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アロットロールゲイン  作者: 池金啓太
番外編『世界の垣根を超え崩す』
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1711

「お前な……なんで俺らを巻き込むかな」


 周介はさっそく今回一緒に活動する面々を集めてブリーフィングを行っていた。


 その中で、かなり付き合いの長くなった同級生にして能力者仲間の手越が不機嫌そうに舌打ちする。


「そう言うなよ。お前がいてくれるとこっちとしてはめちゃくちゃ楽なんだ。こういう時に伝手を使わないでどうするんだよ」


「ったくよぉ……にしたってアメリカだろ?いやパナマか?どっちでもいいや。めちゃくちゃ遠いじゃねえかよ。世界の反対側にいきなり行けって言われるこっちの身にもなれよな」


「そう言うなよ。俺だって別に行きたくて行くわけじゃないんだから」


 こうやってさも当たり前のようにしっかりと文句を言ってくれるだけ手越はありがたいものだ。


 文句を言わずにため込んでしまうよりもずっといい。何を考えているかもわからずに右往左往されるよりは周介としてもやりやすかった。


「っつかさ、それだったらいっそのことノイズ隊も呼べばよかったのに。そうすりゃ同世代が全員揃ったじゃんかよ」


 そう言うのはミーティア隊の福島だ。彼もまた今回の作戦に参加する。周介の同世代は残りは十文字くらいだ。他のメンバーは既にこの場にそろっているため、十文字だけが仲間外れになってしまったような形になる。


「仕方ないだろ、街中での戦闘もあり得るんだ。ノイズ隊の能力だと周りの人間巻き込む可能性大だろ?」


「まぁそりゃそうだけど……っていうもう何回連続で出撃?俺ら超勤やばいんだけども」


「ミーティア隊は人気部隊だからな。仕方ねえだろ。俺らだって、んな事言ったら仕事詰めだっての」


「うちも結構あれだけど……アイヴィー隊も忙しいからな……新しい隊員も結構いるし、大太刀部隊の訓練にも出てるんだろ?」


「現場仕事が多いからな。現場経験も大事だけど戦闘経験詰ませておかないと後で面倒なことになりかねないし……つーか一番忙しいのラビット隊だろ。表の仕事もやってんだからよ。頭おかしいんじゃねえのか?」


 表の仕事というのはいわばテレビなどのメディアへの露出の話だ。周介達ラビット隊は今、現場活動、拠点での訓練、そして一般人向けの仕事などもこなしている。その為に非常に多忙だ。おそらくこの拠点の中で一、二を争うほどの忙しさだろう。


 そんな状況でもさらに仕事をしようとしているのだから頭がおかしいととられても仕方がない。


「やることがはっきりしてたほうがいいんだよ。それに復興作業も大体片付いた、これからは少しは楽になるだろ」


「本当にそう思うか?」


「……今回のこれが無事に片付けば、楽になる」


 逆に言えば今回のこれが失敗し、何らかの大災害が引き起こされた場合、また復興作業のやり直しなどということになりかねない。


 そんなのはまっぴらごめんだ。周介としてもこれ以上の被害をまき散らされるのは勘弁願いたいところである。


「それならもっと大太刀部隊連れてってもよかったんじゃないのか?最近新しい部隊だって結構増えてるだろ?そいつらを連れてけばお手軽に戦力は増やせるじゃんか。索敵が大事ってのはわかるけどよ」


「敵の戦力も不明だから、ある程度ベテランで揃えたかったんだよ。どんなことが起きるかもわからない、そんな状況で新しい部隊の人間を連れていきたくない」


 確かに何が起きるかわからない状況下で離れしていない人間を連れていくというのはリスキーだというのは手越も理解できる。


 そもそもが海外での活動となると面倒なのだ。その辺りに慣れているとなるとかなり限られてしまう。

 この十年で世界的に活動をしていた部隊は関東拠点の中でもかなり限られてしまう。


 ラビット隊は言わずもがな、BB隊やミーティア隊がその筆頭だ。状況に応じてビーハイブ隊なども行動していることが多い。


 アイヴィー隊は数える程度しか海外の活動はしていない。元々小太刀部隊ということもあって国内の補助が目的の部隊だから当然と言えば当然なのだが。


「っていうか、うちの新人も連れていくのか?お前のところの新人も?」


「連れていくぞ。出向者も連れていく。なので全戦力投入だ」


「……どの口がベテランだけで行きたいとか言い出すんだよ……」


「アイヴィー隊は基本サポートがメインだから。大丈夫大丈夫。万が一の時はいろいろ手伝ってもらうけれども」


「その万が一が起きそうで嫌なんだよ」


 手越が頭を抱えている中、それぞれ呼び出された部隊の人間は言音率いるキャット隊に自分たちの装備に関しての相談をしている。


 装備を現地に持っていくためにはキャット隊の力が必要不可欠だ。その為いろいろと書類に装備一式を記載してそれらを装備置き場から回収していく必要があるのだ。


「若、今回ラビットシリーズは出すんです?」


「あぁ、全部出す。容量圧迫しちゃうだろうけど頼むよ。俺がパナマにいるってことのアピールにもなるからな」


「アピール?どういうことだ?」


「俺も全部は把握できてない。けど、アメリカ側から、俺をスターズ……向こうのマーカー部隊と引き合わせたいっていう要望があった」


「ほー。またそりゃなんで?対談でもすんの?」


「そんな平和的ならいいけどな。何かしら予知した可能性が高いから、俺は俺でできる手段は全部持っていく。場合によっては飛行機墜落もさせるからよろしく」


「うげ、またあれやるのかよ」


 周介の最大の攻撃手段である飛行機の墜落。単純な質量と速度による攻撃であるために防ぐ手段が限られる最終手段でもある。


 それを使うほどなのかと、他の面々は怪訝な表情をしていた。


「さて、全員揃ったみたいだから、ブリーフィングを始めるよ。みんな席について」


 ドクがやってくると同時にいつものように全員が静かになる。


 このブリーフィングも慣れたものだ。全員が表示されている地図を見て状況を判断しようとしていた。


 映し出された地図にはパナマ運河の全域が表示されており、いくつかのエリアが色分けされて表示されていた。


「今回パナマ運河の周辺で確認された事象は、現在予知の能力者たちによって細かい時間まで把握を行っているところだ。その能力発動範囲が今色がついている範囲。ただ問題は、どこに敵がいるのかが判別できていないというところなんだ」


 未来予知を行える能力者がいるというのに、問題が発生する事象は確認できてもその発動者が見つからない。


 その状況にドクの話を聞いていた全員が眉をひそめた。


 今回のスエズ運河の一件もあって、パナマ運河の同様の事象にはアメリカが強く干渉している。当然、アメリカの予知部隊も動いているだろう。だというのに見つけることができないというのは、相当隠れるのが上手いのか、あるいは見つからないような場所を使っているのか。


 アメリカの調査能力、予知の能力は少なくとも他の大国とは比べ物にならないはずだ。特に十年前の事件から組織再編と強化に勤しんできただけあって、先日の式典の事件への対処も十分以上にこなせていた。


 問題があるとすれば、それらの犯人がやはり見つかっていない点だろうか。


「式典の一件、そして研究所の襲撃に加え、スエズ運河の事件に関しても目標を見つけられていない。これはちょっと異常だ。そこで考え方を変えた。連中には隠匿能力を保有している能力者がついている」


 隠匿能力。


 それは透明になる能力だったり、相手から認識されなくなる能力だったりと、物を隠す、あるいは隠れると言ったことを得意とする能力者だ。


 当然、それを見破るのには通常の手段では難しい。相手の能力にもよるが、特殊な方法を取らなければ見つけることは不可能だ。


 透明になる能力であれば、物理的にいなくなっているわけではないので、サーモグラフィーなどの温度での確認や物理的な索敵などで見つけられる。


 相手の認識を阻害するような能力であれば、他者への干渉が不可欠であるために一定範囲内の人間の阻害しかできないため、監視カメラなどで見つけられる。


 その両方だったとしても、複合した調査を行えば見つけることはできる。


 隠匿系能力の面倒なところは、相手が隠匿能力を使っていると認識しないと探すという行為にも準備を要するため対応が遅れてしまうという点だ。


「アメリカもそう言うつもりで動いてる。そこでこの割り振りだ。この色分けしてある地点は、いくつかの姉妹組織間での警戒網の担当分けなのさ。それぞれが色分けされた場所を、隠匿能力がある事を前提にして調査、及び確認をする」


 単純にパナマ運河全域を監視するだけならばそこまで苦労もなかったのだろう。人手を出せばいいだけだった。


 だが、相手が隠匿能力を使っているとなると話が変わってくる。能力の詳細がわかっていない状態では、複数の索敵手段を用いて対応しなければならなくなる。それがとにかく厄介なのだ。


「フシグロ君のドローンや、アメリカの無人機なんかを使った監視は常に行う。それに加えて各員の索敵も特に頑張ってもらうことになる。細かい時間だけは今割り出しているところだ。問題は、それを止められるかどうかというところだね」


 未来予知というのは未来を見た段階のものでしかなく、また不確定要素が多いものだと簡単に覆ることがある。


 そしてドクがわざわざこんな言い回しをしたということは、現段階の予知で事象の発生を未だ止められていないということだ。


 アメリカ、日本、そして他にも幾つもの国が救援を回して対処をしようとしているこの状況でもまだ止められていないということだ。


 厄介な。


 未来予知を本格的に実戦に投入し始めたのは日本の関東拠点は世界の中ではかなり遅れてから。それも美鈴の一人の体制と来ている。


 そのせいで未来予知に対する知見がだいぶ少ない。だがこの状況があまり良くないものであるということはよくわかっていた。


「現状、監視網を広げることと、各監視範囲をラップさせることで索敵に穴が開くことを防ぐような形をとっているけれど、それでも敵が見つかる可能性は低い。もしかしたら、時限式……ないし、遠方からの能力の発動って可能性もある。そうなった場合、君らの仕事は目標の打倒ではなく、救助になっちゃうんだけどね」


 能力の時限式の発動。あるいは能力の遠方からの発動。


 能力の特徴によっては不可能ではないのだろうが、変換能力でそんなことができるのだろうかと、変換能力を保有していない面々は疑問符を浮かべている。


 ただ、もしそうだったのであればドクが何の対策も取っていないとは思えない。何せドクは変換能力などを多数扱う製作班のトップなのだ。その辺りの事情は知り尽くしているはず。もちろん、得手不得手なども。


「目標の数不明。戦力不明。ただし事象が起きることだけは確認されている。厄介なものさ。神がかりか、あるいは何かしらの新しい方法か……見つけることができないんじゃこっちも手の打ちようがない。ここまで見つからないとなると、ちょっと今の段階じゃ情報が少なすぎてお手上げかな」


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