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アロットロールゲイン  作者: 池金啓太
番外編『世界の垣根を超え崩す』

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『その特殊個体が原因なのかわからないけど、衛星写真とかで地形が変わってるところが何カ所か確認されてるの。街があった場所、道があった場所、森があった場所……アジア大陸やアフリカ大陸でそれらが何カ所か確認されてる』


「地形?それは……ぶっ壊されてるとかそういうことか?地面が抉れてるって感じの?」


『確認できたのは開けてる場所とか人のいた場所だけ。あとは水の流れがおかしくなってるから見つけられたの。上空からの写真じゃ細かな地形まではわからないのよ。もしかしたらもっとたくさん、別の場所でそれが起きてるかもしれない』


 フシグロの情報収集は主に衛星写真や人が作り出す電子機器を介したものだ。得られる情報は人のいる場所に制限されるため、どうしたって得られない情報はある。


 それでも彼女の知的欲求を満たすための動きははっきり言って尋常ではない。


 一時期は世界中に自分の操作するドローンを展開しようとすらしたほどだ。さすがにそれは周介たちも止めたが。


「お前でも調べきれてないのか?」


『肝心な部分がどうにも調べられないの。研究所襲撃で言えば実行犯のその後の足取り。特殊個体増加で言えば具体的な個体の情報やその被害。地形だとその原因。どこかしら何かしらで情報がありそうなものなのに、どういう訳か妙に情報が足りないの』


 世界各地で起きたという三つの事件や異常。そのすべてでフシグロでも調査しきれない何かがあるということになる。


 アナログな部分に関しては確かに彼女の能力が及ばない部分はあるが、周介は妙なきな臭さを感じていた。


「能力者の研究所襲撃。特殊個体の急激な増加。世界各地の地形の変化。この三つ、関係があると思うか?」


『何とも言えない。情報が足りな過ぎる。ただ、無関係じゃない』


「……理由は?」


『勘。それ以上の理由はない』


 既に死亡し、肉体は活動を停止し、電子の海に揺蕩う彼女からそんな言葉が出てくるとは思わず、周介は一瞬呆けるが、すぐに笑う。


『なによ。もうちょっと情報があれば勘じゃなくて確証を持って証明してみせるわよ』


「いいや、そうじゃない。お前がそう思うなら、何かしら関係があるんだろうなって、そう思っただけだ」


『……本当にただの勘よ?それぞれの件でまだ碌に情報得られてないし』


「あぁ。だけど、逆にそれで何となくわかったよ。お前相手に情報封鎖できるような奴が動いてる。そういうことだろ?」


 周介は情報収集能力においてフシグロに絶大な信頼を置いている。その彼女が調べきれていない情報。

 明らかになにかがある。


 彼女の知識への渇望は異常だ。この十年でその恐ろしさを周介は嫌というほど味わっている。


 この世の中で知らないことなどあってはならないと自分に言い聞かせるような強烈な知識欲。この世のありとあらゆることを知りたがる、知識の海への挑戦。それを彼女はこの十年間し続けた。


 崩壊した世界の中でもそれを止めることはなかった。時に周介の力を借りて情報網を増やしたこともあった。


 必要な情報を、自らが得たい知識を、手に入れるためならば如何なる手段でも講じようとする彼女が手にしきれていない情報。


 それが三件も同時に起きている。


 これらすべてが関係しているとは言わない。だが、世界的に起きている三つの事件や異常に対して、三つともフシグロが情報を追い切れていないということに周介は引っかかっていた。


 予感がする。いやな予感だ。面倒ごとの予感だ。周介はそれを察知していた。


「フシグロ、手段は問わない。情報を集めよう」


 手段は問わない。その言葉に会話を聞いていた瞳と玄徳が僅かに目を見開く。


 周介がその提案をしたのは数えられる程度だ。そのどの時でも、面倒ごとに発展していた。それも世界規模で面倒な事件の始まりの時ばかり。


 そして手段を問わないということは、通常で考えれば間違いなく法に触れるようなこともしてよいということでもある。


 フシグロの場合、普段からしてグレーゾーンの線上で反復横跳びしているようなものだが、それはまた別の話だ。


『いいの?また上層部から面倒な事言われるわよ?それに、手伝ってもらうこともあるけど』


「上からのクレームなんていつものことだ。なんでも言え。いつでも手伝ってやる」


 周介と彼女の間に遠慮などはない。周介はフシグロを手伝い、フシグロは周介を手伝う。


 それは二人の十年以上前から変わらない関係だ。まだ二人が、ただの人間だった頃から変わっていない、そんな二人だけの関係だ。


『百枝、なんでもとかは簡単に言わないほうがいいと思う。いろいろと勘違いする人もいるから』


「そうか?別に気にしないけど……」


『百枝がじゃなくて、奥さんがそういうの気にするでしょ。ちゃんとそう言うところ気にかけたほうがいいから』


 周介が瞳の方を見ると、確かに嫌そうな表情をしていた。


 フシグロとの関係は仕事上のものではあるが、瞳としてはあまりいい気分ではないのだろう。


 口を挟むことはないのだが、その視線で不満を訴えかけていた。


「なんだよ瞳……嫉妬してるのか?可愛い奴め」


「そんなんじゃないし……学生時代じゃないんだから、そんな事で嫉妬なんてしないわよ」


 周介と瞳が結ばれたのは二人が二十歳になった時だった。


 二人の間には子宝こそまだ恵まれてはいないものの、夫婦仲は非常に円満な状態を保っている。


 周介が昔から外見が変わらないということもあってか、瞳が立派な大人の女性に成長してもいまだに学生のような会話を時折り交ぜている。


『はいはいご馳走様。もう何年も夫婦やってるんだからいちゃつくのやめてくれない?』


「別にいちゃついてないんだけど。プライベートと仕事は分けるから」


『ほう?では家では甘々な新婚生活送ってると』


「……もう新婚って歳でもないわよ。あたしらのことはどうでもいいの。それよりもそっちの話の方が大事でしょ」


 瞳は半ば強引に話を元に戻そうとする。その耳が若干赤くなっているのは気のせいではないだろう。


「兄貴、姉御は家でもあんな感じなんすか?」


「んー……家だともうちょっと主張激しいかな。やっぱオンオフくらいは切り分けるんじゃないか?あいつもいい大人だし。お前のところは?」


「うちは……家に戻ると俺は立場がないんで……めっちゃ複雑っすよ。まぁ、ガキの世話と家事するくらいっす」


「お子さん今いくつだっけ?男の子だったよな?」


「えぇ。今度五歳になります。俺が親とか……なんかこう……まだ実感がわかなくてもやっとしますけどね……」


 玄徳は幼馴染であり姉に近い存在でもあった詩帯と結婚した。周介たちが結婚したのとほぼ同時期だ。


 玄徳の所属を東北拠点に移すことも検討されていたが、それは玄徳が固辞した。どのような理屈があっても、玄徳はラビット隊から抜けるつもりはないのだという。


 その為週末だけ実家に帰るというなかなか忙しい生活を送っている。復興がおよそ完了してからは子宝にも恵まれ、父親になったという自覚もあまりなさそうではあるが、それでも自分の子供が育っていくことに対していろいろと思うところはあるのだろう。


 時折携帯で撮った子供の写真を見て優しそうな笑みを浮かべている。


「兄貴のところは……大丈夫なんですか?その……姉御とのお子さんは……」


「一応、検査だと問題なくできそうっていうのはわかってる。ただまぁなかなか実を結んでないってだけの話だ」


 周介の肉体が変化してから周介は何度も体の検査を行った。それこそ一度や二度ではない。両手ではおさまらない数の検査を行っている。


 そんな中でわかったこととしては、周介の肉体は排出されるものに関しては、通常の人間のそれとそこまで変わらないという点だ。


 肉体を維持するために食事をとり、排泄されるものも多くそれらは人間のそれと変わりはない。ただ肉体維持に必要なエネルギーが他の人間に比べて多いのか、食欲は肉体変異前のそれに比べるとだいぶ増していた。


 小便や大便などの排泄物、肉体から分泌される唾液や汗、皮脂に涙。そういったものは通常の人間のそれとほとんど変わりがない。


 血液そのものが変異してしまっているためにほかの体液も同様に変質しているのではないかと考えられていたが、どうやら排出などに関しては適応外であるらしい。


 そして排出されるものとして、周介の精液もまた普通の人間のそれに限りなく近かった。


 近かった、というのが問題で、通常の人間のそれと比べると若干形状が異なっていたり、運動時間が異なっているという点があった。


 その為、妊娠はしにくいかもしれないと言われてはいた。だからこそ気長にチャレンジするつもりだった。


 そもそも、子供というのは授かりものと言われるくらいだ。できないからと言って悩む必要はないと周介は考えていた。


「姉御は大丈夫ですか?結構気にしてたりしませんかね?」


「どうだろうな……家ではあまり気にした様子はないぞ?あー……ただ実家からなんか言われてるかもな?そこはちょっと気にかけておかないといけないかも……」


「そうっすか。兄貴のご実家には、やっぱりあれ以来行ってないんですか?」


「死んだことになってるからな。ただ、この間遠巻きに様子を確認してきたよ。妹と弟は立派に成長してた。父さんと母さんは……ちょっと痩せてたな。まぁ、仕方ない」


 周介は表向き死んだことになっているため、大々的に合いに行くわけにはいかない。だからこそこっそりと家族の様子を見に行く程度にとどめている。


 会話はできないし、直接会ってやることもできないが、それでも成長を確認できるだけで十分だった。


「俺のせいで……社会全体がまともに戻るまでずいぶん時間がかかったからな……あの二人はこれからも苦労するかもしれない……だから、せめて支援くらいはしてやらなきゃな」


「兄貴。何度言わせるんですか。ありゃ兄貴のせいじゃないって」


「……そんなに簡単に割り切れるかよ。そう言ってくれるのは嬉しいけどさ」


 周介は未だ自責の念が尽きていない。


 自分のせいで世界が崩壊したと思っているからこそ今もこうしていろいろなものに尽くしている。


 そのせいでいつまでたっても多忙ではあるのだが、仮に日本の復興が完全に終わったとしても今度は海外の方に向かうことにもなるだろう。


 そうなったらまたあちこちに飛び回る日々が続くのだ。いつまでたっても働かなければいけないというのは少し複雑な気分ではあった。


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