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「正直、どこまでお前を関わらせるかは迷ってる部分もある。今回、だいぶひどいことになるだろうから、見る未来も、その分、今までとは比較にならないレベルの、いろんなものが見えてくると思う」
周介が気にかけているのはむしろそこだった。
美鈴が見ているものが周介には分らない。その為どのような凄惨な状況を目にしているのかがわからない。
普段からしてひどい光景を目にしているのはわかる。でなければ前のように美鈴が現場に出たいなどと言い出すこともなかっただろう。
だがこれから見るものはその比ではない可能性がある。まだ子供である彼女がそれを見てどのような反応をするのかわからない。
少なくとも教育にはよくないだろうということは周介も理解していた。理解しているからこそ迷うのだ。
「だから、強制はしない。お前が関わりたくないっていうなら、無理に関わる必要はない。今回の件はそれだけ危険なものだ。それこそ見るだけでも、トラウマになるかもしれない。そういうレベルのものだ」
普通に考えたら遠ざけておくべき事柄ではあるが、彼女の未来予知が優秀なのは間違いない。少なくとも彼女は一度それを証明している。
世界規模での危険ということもあって可能であれば協力はしてほしい。だがそれでも周介は強制はしなかった。
それを選ぶのは美鈴本人であるべきだ。最終的に自分で選んだことであれば納得もしやすいだろう。
「ちなみに兄さん、上層部はオッケーしたの?止められそうな気がするんだけど……」
「そこは確認済みだ。現場に連れていくのは絶対にNGだけど、拠点からの未来予知であれば問題はないとさ。簡単に言ってくれるよな、体だけが無事であればいいみたいな言い草で腹が立ったけど」
美鈴の能力で一番負担がかかるのはその精神だ。場合によっては流血、人体の破損、凄惨な状態を何度も見ることになる。
まだ成熟していない少女にそのようなものを見せることは問題ないと断定している上層部に怒りを感じるのも無理はない。
周介の珍しい怒気にその場の空気が僅かに変わるのを全員が感じたところで、すぐにその怒気は収まっていた。
周介自身、それを頼んでいるからこそ、自分も同類であるということを認識しているからこそ、上層部にこれ以上何かを言うことはできなかった。
「そういう訳だ。美鈴がこの拠点で未来予知をすることに関しては許可を貰えた。時差の関係もあるから、活動時間をずらしてもらうことになる。一時的に学校を休むような許可も取り付けた。あとは、お前がどうするかだ」
周介の言葉にこの場の全員の視線が美鈴に集中する。どうするかの結論は美鈴に託された。
「私が受けなかったら、どうなるの?」
「どうもならないよ。俺らはそのままアメリカへ行く。向こうの未来予知の情報とかも加味してって形になるから、今すぐってわけじゃないだろうけど」
「……雄太は?雄太はいくの?」
「当たり前だろ?俺はラビット隊の前衛だぞ?兄さんが来るなって言ってもついて行くつもり」
「正直雄太も少し迷うところではあったんだけどな。けど、前衛としての実戦を積むにはこういうことに慣れておかないとな」
雄太はついて行くと決めているらしい。そして周介もそれを認めている。
これは実績と能力の差なのだろう。それは仕方がないのはわかっている。だが少しだけ美鈴は寂しかった。
蚊帳の外に置かれているようなそんな気分だ。もちろん周介たちがそんなことを考えているとは思っていない。単純に向き不向きの問題なのだ。美鈴自身もそれはわかっている。
わかっていても、その疎外感をぬぐいさりたいという気持ちがわいてくる。
「私もやる。できることがあるなら、頑張りたい」
「…………そうか。わかった。それじゃあそのことについて上に伝えておくぞ。活動開始前までに、自分の体内時間をずらしておくこと。日本とパナマの時差は十四時間だ。半日以上のずれがある。気を付けろ」
「うん。みんなはどうするの?」
「俺たちは移動中に休んで時差を調整する。世界のほぼ反対側だ。移動だけでもかなり時間がかかるだろうから、休む時間は山ほどある」
世界のほぼ反対側ということもあって飛行機で移動したとしてもかなりの時間がかかる。周介達ラビット隊の構成メンバーの半分以上は海外での活動はよく行っているために時差の調整は慣れっこだった。
むしろ慣れていないのは雄太と出向組の響と萌子だ。
「隊長、俺ら飛行機とかあんまり乗ったことないんですけど」
「同じくっす。隊長が操縦してるやつがせいぜいで……飛行機の中で寝られるかどうか……」
「俺の操縦するのに慣れてるなら普通の飛行機とかむしろ快適だぞ?俺のは操縦荒っぽいんだから……旅客機なんて一般人向けなんだから余裕で寝れるし俺らの貸し切りにしてもらえるから好き放題できる。瞳、知与、その辺り教えてやってくれるか?」
「了解。着替えとかお菓子とか暇つぶしとか、その辺りを用意しておくのが一番いいわ。持ち込みはキャット隊にお願いするなりして。場合によっては空港で手荷物検査あるから面倒よ」
「眠りにくいのであればそのあたりの快眠グッズを持っていくのもありですね。睡眠の質はどうしても落ちるので、その辺りはあって損はありません」
周介が普段気にしないようなことも、瞳と知与はフォローしてくれる。こういう気遣いは本当にありがたいと、周介は安心して任せることができた。