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アロットロールゲイン  作者: 池金啓太
一話「蒼い光を宿すもの」
17/1751

0017

 それから五時間、周介たちは能力の発動訓練を行い続けていた。


 今周介の目は光っている。だがVRゴーグルは装着していない。イヤホンも付けていない。完全に自分の意思だけで能力を発動していた。


「うん、なかなかいい調子だ。スタートから、五時間か。うん、呑み込みは早いようだね。平均より一時間ほど早い」


 周介は電車から降り、自らの意志で鉄輪を回転させ続けている。自らが鉄輪を回転させる能力を持っているということを理解し、ドクの合図によって能力のオンオフを切り替えている状態である。


 さすがにまだ回転数、ドクが言うところの出力などはコントロールできていないが、それでもオンとオフを切り替えることには成功していた。


 まだかなり集中しないとできないために、改善点は多いものの、周介はこれで初めて能力者としてのスタートラインに立ったといっていい。


「おめでとう。君は今能力者としての第一歩を踏み出した。これからの君の能力と活動に幸が多いことを祈っているよ」


「ドク、これで、いいんですか?まだ、なんか、調べたりとか、しますか?」


「もちろんたくさん調査しなきゃいけないよ?能力の最大値と最小値、その能力の制限や特性、調べなきゃいけないことが山積みだ。そうじゃないと、君は能力者として正しく活動することはできない」


「マジ、ですか……かなり疲れてるんですけど……」


「今まで使っていなかった部分をフルで活用しようとしているからね。そりゃ疲れるさ。たぶんだけど、今日の夜辺りは熱が出るんじゃないかな?今日はこの辺りにしておいたほうがよさそうだね。はい栄養剤と冷えピタ。体を休めるのも大事なことだよ?」


「あ……どうも」


 周介は与えられた栄養剤を一気飲みし、冷えピタを額に張ると近くにあった椅子に腰かけ大きく深呼吸していた。


 今日の夜辺りに熱が出るといっていたが、周介としてはすでに頭の裏側とでもいえばいいのか、具体的な位置はわからないが、頭の中に強い熱がたまっているように感じられた。


 意識が朦朧としている。今まで使わなかった部分を使おうとしているからという言葉の通りなのだろう。


 今までしなかった運動をすると、変なところが筋肉痛になるのと同じ理屈だろうかと、周介は朦朧とした意識の中で考えていた。


「今日の訓練はここまでにするけど、明日からもまたここに来ることを勧めるよ。僕としては早く君に一人前の能力者になってほしいね。君の能力は、個人的にはすごく興味がある」


「でも、あの動きを見る限り、この能力って、そんなに強いですか?ただ回しているだけのように思えたんですけど……」


 別の発動方法をしようと試しては見たものの、残念ながら物体を回す以外のことを行うことはできなかった。


 周介としてもまだ能力を完全に制御できているわけではないために確たることは言えないが、このままだとあまり役に立たない能力のように思えて仕方がなかった。


「何を言うんだい。君は自分の能力の可能性を理解できていないよ!これがもし僕の予想した通りの能力だったらどれだけ!どれだけ素晴らしい事か!あぁ今から楽しみになって来たよ!可能ならばすぐにでも君の能力を万全の状態にしたいくらいさ!残念ながら君がその様子だと厳しいけれどね」


 すでにグロッキーに近い状態になってしまっている周介を見て、ドクは申し訳なさそうに、そして悔しそうに笑う。


 無理を言っても仕方がないということを理解しているのだろう。そしてそれでも抑えきれない興奮があるからか、若干口調が早い。声のトーンも上がっている。どうやら周介の能力はドクの琴線を強く刺激したようだった。


「まぁそれはさておき、君が能力を使えるようになったことだし、君の能力にも名前を付けなければならないね」


「名前、ですか?必要ですかね?」


「必要さ。どんな物事にも、名前があって初めて正しく認識されるというものだからね。君自身が正しく認識するためにも、他の誰かに認識させるためにも、名前というのは思っている以上に重要な役割を持っているんだよ?」


「そういうものですかね……?」


 周介はあまりその意味を理解できていなかったが、人間は多くの者に名前を付けてきた。ありとあらゆる事象に名前を付け、それを定義してきた。


 定義する前と後では、その言葉の意味と本質を異なるものに変えることができる。


 その現象を、現象そのままで捉えるのではなく、言葉という別の表現方法を扱うことによって似て非なる、だが同一のものとして扱ってきた。


 今回の能力のことも、また同じだ。周介の未知の能力を、既知の能力とすることで、さらに扱いやすくすることが目的であった。


 これに関しては能力の更なる説明をする必要があるのだが、今の周介ではそれらの情報を入れることができないだろうというドクの心遣いだった。


「僭越ながら、僕が君の能力の名付け親になろう。そうだな……うん、うん……よし、いい名前を思いついた」


 ドクは周介の前に立つと、自信満々の表情でその手を差し出して周介の手を取り、強引に握手をする。


「君の能力名は『始まりの智徳(プレイスオール)』だ。きっと良い能力になるぞ」


 ドクの名付けた周介の能力『始まりの智徳(プレイスオール)


 どのような能力であるか、周介自身正しく理解はできていなかったが、ドクは良い能力になると確信しているらしい。


 この自信がいったいどこから来るのか、周介は不思議で仕方がなかった。


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