもこの状況を打開できないということがわかっているのがまた悲しいところではあるが。


「パナマの姉妹組織……いや、あのあたりの姉妹組織はアメリカの方から結構支援受けてたんだっけ?」


『あぁ。昔からよく救援や補助の依頼が入っていた。訓練のための教官なんかを派遣したこともある。あのあたりの姉妹組織は構成員の数が少なくてな。それに問題そのものがそんなに起きていなかったから、たまに問題が起きると結構面倒だったのを覚えている。派遣されてる数もそれなりだったな』


「それって能力が表に出る前も?」


『基本的にあり方は変わっていないが、能力が表に出てからはほんの少し派遣の割合が変わったとは聞いている。運河のあたりの利権の関係と周辺各国の政府からの圧力が多少なりともあった形だろうな』


 その話を聞いて周介は面倒くさいなと心底思ってしまっていた。


 単純に協力し合うことができればいいのだが、大きな金が関わってくると国同士で純粋な協力というのが途端にできなくなるのが本当に厄介だ。


 少なくとも現状でもそれは起きている。


 世界の中でもかなり有名な二つの運河。そのうちの一つが既に被害を受けたというのにこのざまなのだ。

 人間の業の深さを見せつけられているような気分である。


「その時から、派遣する時の指揮命令系統はどう変化したとかあるか?今回のこともそうなんだけど、基本何処が統括するのかなって思ってさ」


『表に出る前まではアメリカが主導することが多かった。だが表に出た後はどの国が主導するというのは自粛していたな。それぞれの国のやり方に特色というか……何というか……癖のようなものがついて行った。合わせるのが難しくなったというべきか……?』


「前に俺らがアメリカと行動した時はそんなに癖があるとは思わなかったけど……そういうのやっぱりあるのか?」


『利権が絡まないような場所であれば問題なく協力するということなんだろう。結局政府側からの圧力が関係しているんだろうな』


「能力が表に出てよかったのか悪かったのか……」


 能力が表に出たことによって問題が表層化してきたのは間違いない。わかりやすくなったというのはいい点なのだろうが、今回の場合に関して言えば、あまり良くない流れになりつつあると周介は感じていた。


「今回の指揮命令系統も同様か?もう各国好きにやってくれって感じ?」


『どこの国も主導権を取ろうとはしていないな、パナマに気を遣っているのか、合衆国に遠慮しているのか……ここまで消極的な出だしも珍しい』


 色々な利権が絡むような状況だからこそこのような状態になってしまっているのだ。本来であれば援護をもらった国か、援護の中で最も経験豊富な部隊を要する国が主導権をとって指揮をするものだ。


 今回の場合であればパナマかアメリカが該当するだろう。ただアメリカ側が主導権を取ろうとする気配は今のところなさそうだった。


「もう何だっていいからさっさと決めてほしいんだけどな。そのあたりどうなんだよ。アメリカでいいからとっとと主導権とってくれない?」


『俺にそれを言われてもな。少なくとも上層部は指揮権を取ろうとは考えていない。別のところで実を取ろうとしてるというべきか』


「どんな実があるのか知らないけど参加してるこっちとしたらそういう間に挟まるような状況困るんだよ。とっとと指揮権とらないと俺がなにしても知らないぞ」


『すごい脅し文句。マーカー部隊とは思えない』


「褒めるなよ。照れるぜ」


『褒めてない』


 とっさに入ったフシグロのツッコミにも周介は動揺する気配は皆無だった。それどころか堂々と対応している。


 そんな様子にトイトニーも思うところがあったのだろう、大きくため息を吐いていた。


『正直に言えば、今の上のやり方は俺も好きではない。好き勝手にやっていいというのであれば、俺たちにだって考えがある』


「お、なんだなんだ、お前までやる気か?暴れるなら手を貸すぞ?」


『お前程ではないが、俺だっていろいろと思うところがあるんだ。いくらなんでも今回の状況を前に上は悠長すぎる。世界が壊れるかどうかの瀬戸際かもしれないというのに、利権がどうの立場がどうのと……』


 一度口から出てしまった文句はそう簡単には止まらなかった。どうやらトイトニーもだいぶいろいろとため込んでいたらしい。


 この十年働き詰めだったのは何も周介だけではない。


 能力を使って機械を操作することができるような人種は貴重だった。その中に当然トイトニーも含まれた。

 そう言う意味では彼もまたこの十年現場を駆けずり回っていた能力者の一人だ。


 現場と上層部の考え方の違いというものは嫌というほど感じて来たことだろう。


 それは周介も同じだ。もっとも周介のいる日本は周介が酷い目に遭ったということもあって、割と上層部がしっかりと危機感知をしてくれる。


 逆にそれができなければ鬼怒川という周介を狙う人間が暴れ出すからこそ、そうせざるを得なかったのだが。


「そっちの方は思ってたよりも面倒くさいんだな」


『軍とのつながりが強いのと、軍自体が政府とのつながりが強いのが原因かもしれないがな。表に出てきて組織への干渉はかなり強くなった感はある。救助や救援を行い続けているからか、その辺りの仕事と組織への命令の境界が曖昧になっている』


「あー……確かにそれはあるかも。日本でも似たようなもんだ。やっぱりどこも似たような問題があるんだな」


 日本でも同じようなことはあった。特に救援や救助を本格的に行っていた時期には、政府やスポンサーから山のように仕事が舞い込んできたものである。


 普通であれば断るような内容もかなり依頼として入っていた。単純に頼めばやってくれる程度の認識を持っていたのかもしれない。あるいは体よく利用されていただけかもわからない。


 どちらにせよ組織側からすれば迷惑な部分はあった。


 救助や救援、復興のために行っていることは、正直に言えば能力者組織からすればやらなくてもいいことだ。


 組織の本来の目的を考えれば、あくまで問題行為をしている能力者の捕縛などだけを行っていればいいのだから。


 ただ表に出た以上、ある程度外面も良くなくてはいけない。その為のマーカー部隊でもあるために文句も言いにくかった。


 どこも似たような問題があるのだなと、周介は安心していた。安心していい内容なのかどうかはさておいて。


「今回のそれもその延長線か……指揮系統だけは本当にちゃんとしておいてほしいんだけどな……」


『勝手にやっていいということであれば俺たちからすれば楽な方だろう。きちんと指揮下に置かないと大変なことになるといういい例だ』


「確かに。そういえば俺はこの辺りで活動したことなかったからな……」


 周介が活動したことある場所では、ラビット隊の活動内容は割と知られている。


 逆にそれ以外の場所ではラビット隊の名前は知られていても具体的な活動内容までは知らされていないことが多い。


 当然と言えば当然だ。誰も好き好んで自分の手の内をばらそうとはしないものだ。


 だからこそ、周介がどんな動きをするのか、ラビット隊がどのような行動をとるのか、基本的に知らないものが多い。


 そんな能力者を放置したら危険になることは、一緒に活動した国の人間ならばわかる事だった。


 だがこのパナマの活動において、それを知っている者は少ない。それが彼らにとっては好都合だった。


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