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アロットロールゲイン  作者: 池金啓太
番外編『世界の垣根を超え崩す』

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「経験不足が出ただけの話だ。人に指示をするとき、人によって指示を変えること。それは昔から兄貴はよくやってた」


「お兄ちゃんも?」


「俺の場合はもっと雑だったよ。未来が見えるわけじゃないから、任せるって形だった。普段もそうだしな。大太刀の人への指示はよくわからないから、前で暴れろとか、誰かを守れとか、そういう大雑把な指示になる」


 周介自身は大太刀部隊の具体的な動き方は大雑把にしか理解していない。その為、どうしても指示が大雑把になる。


 ただ、むしろ現場ではその大雑把さがありがたいと感じる部分も多い。


「隊長の指示はむしろやりやすいですよ。ある程度俺たちに任せてもらえるわけですから。肝だけ抑えてくれれば自由にやれますし」


「そうそう。だからそういう指示を出してくれるとこっちとしちゃありがたいんだよな」


「けど、俺の指揮だとここまでの成果は上げられないと思うぞ?たぶん、タイミングをずらした連続攻撃と、非殺傷武器使って相手をどんどん戦闘不能にさせていくくらいしか指示できなかったと思うし」


 現場での指揮に関しては周介の方が評価は高い。だが結果を比べた時、仮に周介が指示を出した時に今回美鈴が得たような成果を得られたかどうかは疑問だ。


 しかし、それでもやはり前に出る人間はそのほうがやりやすいという。その辺りが問題だった。


「で、でも……あんまり大雑把すぎる指示にすると、予知と違った結果になっちゃうかも……知れないから、細かく指示しないと……」


「そこもまた予知で確認していく必要があるんだろうな。人によって指示を仕方を変えるってのはそういうことだ。その人はどうやって動く?どういう考えをする?どういう指示を出せばどういう結果が返ってくる?それを全部確認しなきゃいけない」


「そんな……あんな短い間でそんなの……」


「……だったら、指示する相手を変えることだな。細かい指示を出さないで、大雑把な指示を求めるのが前衛型の特徴みたいなもんだ。だけど中衛から後衛。サポートがメインの奴らはむしろ細かい指示を求めれる奴も多い。そういう奴に、未来を決めるだけのポイントを指示する。そうすれば、お前の求める未来を引き寄せられるんじゃないか?」


 前衛の人間はいわば反射的な行動をとることもあるが、後衛の場合は少し異なる。しっかりと思考をして、結果を引き出すために行動するものも多い。


 訓練の場では当然ある程度考えることも訓練の内容として含む必要があるのだが、今回の場合に関して言えばあくまで実際の現場での効果を期待している節がある。


 ならば一度か二度、未来予知の指示に関して体感してもらうのもいいだろう。特に具体的な指示を求めるようなタイプからすれば、美鈴は優秀な指揮官のようにしか感じられない。


「人によって指示の仕方を変える……」


「そうだ。お前の能力を現場で活かすってなったら、やっぱり誰かに指示を出すことになる。それを今から鍛えておいて損はないだろ。まずは、うちの面々でそれを練習してみろ。うちはいろんなタイプがいるからな」


「それって……師匠にも……指示しなきゃダメですか?」


「当たり前だろ。誰に対してでも指示できるようにならなきゃ現場で活動はできないぞ」


 怯えている美鈴に対して知与は満面の笑みを作っている。


 自分の師匠に対して指示を出すなど苦行でしかないだろう。だがそれをしなければいけないのが指示をする人間の役割でもある。


 周介も何度も目上の人間に指示をしてきた。その気まずさは重々承知しているがその辺りは仕方がないというほかないだろう。


「大丈夫、私の場合は指示されても周辺警戒か狙撃だけだから。その辺りは上手く指示してね」


「は……はい……善処します」


 まずは指示をすることに慣れること。そうすることでどのような指示をすれば相手が聞きやすく、また動きやすいのかがわかってくる。


 その辺りは経験するしかない。誰かに短い時間でわかりやすく説明をするときに何が必要なのかは、指示してその後に会話してどのようにしたほうがいいのかなど教えてもらうほかないのだ。


 そうやっていろいろと経験していくのが一番手っ取り早い。


「ともかく帰るぞ。今後の仕事のことに関してはまた別途話し合おう。特にどういう現場に出たほうがいいかとかはいろいろ検討の余地ありだ。今回のことでどういう現場に出るべきかも少し分かったからな」


 戦闘における美鈴の有用性は示せた。あとは指示の仕方さえ学べれば十分以上に指揮官として活躍できる。


 今回は彼女が未来を見終えるまで待ったが、後は具体的にどのようにその時間を短くするかだ。


 実際の現場では待ってはくれない。待ってくれないのであればどのように対応するのかはその場その場で判断するしかなくなる。


 その辺りも課題の一つだと思いながら、周介はキャット隊に頼んで帰りの脚を用意してもらう。


 そんな中、周介の無線に連絡が入る。


『百枝、今平気?』


 相手はフシグロだった。


 調べ物をしていたために最近声を聞いていなかったが、彼女がこうして話しかけてきたということはつまりはそういうことだろうと周介はやや期待する。


「あぁ、大丈夫だ。これから拠点に帰るところだったから。何かわかったか?」


『ん。いろいろと。結論から言うと、ちょっと面倒なことになるかも。具体的にはまた世界的にいろいろと起きるかも』


 どういうことなのだろうかと周介は疑問符を浮かべる。ただあまりいい予感はしなかった。


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