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アロットロールゲイン  作者: 池金啓太
番外編『世界の垣根を超え崩す』

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「……あの、そんな状態で完全部外者の俺ら日本が横から口を出すのってやばいですよね?むしろいかないほうがいいのでは……?」


「そこで日本とアメリカの関係性さ。アメリカと日本は結構姉妹組織の仲がいい。アメリカからすればそこを利用したいんだよ」


「利用って、具体的には?」


「まぁなんかあったら日本が助けに来てくれるとかそんな感じ?本来のパワーバランス的には逆なんだけどさ。能力者的な知名度は世界の中でも日本はトップクラスだから」


「日本はっていうか、ラビット隊は、だろ?だからさっきラビット隊だけ別の話が出たわけだな」


 事情に敏い何人かが納得したようにうなずいている。現在復興の関係上動きにくいアメリカが知名度だけは高いラビット隊を利用して、アメリカという国は国際的な有事に対してもしっかりと対応しているというアピールをしたいのだろう。


 別にそれ自体は何も問題はないのだが、本筋からだいぶ外れた内容であるために複雑な気分であると言わざるを得ない。


 アメリカのマーカー部隊の一つと会ってほしいというのも、実はそういう南北大陸間のパワーバランスの維持が目的なのではないかという邪推も生まれてしまうほどだ。


「まぁまぁそういう向こうの事情は一旦置いておこうじゃないか。今重要なのは指揮命令系統だよ。こういう場合、主導するべきは現地の国の姉妹組織なんだけど……ただ今回パナマの姉妹組織はかなり及び腰なんだよね。まぁ、アメリカにだいぶ気を遣ってるっていうのもあるんだろうけどさ。しかも南側だって無視できない。むしろ気を遣う相手だよ」


「形だけでもいいからちゃんと指揮命令系統だけは決めてほしいですよね……どこが上になるかで俺らすごく判断に困るんですけど」


「南北の両方に気を遣わなきゃいけないパナマとしては完全に板挟みだよね。かわいそうと言えばかわいそうなんだけど」


「そう言うのいいんで。んで、結局どうなってるんです?形だけでもパナマが上になっておいたほうが軋轢は少なくて済むと思いますけど?」


「僕もそう思うよ。南北どちらかの国が指揮系統でトップに立てば、当然それは選ばれなかった方が不満をため込むことになる。選ばれなかった時のことを考えてアメリカは先手を打っているんだ。まったく面倒なことこの上ないよ」


 指揮命令系統は現場で活動するうえでは重要だ。特に今回のように広範囲で活動しなければならないとなればなおの事。


 命令系統の確立。そして情報収集と伝達の方法の確立。問題が起きた時の対処の方法など確認しておくべきことは多く、決めておかなければいけない事は多い。


 だというのに、恐らくはまだ決まっていないのだろう。パナマの姉妹組織に決定力がないのか、それとも単純に指揮命令系統を保持できるほどの人材がいないのか。


 そんな状況下でいったい何をどうしろというのか。現場で活動することになる周介としては頭の痛い話だった。


「元々さ、パナマとかキューバとか、その辺りの国はアメリカの姉妹組織にだいぶ助けられてたんだよ。そういう事情もあって無下にできない」


「姉妹組織でもそういうのあるんですね……面倒くさいなぁ……」


「組織が表に出ていなければ、パナマの利権とかそういうのを全部置いといて決定できたんだけどね。その辺りは表に出ちゃったが故の欠点だね」


「んで、どうするんです?俺らは向こうで誰の指示の下動けば?まさか各国の姉妹組織でどうぞご自由に好きなように動いてください……なんて言いませんよね?」


「さすがにそれはない……と思いたいなぁ……こうやって行動範囲を決めているんだから、誰かが決めてるのは間違いないと思うんだけど……」


「逆に、命令系統がバラバラでも活動できるようにエリア分けしたとか……?」


「あぁ、あり得るな。そのほうが好きなようにできるって意味ではいいんじゃないですか?やっちゃいけない事だけ伝えておけばあとはお好きにどうぞ的な」


「あっはっは。まさかぁ!…………………………いや、まさかそんな……ねぇ……?」


 会議に参加してる冗談で言ったつもりだったのだが、ドクは実際それが一番あり得そうな状況に青ざめていた。


 そんなことはないと思いたい。何か国もの姉妹組織が集まるというのにそれを統括するような人間もいないで活動するなど自殺行為だ。


 指揮命令系統が無茶苦茶では何もできはしない。矛盾した命令が飛び交って面倒ごとになるのがおちだ。


 せめて情報統括だけはしたい。全員が情報を常に共有し、同じ目的の元活動しなければ協力する意味がそもそもないのだ。


「一応、お願いだけはしておくんだけどさ、周介君」


「……なんです?」


「万が一の時、現地の指揮お願いできる?」


「はい?なんで俺が?」


「この中でこれだけの参加人数の指揮をしたことがあるの、君だけなんだよね。ほら、三年前の海外遠征。あの時も百人規模だったでしょ?」


「あれは……一時的に電波障害っていうか、他の姉妹組織の連絡が途絶えたから臨時でやっただけでしょうが。今回のそれとはわけが違いますよ」


「でも、統括指揮が雑に決められた場合、現場指揮が何よりも重要になるのは間違いない。各国の姉妹組織からくる部隊がどういう編成なのかは不明だけど、旗振り役は必要だ」


 そんな嫌な役回りを押し付けられるのは嫌だなと、周介はものすごくその気持ちを表情に表した。

 それはもうこれでもかというくらいに。


「そんなにいやそうな顔しないでよ。僕だって別に言いたくて言ってるわけじゃないんだからさ。実際、五十キロを超える範囲での活動で、一人の人間に指揮命令権を全部与えるってのは現実的じゃない。たぶん、ある程度エリア分けすることになると思うんだ」


「それこそ、さっきの色分け配置みたいに?」


「そう。けど、具体的にそれがどんな形になるかはわからない。現時点でそれができそうなのは、マーカー級の部隊だけだ。今回出撃が確定している部隊だと、日本のラビット隊とアメリカのスターズがこれに該当するね」


 現場での指揮というものは遠くの拠点からするものとはまた違い、具体的かつ状況に即応した指示が出せなければならない。


 情報を統合して大まかな指示を出すのが拠点からの指示だとしたら、現場指揮は具体的な対応、対策、そして行動の指示が求められる。


 周介は確かにそれを何度もやってきた。この十年の間にずっとこなしてきたと言ってもいい。


 他にも日本には何人か、同様に現場指揮ができる人間がいる。ただ、今回活動できる人間の中では周介だけだ。


 十数人レベルの指揮であれば、隊長格の人間はこなしてきているために不可能ではないだろう。


 だが、今回の作戦は規模が違う。各地に散らばる自分の部隊の統括はできるだろうが、それ以上の、さらに上の指揮となるとまた別の技量が必要になる。


「わかりました……万が一の場合に限りですよ?」


「そう言ってくれると思ったよ。頼りになるね」


「ただし条件が一つ。手越、お前も予備指揮官だ。俺になんかあった場合は指揮しろ」


「なんで俺なんだよ」


「お前、俺と一緒に何度か指揮したことあっただろ。あれの延長だ。手伝え」


「あのな、俺なんてせいぜい百人以下の指揮だったんだぞ。それも一回だけだ。そんなんで手伝えとかよく言えるな」


「十分だろ。この中じゃ一番の指揮経験者だ。俺だってそんな規模の指揮は数えられる程度しかこなせてないんだよ」


 世界中飛び回っている周介でさえ、百人規模の指揮は十回あるかないかというところだ。


 それをこれからさらに広範囲でこなすとなると、一人だけでは手が回らない。


 どうしても予備指揮官が必要になる。


「んじゃなんでうちの隊長じゃねえんだよ。隊長の方が適任だろ」


「小堤先輩はアイヴィー隊の要だ。そっちに集中してもらう。お前はいろいろできる分視野が広いからな。そっちで活躍してもらう」


 その指摘に手越は返す言葉がないのか、歯噛みしながら周介を睨みつける。だが最後には納得したのか、大きくため息を吐いていた。


「それと、言音」


「はいはい。どうしました?」


「お前も予備指揮官だ。お前の場合は現場指揮というより、俺と手越に何かあった時に撤退を指示しろ。できるな?」


「うっす。撤退だけでいいのであれば」


 昔の言音であれば、もっと返事に時間がかかっただろう。だがこの十年の間、そしてキャット隊の隊長を任命されてからの間、言音は多くの経験をしてきた。


 大部隊というわけではないが、それなりの数の部隊員を指揮し、数多くの装備や資材などを常に動かし続けた。


 現場経験という意味では、この中でかなり上位に入るほどの経験を積んできているのがこの言音だ。


 現場の対応の中で、戦闘面に関してということだと彼女も勝手がわからないが、撤退するための指示に関してであれば、普段の撤収の手順を守ればいいだけであるためによくわかる。


「予備含めて現場指揮官三人。可能ならもう一人欲しいところではあるね」


「そこはフシグロに頼みます。情報の精査という意味でも、共有という意味でもフシグロが一番現地の情報を俯瞰して把握できるはずです。フシグロ、頼めるか?」


『わかった。と言っても私は指揮の経験は少ないから、あくまでこういう状況だからこうしたほうがいいんじゃないかってことを提示するだけになっちゃうけど』


「十分。主な指揮は俺と手越でやる。そのフォロー頼む。って言っても、あくまで向こうの命令系統がまともじゃなかった場合の話だけどな」


 現地での指揮命令系統が無茶苦茶だった場合、最終的に自分たちで判断せざるを得なくなる。


 そういう時に予め予備指揮官を付けておくのは必須事項だ。


 指令が届かなくなった瞬間に何もできなくなるということは避けたい。そもそも他国が指揮をするつもりがあるかどうかも分かったものではない。


 板挟みにあった結果、まったく別の姉妹組織に指揮を任せるという可能性もあるために、少し不安でもあった。


「ドク、現地の状況を鑑みて拠点からも指示を貰えますか?特に他の姉妹組織の動向がどういう感じとかそういうの」


「了解。ただ現地にいない分、的外れなところも出てくると思うよ?」


「そこは構いません。俺らはあくまで現地での活動をします。他の姉妹組織とのつなぎをお願いします」


 他国との協力をする場合、必ずつなぎとなる人間が必要だ。そういう時は顔の広い人間が適任である。ドクはその条件を満たしていると言っていい。


 後のことはどうするか、一度全体で話すしかない。そこは集まってから再度確認するほかなかった。


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