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アロットロールゲイン  作者: 池金啓太
番外編『世界の垣根を超え崩す』

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「特殊個体の発生に関しても、かなりヨーロッパからの目撃数が多いからね。原発のないような場所だと発見数が少ないから、なおの事そう思っちゃうんだけどさ」


「陸続きで特殊個体は移動できますからね。海を越えてくるような習性を持ってるやつは少ないですが……」


「だからこそ、研究者が原発ごと特殊個体を押さえ込みたかったっていうのも理解はできるんだ。もし完了していたら、それこそ復興をする上ではものすごく助かっていただろうし、後々の世界のためにもなった。それが裏目に出るとは思わないよ」


 原発から出る放射能。そして大量に発生する特殊個体。それらを鑑みれば物理的に封殺したいと感じるのも無理はない。


 そして同時に、人間が安全に過ごせる場所を探そうとしてしまうのもわかる話だ。それに関しては周介たちは何も言えなかった。


 ただ、問題なのはこの世界を更に無茶苦茶にする可能性があるという話である。


「ちなみに、大陸を動かした時なんか影響はあるんですか?」


「むしろどんな影響が出るか、影響が大量に出そうで予測もできないよ。今の自然環境ってさ、いろんな要素が噛み合って組み合わさって構築されてるんだよ?もしこれが全く別の形になろうものなら、それこそ異常気象が日常茶飯事になってもおかしくないね」


 そりゃそうだよなと周介とフシグロは頷くしかない。自然を含む生態系とは様々な生き物や地形などが関係して成り立っている。


 それらが少しでも変われば大きくほかに影響を及ぼすのは当然と言えるだろう。昨今の自然破壊で予想外な影響が出るようなものと同じだ。


「しかもさぁ、大陸をそのままスライドなんてできるわけないじゃない?絶対どっかに新しい山ができたりさ?逆に谷ができたりするじゃない?もう滅茶苦茶になるよね。少なくとも元のような地形は望めないよ」


「逆に言えばですよ?砂漠がなくなるって可能性もあるんですか?」


「あー……それはあるかもね。たださ?砂漠がなくなったら地球ってどうなっちゃうのってところはあるよ。砂漠がなくなった後の地球への影響とかは昨今研究とかもされてるでしょ?そう考えると頭痛いよね」


「どういう結果になるかマジでわからないと」


「うん。確かに特殊個体の脅威からは逃れられるかもしれないよ?ただその代わりにこの星そのものが人の住めない環境になる可能性だって捨てきれないんだよね。やばいんだよね。少なくとも僕はそんな博打はしたくないね」


 博打。その単語に周介とフシグロは少しだけ聞きたいことができていた。


「ドク、研究者の人は基本博打なんてしないような人が多いと思ってたんですけど、今回の事、博打だと思いますか?」


「どういうこと?」


「どちらかというと、博打じゃなくて、何かしらの根拠があるんじゃないかって思ってるんです。そんな博打を打つような人間が研究者になれるのかなって思っちゃって……少なくともドクはそういうタイプじゃないし」


 博打ではなく何かしらの根拠と勝ち目があってこのようなことをしているとなると多少話は別だが、ドクは研究者がすべてそういったタイプの人間かと聞かれると微妙なところであるのか、渋い顔をしていた。


「いやぁ……どうだろう……研究者って一言に行っても人それぞれだからなぁ……僕みたいに本業はモノづくりっていうタイプだったら、そういう強度計算とかが肝になってくるから根拠作りは大切にするよ?けど、そういうタイプじゃなかった場合、とりあえずやってみるっていう人は少なからずいると思うよ?」


「……もうすでに一回やばいことに繋がっちゃっててもですか?」


「そりゃそうさ。特に自然環境云々っていう研究はやってみないことには結論は出ない。机上の空論であーだこーだ喋ってても、実際やってみたら全然違うってことだってあるから……っていうか自然ってそういうものだよ。僕らは自然のことなんてなに一つ分かっちゃいないのさ」


 自然というのは本当にありとあらゆる事象が影響し合っている。そこには地形もあるし空間もあるし生き物の影響だって受ける。


 それらが複雑に絡み合うからこそ今の自然環境があり、今のこの世界がある。それを一気に崩そうというのだ。一体どのような結論が出るのかわかったものではない。


「人が安全に住む場所を作ろうとして、結果人が住めない星になることだってあるかもしれない。まぁ、そこまで極端なことにはならないかもしれないけどね。もともとこの世界の大陸だって今の形じゃなかったわけなんだしさ」


「昔は全部の大陸が一つだったんでしたっけ?その時だって普通に生き物は住んでたわけですもんね」


「うん。だからいきなり氷河期を迎えるとか、あるいは世界が崩壊するなんてことはないと思いたい。けど能力で干渉するってなると、不安は残るよね」


 地球の大陸移動はあくまで自然にそうなった結果だ。今もなお動き続けているのだからそこはまだいい。


 だが今回は能力によって人為的に干渉しようというのだ。全体ではなく部分的に干渉するということがどのような結果を生むのかは誰にも理解できない。


「予知とかでその情報を知ることはできそうですけど……」


「できるだろうけど、予知能力者だって忙しいんだよ?桃瀬君を見てればわかると思うけどさ。海外の予知能力者だって多いわけじゃない。研究職にそういった人物がいる可能性がゼロってわけじゃないけど……」


 そこまで考えて、ドクは何かを思いついたのか、唐突にパソコンの画面に目を向けた。


「フシグロ君、一つ調べてほしい」


『なんです?』


「レッドネーム『ルッカー7』の最後の活動記録」


『少し待ってください』


 ドクの指示を受けてフシグロが調べ物を始める中、周介の知らないレッドネームだ。


「ドク、ルッカー7って?」


「まだ機械暴走が起きる前の話さ。カジノで荒稼ぎしている奴がいてね。その後も世界中の賭博場で金を巻き上げていた。それがルッカー7なのさ」


 能力を使っての賭博。方法はともかく、それならば確かに高確率で勝つこともできるだろう。


 そこまで珍しい話とは思えないが、何故このタイミングでドクがそのことを聞いたのかがわからない。


「カジノで荒稼ぎっていうことですか?結構あくどいことを考えるやつがいるもんですね。狡いですが」


「それが単純な能力だっていうならいいんだけどね……別の姉妹組織から上がってきた情報によると、念動力なんかの発現系じゃない。強化でも変貌でもない。索敵っていう感じでもない。同調なんかでもない。ただ知覚系の何かではあると……まぁ仮説だったんだよ。実際はどうかも不明って感じ」


「……それこそ、予知とか?」


「いいや、予知でもあり得ない。機械だけならまだしも、その人物は対人……つまりはプロのディーラー相手にも勝ってるんだ」


「……はぁ……そうなんですか」


 賭け事などを行うような場所に行ったことのない周介は、それが具体的にどれくらいすごいことなのかがわからない。


 プロだって人間だし一般人だ。能力を使われてしまっては負けることだってあるだろう。


 むしろ能力者相手にも勝てるような人間がいたらその人物こそ褒めるべきではないだろうかとさえ思えてしまう。


 だが、予知の場合、ディーラーに勝つことは非常に難しくなってくる。負けないように立ち回ることはできるかもしれないしゲームにもよるが、ディーラーなどのいるゲームだと、大抵が客側がまず何か申告し、それに対して店側のディーラーが動くという形をとる。


 ルーレットというゲームで例えよう。その場合客が番号、色などを指定して賭ける。そしてその後、ディーラーがボールを転がし、入った番号と色が当たりとなる。


 一流のディーラーであれば、狙った場所に入れることなど容易い。


 予知という能力の場合、相手が先に動いているのであれば先読みとして使えるが、こちらが先に動かなければいけなくなった場合は先読みの意味がなくなってしまう。


 その為、予知能力者が対人戦で勝つのは、実はかなり難しくなるということになる。


「もっといえば、彼はどんな賭け事にも勝った。賭け事が好きな組織の人間が目を付けて、その人物の手管を真似しようとしたところで、発覚ってわけさ」


「はぁ……それで?その人は捕まったんですか?」


「捕まえた。けど、逃げられた」


 ドクがそれを言い終えたところでパソコンの画面にルッカー7の情報が出てくる。


 捕まえたが逃げられた。


 組織が一度捕まえた能力者を逃がすなど考えられない。一体何が起きたのか、周介は映し出された情報を見る。


「何者かが手引きして逃がしたとか、そういうことですか?」


「いいや違う。偶然……偶然っていう言い方が正しいかは不明だけど、竜巻が起きた」


「…………なんですかそれ……そういう能力だったってことでしょう?」


「いいや。ルッカー7の能力はそういう類の能力じゃない……関わったことのある姉妹組織も、断定こそしていなかったけれど……ルッカー7は、自分の望む事象を発生させる、ないし、その未来を引き寄せることができるんじゃないかと」


「…………それはさすがにないんじゃ……あまりに都合が良すぎません?」


「僕もそう思うよ。一回だけならね」


「それって……どういう……」


 続いてパソコンに表示されたのはルッカー7のこれまでの活動記録と、それに組織が関わった記録だ。

 その中の一つの項目に、周介は目を奪われる。


「……なんだこれ?」


「見ての通りさ。ルッカー7は七回、組織に捕まってる。そしてその度に、雷やら事故やら、別の能力者の襲撃やら、第三者、ないし何かしらの現象が発生したせいで組織から逃れてる。まったく別の姉妹組織それぞれからね。一応、日本も一回逃げられてるんだよ」


「……ちなみに、どこで?」


「天皇賞。競馬も大好きみたいでさ」


「他の姉妹組織の時は?」


「ラスベガスやらモナコやら、オーストラリアやら……まぁどこもかしこもギャンブルができる場所なんだよね」


「……ギャンブル狂いかよ……それでテンションマックスになってるときに捕まると」


「そうそう。ただ、十年前の機械の暴走依頼、ギャンブルができる環境じゃなくなってから、まったく音沙汰なかったんだよ。まぁしょうがないって言ったらしょうがないんだけどさ」


 ギャンブルなどに回しているだけの余裕もなくなってしまったのが原因ではあるが、だからこそ見つけられなくなったというのもなんというか救いのない話だ。


 ギャンブルから抜けられなくなるというのは本当に恐ろしい話である。


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