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アロットロールゲイン  作者: 池金啓太
番外編『世界の垣根を超え崩す』

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「で、どうしてそんな能力者のことを?」


「この十年で、かなりのレッドネームが表に出てきた。今まで隠れていた、およそ八割以上の能力者が、暴れるなり人を助けるなり、いろんな形で行動していたんだよ。でも、ルッカー7だけは本当に音沙汰がなかった」


「……まぁ、ギャンブルがなくなっちゃったなら、仕方ないんじゃないですか?」


 ギャンブルを目的として活動をしていた人間であれば、ギャンブルができなくなったから活動しなくなったというのはわかる話ではある。


 ただ、ドクは気になるところがあるのだろう。


「特定の未来を引き寄せる、あるいは特定の結果を発生させる。そんな能力があったとして、それが相手にわたっていたら?」


「……危険なのはわかります。そんな能力があればの話ですけど……そんなことあり得ますか?」


「能力に関して、あり得ないなんて単語が出てくると思う?」


「……まぁ、それを言ったら俺の体そのものがあり得ないってなりますね」


 周介の体のことを引き合いに出されると、ドクとしても苦笑いするほかなかったが実際にそういうことだからこそ否定もできなかった。


「まぁ、ルッカー7だけじゃなくてさ、他の予知能力者……見つかっていないような人間でもいいよ。そういう能力者を味方につけていた場合、滅茶苦茶厄介なことになるだろう?そう思わないかい?」


「まぁ、そりゃそうですね……」


『出ました。ルッカー7の活動履歴です。直近のもので………………二年前にその姿が確認されてます』


「二年前?暴走事故の後で活動が確認されてたとは……」


『いえ、活動が確認されたわけではありません。報告にも挙がっていませんでしたので、先ほどの話から、全世界の全てのギャンブルに関係する監視カメラなどの情報を洗い出しました。もちろん復旧してるところだけなので、だいぶ数は少ないんですけど』


 相変わらずなんでデジタルな調べ方ができるはずなのにこいつは虱潰しを基本とした調査法をするのだろうかと周介は眉を顰める。


 そんなことはさておいて、どこで確認されたのかを見てみると、そこにはドバイと記されていた。


「ドバイ?ドバイって……どこだっけ?なんか西の方?」


「アラブ首長国連邦ね。二年前のドバイってことは……そうかドバイワールドカップ!そこにいたの!?」


 ドバイワールドカップというのは、競馬のレースの名前である。件の機械暴走が起きるまで、千九百九十六年から毎年のように続いていた歴史あるレースだ。


 二年前。それは長らく中止になっていたドバイワールドカップの再開を祝する記念すべきレースが開催された時でもある。


 世界中の競馬ファンが、何とかドバイに向かおうとし、あるいは中継などでその勝負の行方を見守ったものだ。


 もちろん、世界的に復興が終わっていない状態であったために、出走馬のレベルは以前より下がってしまったというのが専門家たちからの意見ではあるが、それでも多くの競馬ファンに感動を呼んだレースでもある。


『調べたらいたってだけなので、ほとんどの人間が見逃してると思います。この能力者、ギャンブルを楽しむこと以外でまともに活動してないので』


「うーわ。本当にギャンブル狂なんだな……っていうかドク、こいつがいると何か問題でも?」


「彼が捕まってないかってのを心配したんだけどね……二年前?あれ?去年のレースにはいないのかい?」


『確認できませんでした。他のギャンブルに向かったのでは?』


 本当に心底ギャンブル好きなのだなと、周介は呆れることしかできなかったがドクはこのルッカー7の動向について非常に気にしているようだった。


「でもなんでルッカー7のことをそんなに気にするんです?特殊な能力者だっていうのはわかるんですけど……何か理由でも?」


「うん……さっき研究者たちに味方がいるかもって話もしてくれたでしょ?それが組織の人間だったらまぁいいんだけどさ?もし外部の人間だった場合、誰が一番候補として選びやすいか、それと見つけやすいかなって考えたんだよ」


「見つけやすいか……ですか」


「そう。他のレッドネームとかはどんな場所に現れるかはよくわからないしどんな能力を持ってるかは会って照会でもしないとわからないけど、ルッカー7に関してはその必要が極端に少ないからね」


「……そうか、ギャンブル大好きだから、賭博ができるところにいる可能性が高いと。しかも七回も捕まってるから個人情報もほぼバッチリ?」


「そう言うこと。探しやすさを考えると第一候補かなって思っちゃったんだよね。少なくとも現段階では一番研究者が求めてそうな能力だなって」


 どのような能力なのかはまだ確定していないとはいえ、特定の現象を引き起こす、あるいは引き寄せる。未来を見るのではなく、未来を自分の都合のいいように変える。そんな能力があったとしたら誰もが欲しがるだろう。


 今回で言えば、魔石を使っても体は無事で何度でも能力を発動できる。またマントルへの影響が非常に適切に行えて狙い通りに大陸を移動できると言ったところか。


 とはいえ、その能力の詳細が判明していない時点ではただの考察でしかない。


 情報が足りない。件の研究者たちが何をしたいのかというのはわかっても、相手の勢力が判明していないのが厄介過ぎた。


 だが複数カ所の研究所をほぼ同時に襲撃できる程度の戦力を有しているのは確かなのだ。偶発的に別グループが動いたという可能性も捨てきれないのがまた面倒なところである。


「他のレッドネームの行動履歴からも、怪しそうな人間をピックアップしておこうか。あとは各姉妹組織への注意喚起かな。とはいえ、僕らがそれをするのもおかしな話だから、情報をリークする形になるけど」


 被害を受けたわけでもない日本が主導になるというのはある種の越権行為になりかねない。何よりほかの国がいい顔をするはずもなかった。


 本来であれば協力し合うべきなのだろう。国という垣根も何もかも超えて問題解決に取り組むべきなのだろうが今の世の中がそれを許さなかった。


「もっと真正面からやばいから協力してくれって言えないもんですかね?」


「能力が表に出たせいで、下手に国が絡むようになっちゃったからね。互いの国の面倒事も抱えるようになったから、簡単に協力関係とかになると面倒なことになるのさ」


「だからって……そもそも組織は独立してるものでしょう?多少は……まぁ国の支援も受けてるでしょうけども」


「それもあるんだけどさ……今の世界って、明暗がはっきりしちゃってるんだよ。そのせいで、より弱みを見せられないっていうか……だからこそ自分たちがやってることを隠そうとしたりするんだよね」


 明暗。それは復興が進んでいるかどうかというのもそうだし、特殊個体による被害がどれほどあるかという話でもある。


 現在復興がおおよそ完了しているのは主に島国や、その国が注力して復興を行おうとした場所だ。


 そう言う意味ではつい先日復興官僚の式典を上げたニューヨークなどは原発も近くにたくさんあるし特殊個体の影響だって受けるというのもあって場所的には最悪の状況だった。


 元々都市部の近くだったからこそ、原発の対応を徹底したというのも運がよかったというべきだろう。幸いにして沿岸部であったこともあり、物資の運搬という意味では、船さえ用意してしまえば苦労はなかった。


 そして、そこからの復興の速度は目を見張るものがあった。それも偏にアメリカという国と能力組織が復興の象徴として全力を尽くしたからこそだ。


 もっとも、それはアメリカの成功例であって、他の国はそうもいかない。


 アメリカと比べて原発の数も少ないというのに、イギリスの復興は遅れに遅れている。


 同じ先進国であったにもかかわらず、ここまで差が出てしまっているのにはいくつかの理由がある。


 機械の暴走が起きた時、イギリスは完全に活動を停止していた。対してアメリカはまだ活動時間だった。


 対処が間に合ったかどうかが明暗を分けたことになる。


 そしてアメリカは原発が東側に大きく偏って存在している。その為の対処のためのチームも用意してあったのが大きい。


 対してイギリスは国土の東西南北にまばらに存在している原発に加え、そのすべてが沿岸部。他国からの救援要請や機械の暴走によって起きた緊急事態に対応しようとしている間に、事態はどんどん悪い方に行ってしまった。


 そしてそれは復興においても変わらない。


 アメリカが自らの国に集中できている間も、イギリスなどのヨーロッパは常に隣国の動向に気を取られ続けた。


 ヨーロッパ圏のすべての国が、互いの足を引っ張ったと言い換えればいいだろう。


「結局のところ、協力し合わなきゃいけないところで、他の国を羨んだり、疎んだりしちゃったからこそ、面倒なことになっちゃったんだよ。イギリスなんかはまだましな方だと思うよ?大陸にある国なんかはもう国境線周辺はかなり滅茶苦茶になってるらしいし」


 成果と現時点の国の状況の違いが、他国に対する猜疑心を生み、それが国だけではなく能力者組織間にも発生してしまったのだ。


 そんな状態で、本当の意味で協力などできるはずもない。個人的に交流を持っている能力者同士でしか信用できない状態で、研究者が暴走して行った行動を止めようとする者がどれほどいるだろうか。


 互いに足を引っ張り合っているような状態で、国同士の利権も絡む状態で、それが可能かと言われれば難しいの一言である。


「……能力は、表に出ないほうがよかったってことですかね?」


「どうだろうね?こればかりは判断に迷うよ。けどいずればれていた内容であるのは間違いないよ。噂レベルで囁かれて、いずれ大きな事件が起きたら隠し切れなくなってた。能力を明らかにしてから出てきた人たちを見ればわかるだろう?」


「まぁ、暴れるバカは増えましたけど……」


「能力を明らかにしてから能力に覚醒する人間は明らかに増えた。問題を起こす人間も増えた。けど結局、あの一件が起きたからどうせその存在は明らかにするしかなかっただろう。それを考えれば、後出しより先に話をしておいたほうが信用されるのは間違いないし……けどそうすると今みたいな国家間の関係性に引っ張られるし……難しいところだね」


 能力がずっと隠れていられるのであればよかった。だが機械の暴走事件なども含めて、それは叶わなかった。


 表に出たことによって能力者たち自体の活動もしやすくなったし、何より組織自体の運用もやりやすくなった。


 もっとも能力を表に出さなかったらまた少し状況が変わっていたかもしれないが、もはやそのあたりは結果論でしかない。


「結局のところ、今を少しでも良くするしかないよ。今回の件は少なくとも僕らだけで留めておいていいような内容じゃない。上層部に話を通して、正式か、あるいは情報を流すか……世界的に取り組まないと。その分軋轢を生むかもしれないけど……」


 情報が広まれば、今回の原因の一端を担うことになった研究者たちとその行動を許した国の糾弾が始まる可能性もある。


 ただそうなれば、世界観の姉妹組織も含めて関係性が悪くなる可能性は高い。


 この後の世界が一体どうなるのか、周介には想像もできなかった。


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― 新着の感想 ―
[良い点] 海外の姉妹組織にそこまで何回も捕まって正直よく消されなかったなと。 あるいはそれもまた能力の影響か。
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