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アロットロールゲイン  作者: 池金啓太
番外編『世界の垣根を超え崩す』

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『大丈夫なの?未来を直接変えさせられるようにするなんて』


 その危険性に気付いているのはラビット隊で活動している中でも瞳、玄徳、知与の三人だ。

 もちろん周介もその危険性には気付いている。


 未来を自分の好きなように変えられる。それは言い換えればありとあらゆることを自分の好きなようにできてしまうかもしれないということでもある。


『確かに、少々危険であるとは思います。未来を知るだけじゃない。変えられるとわかった時、どんな反応をするか』


「そのために知与をすぐ近くにつけてるんだ。なんかあった時は止められるように。戒められるように。それでも、今までずっと管理されてた時に比べれば、全然マシな状況だろうけどさ」


 組織に所属している人間のほとんどは、能力を持ってから自分の思い通りになったことなどほとんどない。


 何せ自分と同系統あるいは似た能力を持った先達や格上が存在している。思い通りになど行くはずもないのだ。


 美鈴の場合は、予知の能力の先達はいなかった。だがその能力を使ったところで、自分の行動さえも思い通りにいかない、誰かに守られている、助けられているということを常に自覚する日々だった。


 自分の意志を表に出せる、自分の考えに誰かが従ってくれる。そんな状況はあり得なかったのだ。


 未来予知の能力が希少であるが故に、誰よりも厳しく管理、保護されてきた。


『わざと好きなようにさせてるように聞こえるわね。いいの?好きなようにして面倒起こしたら目論見もパーよ?』


「いいんだよ。自分にできることを、自分がやってきたこと、ちゃんと気付かせるにはこれが一番手っ取り早い。今まで思う通りにいかなかったから、それを思うとおりにさせて、今までのそれが、そういうことだったんだって、気付けるのが一番いい」


 そんな美鈴が今、空の上で自由に誰かに指示を出せる権限を、一時的にでも与えられた。


 これは、彼女にとって大きな転機だ。自分の能力が、ただ見るだけではない。誰かに影響を与えることができ、未来を変えることができ、自分の求めることを得られる。そこに気付くことができる。


 彼女は今まで遠くから、画面越しから、あるいはすでに終わった後からその状況を見てきた。


 凄惨な光景はすでになく、もうすべてが解決した状態になった、あるいは今まさに解決しているようなところしか見ていない。


 そこに自分の介在する余地がなかった。否、既にそれを終えていた状態だったことに気付けていなかったのだ。


 彼女のおかげで初動が異常なまでに早くなり、対応力も上がった。それによって多くの被害を減らせている。


 ただ、彼女の視点からすればそれが分かりにくいのだ。とてつもなく。


 何せ問題が起きている時間と場所を教えておけば、後は現地部隊が解決してくれるのだから。


「今までの現場の部隊だって、ある意味あいつが動かしたってことに変わりはないんだ。そこに気付ければ、現場に無理に出たいっていう考えも、まぁ絶対ではなくなる。何より、そっちの方が現場への貢献度は高い。あとは、実際に両方経験してみて、どっちの方がより好みか。そういう話になってくるわな」


『好みねぇ……未来予知の将来を決めるには随分と……なんていうか、主観的な部分に最終選択をゆだねたものね』


「……やっぱ俺、あいつらに甘いかな?」


 周介はそんな風に考えているつもりはなかったが、美鈴の思うようにさせてやったり、今までの自分の行動に気付けるようにしようとしたり、最終的にどちらを選ぶかを決めさせようとする辺り、美鈴にかなり気を遣っているのは事実だ。


 それが甘いかと聞かれれば、人によっては肯定するだろう。


 実際、周介の訓練の様子や、現場での活動を見ているものからすれば随分と甘い裁定をしていると判断するものは多い。


 昔から知っている子供に対して、甘い判断をしてしまうあたり、周介の根っこの部分は変わっていないのだ。


『いいんじゃない?ちょっとくらい甘やかして損はないでしょ。その気遣いに、あの子が気付けるか……ってなるとまた話は別だけどね』


「そこまで期待するのはお門違いだ。子供が大人の気遣いに気付くってのは、なかなか難しいだろ……俺がこんなことを言うようになるとはなぁ……それだけ大人になれたってことなのかね?」


『どうでしょうね。兄貴は昔から変わりませんよ。以前に比べれば、判断は変わっているとは思いますが』


「それって褒めてる?」


『さぁ、どうでしょうか?』


 きっと褒められてはいないのだろうなと周介は苦笑してしまっていた。今も昔も周介の考え方はそこまで変わっていない。


 ただ、少しだけ視野が広がって、少しだけ大人な判断ができるようになったというだけの話だ。


「よし、地上部隊、聞こえますか?これから指示を伝えます!」


 未来を見終えたのか、美鈴からの声が全員に届く。


 ここからどのような未来を紡ぐのか。お手並み拝見といったところだった。


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