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アロットロールゲイン  作者: 池金啓太
番外編『世界の垣根を超え崩す』
1707/1751

1707

「ともかくドク、アフリカ近辺に俺らを派遣するような仕事をください。どんなものでも運びますよ。救援物資でも材料でも装備でも危険物でも」


「フットワークが軽いところはすごくこっちとしても助かってるんだけどね。国際問題の種に首を突っ込んでいくのはもうちょっと躊躇してほしかったなぁ」


「躊躇して世界が滅ぶのと、躊躇せずかき回して世界を救うのとどっちがいいです?」


「うーんどうしようどっちも選びたくない二択だ。もうちょっとマイルドにならないかい?具体的にはかき回すの部分なくしてほしいんだよ」


「それじゃあ解決しないじゃないですか。ドローン大戦争をやらないとあの広い空間を探しきれませんよ。多分もう犯人は次の場所に動いてるでしょうし……あるいは別動隊が動いてるかってところですか」


 複数の研究所を同時に襲っているという時点でそれなりの数がいるのは確実だ。問題はそれがアフリカにいるかどうかという話でもある。


 だが逆に言えばつい先日スエズ運河での一件を起こしたなら、まだその周辺にいる可能性が非常に高いということでもあるのだ。


 この機会を逃す手はない。


 ただそれは周介に言われるまでもなくドクもわかっているところだった。


「連中が逃げそうな場所に関しては既に捜査網が作られてるよ。ただ、原発が多かったヨーロッパを除いてね」


「俺ならそっちに逃げますね間違いなく。次の目的地にもよりますけど、地中海を使ってヨーロッパに出てそこから経路をわからなくします」


「うん。他の国もそう読んだんだよ。スエズ運河からエジプトを出るには一日二日じゃ足りない。だから西側のエジプト国内と東側のイスラエルとの国境線。南側の紅海と北側の地中海。この辺りに捜査網を敷くように動いてる。アフリカにある国とかサウジアラビアとか、その辺りの国がすごい量の能力者を投入してるよ」


「……俺らの出る幕はなさそうですか?」


「今のところはね」


「けど、俺を呼んだってことは、何か仕事があるんですよね?」


 周介は休みのところを呼び出された。さすがのドクも状況を知らせるためだけに休んでいる周介を呼び出すようなことはしない。


 何かやるべきことがある。そう理解してるからこそ周介もやや急ぎ目に答えを出そうとしたのだ。


「話が早くて助かるよ。今回事件が起きたその周辺諸国はスエズ運河とその周りで包囲索敵をしてるんだ。僕らは、その逆を探す」


「逆?スエズの方は放っておくってことですか」


「うん。さっきも言ったけど、運河の利権の関係で周辺諸国、それとスエズ運河をたくさん使ってるような国関係はすごくやる気出してるんだ」


「やる気を……それまたどうして?」


「犯人探し出して捕まえて、そういう手柄を上げれば今後エジプト政府との運河の使用料の関係で優位を取れるでしょう?これかなり大きいんだよ」


「あー……そうですか」


 理由が金がらみなのが周介としては非常に複雑なところではあるが、やる気を出してくれる分にはありがたい話ではある。


 世界を救うためとかそういう話ではなく、金のために頑張るというのがあまりにも人間らしいというべきか。


「僕の読みだと、そっちでやらかした人間は見つけられると思う。問題は周介君も言ってた別動隊の方さ」


「となると、俺たちがやるべき場所は……アフリカの南側か、あるいは南アメリカですか」


 島国以外の大陸で、原発の被害を受けていない、あるいは地形を分断すればその被害がなくなる場所はその二つだけだ。


 オーストラリアやグリーンランドなどの最初から原発のない大陸や島国以外であれば、手を加えるような場所と言えばその辺りだけということになる。


「そう。とはいえ、アフリカで一度事件が起きたことで、アフリカの南側は警戒をかなり高めてる。だから僕たちが介入するべきは」


「南アメリカ。なるほど、それならトイトニーの伝手も使える」


「そう言うことさ。南アメリカにある原発は、一番北部にあるものでリオデジャネイロ。地図で言うとこの辺りだ。ちょうど大陸の東海岸側の真ん中あたり。そして今回のことでアフリカのように他の大陸からの陸路を分断するということをやろうとした場合……ここ、パナマ運河。スエズと同様に、大陸をぶち抜く形で作られた運河だ。ここを狙う可能性が非常に高い」


「北アメリカ大陸との陸路の分断。それと原発のある大陸南側との分断……どっちの方がありえるかでいえば……パナマですか」


「そう言うこと。連中が考えてることが、原発との隔離と特殊個体の流入の防止っていうことであれば、それが一番楽だし手っ取り早い。要するに生き物が自由に行き来できなければいいんだから」


「さすがに、南アメリカ大陸を上下に両断っていうのは、現実的ではないですか」


「その辺りは僕には分らない。リオデジャネイロのあたりから西海岸まで真っすぐに分断したとしても、距離は……二千七百キロくらいかな?稚内から宮古島くらいまでの距離だよ?いくら魔石で出力を上げられたって言っても、そこまでできるかどうか。実際のところ、どうだい?魔石を持ってる君の意見が聞きたいね」


 周介は自分の背中にある魔石に手を当てて僅かに考える。


 周介の魔石の保有量だって、恐らく世界で一番多いレベルだ。そうされたというのが正しいのだが、他の人間がそれができないという保証はない。


「不可能ではないと思います。変換能力の効果範囲に関しては門外漢ですが、この大きさの魔石で、俺の能力の効果範囲はかなり広がりました。これの倍くらいの量の魔石があれば……あるいは」


「今の周介君の倍……か……あり得ない数字じゃないね。元々三メートル以上あった魔石なんだ。世界各地で保管してた魔石……行方が分からなくなった魔石の体積を計算してみよう。どちらにせよまずいことになるのは間違いないんだけど」


「南アメリカでそれを起こされたら、あの密林とかが全部なくなる可能性が?」


「そうなったら真面目に世界終わるなぁ……あそこだけでどれだけの酸素生産してると思ってるのさ。世界中に植林したって時間が足りないよ……植物の力は強いって言ったって限度があるからね」


「ともかく、俺たちは南アメリカ周辺に行けばいいんですね?アメリカの方とかから、予知の結果やら調査の結果次第ではドローン大作戦やりたいって話来てるんですけど」


「それってトイトニーの意見でしょう?個人の意見を組織の総意にするのはちょっといただけないかなぁ……けど南アメリカの方で活動してほしいのは間違いないよ。君とトイトニーのおかげでアメリカとの関係は良好だしね。ぶっちゃけ向こうも物資たくさん欲しがってるから、運搬っていうことにすればいくらでも理由は作れる」


 アメリカだってまだ復興が完全に終わっているわけではないのだ。その為の支援物資ということにすればいくらでも周介たちが動く理由を作ることはできる。


 アメリカの姉妹組織も周介とトイトニーのこともあって良好な関係を続けることができている。


 多少の荒事はもみ消してくれる程度には、互いに信頼し合っていると言っていいだろう。


「こちらから出る人選は?俺が決めちゃっていいんですか?」


「君に決めさせるとちょっと怖いなぁ……ちなみに誰を連れていくつもり?四部隊選出してみてよ」


「誰でもいいなら……いや、アメリカにもちょっと気を遣うか……アイヴィー隊、ミーティア隊、ビーハイブ隊、後は俺達ラビット隊」


「…………思ったよりまともでびっくりしたよ」


 この十年でそれぞれの部隊もいろいろ様変わりしている。だがその性質自体はそこまで変わってはいない。


 前々からいた部隊は精鋭として扱われている部隊も多く、後進の育成の為にいろいろと奔走している部隊が多い。


 特にアイヴィー隊などは人数も増え、なおかつ後進の育成のためにかなり忙しそうにしているのを何度も拠点で見ていただけにそのあたりはよくわかっている。


「でもミーティア隊やビーハイブ隊を入れたのは?」


「ミーティア隊の広範囲索敵が必要でして。ビーハイブ隊はとにかく手数が欲しい時に。あとは俺らとアイヴィー隊がいれば何とか。前衛を張れる人間が少ないのが唯一の懸念ですね」


「確かに強化系変貌型が少ない編成だね。バランスはいいけど」


「アメリカに気を遣わなくていいならオーガ隊連れていくんですけどね」


「君も気を遣えるようになったんだね。僕は嬉しいよ。さすがにアマゾンを更地に変えるのは僕としても忍びないからね」


「俺らの手で世界崩壊を早めるわけにはいきませんから。オーガ隊を連れていくとたぶん地形変わりますし、そもそもあの人達、人探しには不向きですし」


 戦力的には申し分ないのだが、今回求めているのは索敵ができるだけの人間と、戦闘及び現場対応ができる人間だ。


 オーガ隊は十年たった今も戦闘特化型の部隊であるために、その辺りは難しい。


 即座に敵を見つけられて、戦闘の指示が出せればいいのだが、そういう訳にもいかないのが現実である。


「ちゃんと考えてくれてるようで何よりだよ。さて、メンツに関しては僕からも言うことはほとんどなさそうだけど……いや一つあるな。桃瀬君は連れて行かないでほしい」


 やはりそう来たかと、周介は眉を顰める。


 他の上層部ならいざ知らず、ドクはラビット隊の現状をかなり細かく把握することができている人間だ。


 美鈴を連れていく可能性がある事はよくわかっていただろう。だからこそ先にくぎを刺してきた。


「やっぱダメですか」


「ダメだね。さすがに戦闘が起きるような可能性がある状況で彼女を連れていくことは容認できない。個人的には、そういう経験をするのもありかなって思うけど、さすがに今回のはレベルが違う。今回は自重してほしい」


「……了解しました。まぁ、仕方がないですね」


 さすがの周介も引き際は弁えている。ここでドクと争ってもいいことはない。何より現場の状況が全くわかっていない状況でそんなことをすれば何が起きるかわからないのだから。


「ただ、拠点内で俺たちの映像を常に美鈴に共有してください。それで未来予知をしてもらいます。ちょっと集中して対応してもらうことになりますけど、それはいいですか?」


「うん、事が事だからそこはオッケーだよ。それで情報が得やすくなればそれが御の字だからね」


「あとは……ドローンの手配頼みます。数はたくさんあったほうがいいでしょうから」


「オーライだよ。準備はしてる。アメリカの方なら文句はそこまで言わないでしょう。あとはどういう風に守るかだけど……そのあたりは向こうと詰めることになる。周介君達は準備をしておいて」


「了解です。アメリカに行くのも久しぶりですね」


 周介は久しぶりのアメリカに少しだけ懐かしさを覚えていた。もっとも、現場ではそんなことを考える余裕はないのだろうけれど。


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― 新着の感想 ―
[気になる点] 新しい登場人物だ! 手助は休みのところを呼び出された。さすがのドクも状況を知らせるためだけに休んでいる周介を呼び出すようなことはしない。 手助→周介
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