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アロットロールゲイン  作者: 池金啓太
番外編『世界の垣根を超え崩す』

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 ラビット隊が拠点に戻ると、何人もの能力者が忙しなく動いていた。特に工房付近では装備関係を回収した製作班がその修復と更なる改良をするために動き回っている。


 そんな中、装備の修復と特殊個体の死体を確認していた製作班のトップであるドクがラビット隊の下にやってくる。


「お疲れ様。特殊個体とは、またレアな案件を引いたね」


「密猟者と、密輸入。この両方がどこかしらで動いてる可能性がありましたからね。今フシグロに洗ってもらってます」


「彼女なら痕跡はすぐに見つけるだろうね。それより、拠点についたんだから、装備外したら?」


 ドクの言葉に、ラビット隊隊長は装備を外すことを忘れていたのだろう、ヘルメットを外す。

 そこには、僅かに蒼みがかった黒く長い髪を携えた少年がいる。


 小柄な体躯で、ラビット隊の中では一、二を争うと言っていいほどの身長が低いその人物は、昔から外見が変わっていない。一見すれば中学生のようにも見えてしまう、少年だった。


 百枝周介。ラビット01。この組織内で名前は知らずとも、そのコールサインを知らないものはいないほどの有名人だ。


 組織内外において、恐らく日本中で最も知名度の高い能力者だろう。世界規模にしてもおそらくは世界屈指。それほどの知名度のある能力者である。


「みんなも、装備預けてくれるかい?微調整があったらそれぞれの担当に言ってね。特に巴君。君の装備はまだ試験段階だ。いくら君が変貌型でも、細かいところ微調整していかなきゃいけないからね」


「はい。わかりました」


 巴と呼ばれたラビット05が装備のヘルメットを外す。そこにいたのはまだ幼さが残る少年。


 ラビット05、巴雄太。かつて周介に助けられた能力者の一人。


 成長し、猛に鍛えられた彼は今、ラビット隊の五番手として活躍する能力者に成長していた。


「ドク、その死体の運搬はキャット隊に頼んだんですが、俺たちが出張る必要はありますか?」


「いいや、大丈夫だよ。伊納君の能力があれば十分に運搬ができるし、一応別に護衛を手配する予定だ。それよりも、僕としては君のθの使い方に物申したいよ。あんなふうに目標を押さえるように使うために作ったんじゃないんだよ?」


「いいじゃないですか。物は使いようです。壊れないように使ったでしょう?」


「そう言う問題じゃ……っていうかやっぱり君狙ってやってたね?仕様にない使い方をするのはいつも通りとして……もう少し気を遣ってほしいよ」


「気を遣ってたら実戦じゃ使えませんよ。あれだって最近はほとんど眠ってたでしょう?たまには使ってやらないと錆び付きます」


「錆びる?何言ってるんだい。僕らがそんな雑なメンテナンスをするとでも?常に最良の状態にしてお届けするさ。まぁ確かに最近θの出番はなかったけどね。都市部じゃあれはなかなか使えないと思ってたから」


「足場が不安定な場所ならあれは結構使えます。かなり周りを意識しないとですが……Λの開発はどうなんです?」


「順調だよ。この調子なら今月か、来月にはお披露目できるかな。ラビットシリーズも十一機目だから、もうやる気がみなぎるよね。君が頼んでた機構は組み込んであるけど……あれ本気で使う気なのかい?」


「ロボットって言ったらそう言うのをやって見なきゃ。試験的に組み込んだκではうまくいったじゃないですか。本採用機体で試してみたいでしょ?」


「まぁね!こういうのは燃えなきゃ嘘だよ。でも、より荒っぽい使い方をされると厳しいよ?そのあたりはどうするんだい?」


「俺の方で対応します。元々そのつもりでしたから」


 周介とドクの関係はこの十年でも変わっていない。ドクが装備を作り、周介がそれを荒っぽく使う。


 その度に装備が壊れたりするので、その度に製作班が涙ながらにそれらを修復するというのが一連の流れだった。


 もはや様式美としても組織内で認識されているために誰もそれを咎めることもしないし、製作班の面々も諦めている節がある。


 ラビットシリーズ。周介が扱う巨大な機械兵器は世界的にも有名になっていた。


 練習機のαから始まり現在制作中のΛまで含めると十一機のラビットシリーズが拠点内には存在している。


 世界的にも有名になっているラビットシリーズは、組織の中だけではなく外にもファンが山ほどいて、プラモデルなどにもなっている始末だ。


 それが更に製作班の制作意欲を加速させているのがまた始末に負えないところである。


 次々と自分たちができそうなものは取り込んで新しい機構を組み込んでいく。その為この十年でその数は増え、必然それを見ようとする野次馬も増えた。


 他の国でも、一般人の企業や技術者の手によって対能力者用の兵器などが開発されもした。中にはラビットシリーズを真似たと思われる巨大兵器なども存在した。


 だがそれはただの張りぼてに過ぎなかった。大きくした分重量が増し、まともに動かすこともできないただの鉄の塊か、既存の兵器に劣るものしかでき上らなかった。


 ラビットシリーズのみが、超重量と機動力を両立した最強の機械兵器だと、世界中のものが語る。


 もちろんその中に能力者はいない。日本を含め各国の姉妹組織はあれを動かしているのが能力によるものだと理解しているからこそ、それに対して深く話を掘り下げるようなこともしなければ言及もしない。


 あくまであれはマスコット。一般人向けの客寄せパンダに過ぎない。それがわかっているからこそあまり深堀されないのだ。


「それより、アメリカの件。どうなんです?あの後情報見ましたけど、あれは明らかに陽動でしょう?」


「君もそう思うかい?式典に合わせて一般人を襲うことを目的にした襲撃。その後別動隊が本命を急襲。絵にかいたような典型的な囮だと思う。上層部も同意見だよ」


 周介は拠点に戻る前に、アメリカで起きたことのおよそをフシグロに調べてもらっていた。


 そしてその時にほぼ同時に起きた研究機関への襲撃。この二つが関係ないと思えるほど、組織は悠長ではない。


「何処から研究施設の情報が漏れたんです?少なくとも、今回は組織が管理してる場所だったはずです。それが襲撃されたってことは……明らかにどこかしらから情報が漏れてるってことでしょう?」


「その可能性は捨てきれないね。この十年で、新しい能力者も増えた。日本はかなり厳格な審査基準をしてるから、拠点内に入れる能力者は限られるけど、他の姉妹組織は……そのあたりどうなのかは微妙だからね」


 能力者が公表されてから十年が経過し、問題も増えた。世界中の姉妹組織は公表後に現れた能力者の中から選抜して何割かを組織のメンバーとして迎え入れている。


 その際に、何かしらを企んでいる、別組織、ないし集団の能力者がスパイとして潜り込んでいても不思議はない。


「審査基準を設けてるって言っても、日本にだって抜けはあるんじゃ……」


「そりゃあるだろうね。ただし、組織に入る人間の背後要員関係を全部洗ってるから。うちには知りたがりの困ったちゃんがいるからね」


 それを聞いて周介は即座に納得してしまう。


 フシグロのことだ。彼女はとにかくどのようなものでも知りたがる。死亡した後、この十年でスパコンもさらに増量し、もはや止まらない勢いで情報収集をし続けている。


 その中には当然新しく能力者になった面々も含まれる。


 この十年で日本の中で新しく能力者になった人間は多い。だが世界中の姉妹組織に比べれば少ないだろう。


 その理由は、組織をある種の階層で分けたことに起因している。


「大太刀小太刀以外に、鞘部隊を作ったのは、新しく入ってくる連中の情報収集のための場所でもあるってわけですね……新しい部隊にはそういう役割もあったわけだ」


「まぁ、実際のところ、新しい能力者を訓練指導するための場所が必要だってのはその通りだからね。そういう意味でも必要不可欠だったよ。鞘部隊は表の拠点にしか出入りできないから、情報も限定されるし」


 鞘部隊。


 それはこの十年の間に設立された新しい部隊でもある。


 行っているのは主に新しい能力者への指導と訓練。そして本格的に組織に入るかどうかの選択などである。


 この鞘部隊は能力者になった時点で半強制的に入隊こそさせられるものの、仕事などを強制されることはない。唯一強制されることは、能力を最低限コントロールできるようにするための訓練だけだ。


 それをクリアしてしまえば、後は組織の活動に参加するかしないかは自由に選ぶことができる。


 もし組織の活動に参加したいものは、能力を行使しての組織内における仕事を割り当てられることになる。


 緊急的な対応を求められるような現場での活動などは、鞘部隊の中でも一部しか割り当てられないが、それ以外、特に企業からの依頼や組織内でこなさなければいけない調査依頼などを請け負うことになる。


 その中で大太刀、小太刀、どちらに適しているのかなどの素養を見られていくことになる。


 ここまでは一般的に知らされている部分だ。


 だが鞘部隊の目的は他にもある。それが先に言った、新しく入る能力者の背後関係の確認だ。


 これは一般人には知られていない内容も含まれる。伝えたらそれこそ問題になるようなものもあるためだ。


「鞘部隊から小太刀大太刀への昇進って……確か合宿みたいな試験やってましたよね?あれが最終審査ってことですか」


「そう言うこと。書類上、及び鞘部隊の中での活躍で見込み有りの人間が最終審査に進める。そしてあの合宿の中で、ファラリス隊とかの審査があるわけさ」


 その合宿は、表向きは耐ストレス及び現場への適正確認試験として割り当てられているものだ。


 閉鎖空間での一週間程度の泊まり込みの試験。それを行いながら能力による訓練と課題をこなしていくことになる。


 その結果によって大太刀、小太刀への昇進転属が可能になる。ここで合格すれば正式に能力者組織の一員として活動することができるようになるということである。


 この際、当然睡眠などもとるわけだが、その際にファラリス隊の審査が入る。


 かつて周介も受けたらしい、強制的な自白状態を作り出してからの情報収集。抵抗のしようがない状態を作り出しての情報収集だ。ここで邪なことを考えている者は大抵弾かれる。


 もっとも、そもそもそんなことを考えている人間はこの合宿試験にすらたどり着くことはできないのだが。


 そして新しく小太刀大太刀に入ることができたメンバーのみ、この異空間に作り出された拠点に入ることができるようになる。もちろん表での緊急性の高い仕事にも出ることができるようになる。


 鞘部隊は所謂仮入隊状態。それを越えられなければ正式入隊ができないとなると、逆に言えば入隊人数はかなり少ないと言えなくもなかった。


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