表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
アロットロールゲイン  作者: 池金啓太
番外編『世界の垣根を超え崩す』

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

1664/1751

1664

「あ、雄太。ようやく見つけた」


「美鈴、どうした?わざわざ訓練所まで来て」


 雄太が猛たちと訓練をしていると、そこに一人の少女がやってくる。長い髪に穏やかそうな表情。やや低い身長のその少女は所謂雄太の幼馴染でもある桃瀬美鈴だった。


 彼女は戦闘用の能力を保持していないこともあり、大太刀部隊の訓練に参加することは非常に少ない。


「ん……今日ラビット隊として活動してたでしょ?師匠どこにいるかなって思って」


「知与さんか?ラビット隊の部屋にいると思うけど?俺らは訓練の為にこっち来たけど、古参グループは部屋でのんびりしてると思う」


「二分の一外しちゃったか……動く相手だとどうしても精度が落ちるなぁ……」


 彼女の能力は予知。ありとあらゆる五感で未来の情報を知ることができる。その能力と昔雄太と同じくラビット隊に助け出されたということもあり、ラビット隊の索敵手である知与に弟子入りした。


 葛城校長直伝の刃物捌きこそ習得はできなかったものの、知与の得意とする射撃技術を習得し、知与と同レベルの狙撃を行うことができるようになっている。


 予知の能力を使っての観測射撃もなしに直撃させるその技量は知与に勝るとも劣らない。


 ただ彼女は今予知能力を駆使してクエスト隊に所属し日々予知を行っているため、現場に出ることなどはほとんどない。どちらかというと問題が起きる前の現地に向かって状況を確認するのが彼女の仕事だ。


 その為あちこち飛び回っている。ツクモに関東で起きる事件や事故を集約してもらい、その情報を予知して現地に向かい能力者による事件なのかどうかを確認するために行動をすることになる。


 ツクモが集める情報そのものを未来予知して現地に向かう。これはかなりの荒業ではあるが、この的中率が案外高い。今回ラビット隊が出撃した首都高における例の特殊個体を確認したのも彼女だ。


 それ故に出撃することはわかっていたが、その後の人の動きにはブレがあるらしい。


「動く相手で外すって予知としては致命的じゃないのか?そんなんで大丈夫かよ」


「読みにくい人が何人かいるのよ。なんていうのかな……ポンポン考えを変える人っていうか……その場その場で状況判断して動いてる人というか……あと、予知を知ってる人の未来は当たりにくいみたい」


 未来予知の弱点は、予知した未来が確定したものではないという点だ。直近の未来であればほぼ百パーセントに近い精度を誇るが、未来が遠くなればなるほどその予知の的中率は下がっていく。


 これは未来というものが多くの人の考え方、行動や事象によって構成されているものであるために、未来を予知した地点から特定の人物が行動を変えればその予知は違うものになってしまう。


 予知そのものを知っている人間、特に美鈴の近しい人物は彼女の能力を知っているためか、非常に読みにくい。


 未来というのは、その未来の情報を知るだけでも変わってしまう。その為に確定した未来を出したいときは予知の能力などとは関係のない、そんなものが介在する余地のない部分で調査するほかないのだ。


 今回の場合、知与の居場所というのはいくつか候補があった。彼女は予知の能力でそれを二択にまで絞り込んだ。ただ、最後の二択でどちらになるか、彼女は運に任せたのだ。


 というのも、これも一つの訓練なのだ。


「ツクモに聞けば一発でわかることをなんでわざわざ予知したんだ?」


「それも訓練なの。日本にはあんまり予知能力者いないけど……海外の人はこうやって日常的に遠い未来を予知して精度を高めるんだって。近い未来は見ようとすればすぐに答えが分かっちゃうから、訓練にならないし」


 予知能力の訓練というのは、あえて不確定要素の多い遠い未来を予知するものが多い。未熟な能力者であれば近い未来の予知を行って、予知の正確性を上げていき、徐々に遠い未来を確認していくという形へレベルを上げていくのだ。


 美鈴もこの十年で能力を鍛え上げ、もはや遠い未来を確定させられるレベルに至りつつある。

 それでもまだ遠すぎる未来は不確定情報が多すぎるためか、未だ不安定なところはあるようだった。


 未来の情報を得るなどということは、幼馴染である雄太としても正直どのようなものかよくわかっていないのが実際のところだ。


 ただ彼女はその能力で組織に多大な貢献をしている。


 彼女のおかげで組織の初動がかなり手際よくなっているのだ。もちろん予知だって完璧ではない。それでも大きな事件のほとんどを彼女は予知してしまうのだ。


 予知に対して半信半疑なものも当初は多かったが、それらはすべて実績という形で現れることで黙らせた。


 結果がすべてなどというと少々荒っぽい言い方になるが、美鈴がクエスト隊に入って本格的に活動するようになってからは組織としての体制と対応力に変化があったことは間違いない。


 その為、組織では予知能力を持っている能力者を探し厚遇しているくらいだ。すでに海外の姉妹組織でも予知能力を使った情報網の構築が始まっていて、形になっている国もある。


 日本はむしろ遅れてしまっている部類なのだろう。


 予知の能力を保持している者は珍しいが故に部隊単位で運用できるのはよほど人口が多い国か、あるいは運のいい国だけだ。そういう意味では日本はまだまだ部隊単位での運用は時間がかかるだろう。


「でもなんで知与さん探してんだ?」


「狙撃の次の訓練お願いできないかなって思って。さすがに今日はちょっと現場後だからないと思うけど、少し時間ができたらって」


「狙撃かぁ……別にお前後方部隊なんだし、わざわざ教わらなくたっていいんじゃないのか?クエスト隊が現場に出るなんてよほどのことがない限りないだろ?」


「ないと思うけど、技術は持ってて損はないでしょ?何があるかわからないし……私の能力は現場で見たほうがよくわかるから、そのほうが精度高いし……それに……」


 フシグロやツクモの作り出した情報網のおかげで現地に行かなくとも一定の成果を得られるようにはなった。


 だが美鈴の能力はあくまで五感で未来の情報を感じ取るというものだ。現地に行けば非常に多くの情報を得ることができることは間違いない。


 何より、ずっと部屋で引きこもっているよりも美鈴は外に出たかった。


「それに……なんだ?」


「……お兄ちゃんとかに言うと、怒られるから黙っててね。私も、何かしたいって思うの。なにか、できることとか、そういうの……」


 誰かの助けになりたい。そんな感情を美鈴が抱いてしまうのも仕方のない話だろう。


 彼女たちを助けた、兄と慕う人物は常に誰かを助け続けた。彼女たちもそんな助けられてきた人々のうちの一人だ。


 そんな兄の背中を見て育った。そんな兄の存在を常に意識して訓練した。


 同じく助けられた者たちの中で、美鈴だけが現場に出なくてもよいような、そんな立場になったことで、彼女としても思うところがあったのだろう。


「でもお前が予知してるからすごく助かってるんだろ?それはお前のできることをちゃんとやってるってことじゃんか。俺みたいに失敗したり追いつけなかったりするよりずっとすごい事だろ?」


 雄太は自分自身がまだ未熟であるということを自覚している。いつまでたっても兄と慕う隊長に追い付けず、その動きに振り回されてばかり。


 それと比べれば、既にいくつもの実績を上げている美鈴は十分すぎる成果を得ている先達のようにも見えてしまうのだ。


「それはそうだし、それをやめるつもりもないけど……でもやっぱり現地で、実際に助けを求めてる人のところに行って、助けてあげることができるなら……そのほうがいいんじゃないかって……」


 現場の情報を見れば見るほど、凄惨な状況を見てきた。


 誰かが傷つけられ、虐げられる。そんな現場をこの十年で何度も見てきたのだ。


 幸いにして、それらは未然に防がれたりそこまで大きな被害にならなかったものが多い。それらは美鈴の能力による恩恵でもあり、現場へ即座に向かって対応してくれた能力者部隊のおかげでもある。


 だがそれでも、多くの現場で彼女は見てきたのだ。その光景を、その行動を、その犯罪の数々を、被害者の人々を。


 それは時に悪意を持って、あるいは無邪気に、果ては何も思わずに行われるものが多かった。美鈴はそれらの光景に、圧倒的に遠く、だが最も多くそれを目にしてきた張本人だ。


 現実では起きていない、未然に防ぐことができたそれらさえも見てきた彼女にとっては、その光景が強く脳裏にこびり付いていた。


 だからこそ、何かできないか、なにか、なにかを。自分にもできることを。

 そんな風に願ったからこそ、彼女は知与に弟子入りしたのだ。


「そりゃアホな考えだな」


 その会話に割って入ったのは雄太が訓練をしていた猛だった。



 その表情は呆れと、ほんのわずかな怒りすら覚えているようである。ただ、さすがに子供に感情をぶつけるようなことはなくどのように諭すべきなのかを考えているようでもあった。


「アホって……できることを増やそうとするのはいい事じゃないんですか?」


「悪いとは言わない。実際そういう技術を見につけることは選択の幅を広げる。だから言ったろ。あほな考えだって」


 できることを増やせばその分行動の幅が広がる。自分の可能性を広げる行為でもあるし、その行動自体を猛は否定しなかった。


 むしろその努力自体は認めている。現に美鈴は高い狙撃力を得て、現場に出たとしても貢献することができるだけの技量を保有しているのだ。


「お前が言ってるのは大将と同じだ。できる能力もない癖にそれを何とかしようとして前に出ようとする。そんで周りに迷惑をかけるんだ。お前がお嬢みたいに技術を得るだけだったら何も問題ない。けど、お前が誰かを助けたいって思うなら、それはやめておけ」


「誰かを助けたいって思うことは、悪い事ですか?」


「場合によってはな。そいつに助けるだけの力と技術と経験と知識があれば問題ない。けどな、下手なやつがそれをやろうとして、救助者が要救助者になるってこともあるんだ。お前の場合、そんな感じになりそうな気配がするよ」


「私はそんな……それに、師匠だって索敵系だけど現場に出てるじゃないですか!私と師匠で何が違うんです!?」


「助けたいと思ってる相手の違いだ。お前、お嬢が誰彼構わず助けるような性格だと思ってるのか?」


 知与の性格。彼女自身があまり自己主張をしないタイプであるために誤解されがちではあるが、彼女は決して優しいだけの存在ではない。


 身近で、そして現場でそれを見てきた猛には分る。だが現場での知与をあまり見ていない美鈴にはそれが理解できないのだろう。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[一言] 知与ってラビット隊初期メンバーの中ではかなり早い段階から実弾の使用許可求めてましたよね・・・ 感情より必要性で判断するって意味で。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ