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アロットロールゲイン  作者: 池金啓太
四話「小動物が生き残るために」
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「私も、少なくともあなた方の組織に協力している立場です。そのあたりは理解しているつもりだ。だがそれでも、ペットというのは私たちの家族でもある。それを暗に殺すといわれて納得するのは難しいですな」


「しかし、人間を傷つけるようなものであれば、それは仕方がないというのもご理解いただけますね?」


能力というのは強大だ。この人物はそれをわずかにではあるが知っている。今回はペットたちがこの家から姿を消すだけで済んだが、もしこれが都市部、人の多い場所で能力が使用され、誰かを傷つけるということをしてしまうのなら。


それが仮にわざとでなくとも、悪意がなくとも、突発的なものであろうと、その可能性は摘まなければならない。


人に危害を加えた動物は殺処分。それは人間の社会を形成しているうえで、いや、人間を守るうえで必要な考えだ。


それが人間の都合で作られた考えで、動物たちの都合など完全に無視しているものだとしても、人間として生きる以上、仕方のない事。


周介だってそれがわからないほど馬鹿ではない。人里に降り、人を傷つける可能性のある熊を殺処分することがあるように、能力を使い、人を傷つけてしまう可能性があるのなら、それを放置しておくことはできないのだ。


だがそれでも、周介の腹の奥にある不満と、どうにかできないものかという考えは留まり渦を巻き続けていた。


「何とかならないものでしょうか。あれらは孫も気に入っているペットで……殺すというのはあまりにも……」


「もちろん、こちらとしても殺さずに済むのであればそれに越したことはありません。ですが、能力が確認できた時点でこの家に戻ってくることはできないと考えてください。それは絶対です」


能力を持っている動物を一般人の下に置いていくわけにはいかない。最低でも回収し、組織内での飼育を余儀なくされる。


そこに関しては乾としても、いや、組織としても譲れない部分だ。


そのことはスポンサーである彼も理解しているのだろう。能力の危険性を理解しているからこそ、大事にしているペットもそうだが、それ以上に大事にしている孫に危害が加わる可能性を考慮すると、どちらに天秤が傾くのかは想像に難くない。


だが、それでも簡単に納得できない心境があるということも乾はわかっているようだった。


「仮に、能力が危険なものでなければ、殺処分の必要は限りなく低くなるでしょう。ですがやはり、能力を有してしまった動物というのは危険です。人間とはその根本が変わってしまう」


「根本が……変わるというのは?」


「簡単な話です。人間は、少なくともここにいる三人全員は、能力を自分の意思でコントロールできるように訓練しました。ですが、動物はそうもいきません。本能のままに動く動物は、訓練というものを必要とせず、また、どのような危険な行為にでも出てしまう可能性があります」


「危険な行為。それは、人を傷つける、という意味かな?」


「それだけではありません。人間にある倫理観や道徳、無意識に存在するブレーキが存在しないというべきでしょうか。人間が常識的に有している物が動物にはないということです」


人間なら備えている物が動物にはない。それは当然だ。人間は社会を作り教育を何百年何千年と続けてきたからこそ今のような暮らしをしている。


動物が本能に刻み付け、その行動を遺伝子の中に組み込むように、人間はそれを社会の基盤の中に組み込んだ。


教育を通じてそういったものを理解し、それらを無意識のうちにブレーキとして内包することができている。


だが動物はそれができない。


同じ動物同士に加減をする、あるいはじゃれるということで相手を傷つけないようにすることはできるのだろう。


だが違う動物、それこそ大型の動物と小型の動物が遊び感覚でじゃれていて、大型の動物が小型の動物を大きく傷つけてしまうことがあるのと同じように、力の感覚が違いすぎることも多々ある。


それは、何度も何度も教えなければ身につかない力の加減だ。自分の肉体であるのなら、そのコントロールは時間をかければすることはできたのだろう。だがそれが能力となればそうはいかない。


人間のような知性のある生き物でさえ、能力をコントロールするのには時間を要する。一朝一夕で完璧にこなすことなどできない。


動物レベルであれば、おそらく加減のない全力での発動が精々のはずだ。


どの程度の出力、どのような効果なのかはさておき、能力が全力で発動されてそれが人間の社会の中でどれほどの危険を及ぼすのかは計り知れないものがある。


「ご理解ください。能力が確認出来たら、その動物は我々の管理下に入ります。この家に戻ってくることは二度とありません」


それはお願いではなかった。これは通告だ。組織の力を使うということに対する、その対価、いや前提条件というべきなのだろう。


どのように金を積もうと、どれほど貢献しようと、そこを変えることはできない。それが組織の存在意義であり、絶対の理念だった。


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