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アロットロールゲイン  作者: 池金啓太
最終話「其の獣が宿すものは」

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「アイヴィー隊、ラビット隊。今回は本当によくやった。全員無事に帰還できたようで何よりだ」


 日本に戻り、拠点に戻ったところで周介達は小太刀部隊大隊長柏木のところに報告に来ていた。


 大太刀部隊の面々はここにはいない。いるのはあくまで小太刀部隊の面々だけだ。大太刀部隊のBB隊とミーティア隊はそれぞれ勝木大隊長の下に向かっていることだろう。


「今回のことで、今まで続いていたスカァキ・ラーリス、インクバォ、ドットノッカーなどを発端とした一連の事件は、ほぼ解決したとみていいだろう。件の転移能力者……『ガッツシフター』を逃がしたのだけが痛手ではあるが……まぁ、許容範囲内だ。本当によくやってくれた」


 柏木大隊長の言葉には重みがあり、それだけの事態を自分たちが解決したのだという実感がようやくわいてくる。


 海外にまで行った甲斐もあったというものだと、周介達は安堵していた。


「ロシア政府、並びに姉妹組織からも感謝の言葉が届いている。特にマーカー部隊であるラビット隊を派遣したということに強く感謝された。病み上がりだというのに無理を言って、悪かったな」


「気にしないでください。海外に行くとなると、俺の能力は必須でしょうから。ただ、やっぱり体力が落ちてました。万全な状態に戻るには、まだもう少し時間がかかりそうです」


 今回行動して、危惧していたような不調こそなかったものの、体力の衰えは強く感じていた。


 単純に動いていなかった期間が長いせいで体が衰えてしまったのだろう。


 文字通り病み上がりの状態だったにもかかわらず出撃したのだ。その辺りは無理のない話だと柏木大隊長も納得していた。


「ロシア側の対応として、今後も核兵器を保有している軍事施設に関しては警備を強化するとのことだ。今回は急な対応で人員の輸送が追い付かなかったが、時間をかけてでも現地に部隊を配置すると。ロシア以外の国も同様だな。アメリカはもうすでに動き出してる」


 問題が起きてから動いたのでは遅いと思わずにはいられないが、それでも今回のことは他国としても重く受け止めてくれているということだろう。


 軍隊の装備の機械化が進んでいる先進国であればあるほど、今回のことで大きな打撃を受けた。


 そのため動き出しが遅くなったことに関してはとやかく言うことはできない。ただ、今後どのように対応するのかは課題として残るだろう。


 今回のようなことが次また起きないとも限らないのだ。


「レッドネームおよびブラックネームの何人かを今回捕まえ、あるいは殺害することに成功した。今回のことで、日本の能力者のレベルの高さを各国に示すことができたのは間違いない。今後、海外への派遣任務が増える可能性もある。ラビット隊およびアイヴィー隊の両部隊には、今後も出撃してもらうかもしれない。留意しておいてくれ」


「了解しました」


「同じく了解しました。ただ、名前だけを求めての出撃は遠慮したいです。ちゃんと現場で活躍できる……適切な運用をお願いします」


「わかっている。特にアイヴィー隊に関しては運用が難しい、というか性能そのものが特殊だからな。その辺りは心得ておく。逆にラビット隊はある程度どんな現場でも行動できる。そういう意味では引っ張りだこになるかもしれない」


「海外へは移動が大変なんで勘弁してほしいところですね……特に俺の場合、身分証とかの関係が面倒でしょう?」


 周介は表向き死んだことにする予定だ。そうするとパスポートなどの身分証明関係が面倒なことになる。


 海外での活動が増えることは喜ぶべきか、それとも厄介ごとが増えると思うべきか微妙なところだた。


「お前の身分証に関しては問題ない。詳しくは後程話すが、別の身分を一つ作る予定だ。その辺りは調整させてくれ」


 身分を一つ作るなどと簡単に言っているがそんなことできるのだろうかと周介たちは疑問符を浮かべてしまう。


「問題なのは身分よりも、日本のマーカー部隊の一つを今後他所の姉妹組織に貸し出さなければならなくなるということだ。こちらとしても断りたい内容ではあるが、さすがにすべてを断ることはできない。そうなると穴を埋める必要が出てくる」


「俺がいない間のマーカー部隊の穴はどうしていたんですか?鬼怒川先輩が頑張ってたみたいな話は聞きましたが」


「聞いた通りだ。オーガ隊がラビット隊の代替として活動していた。後で活動記録を見てみろ。素晴らしい手際……とは言えないが、お前たちの真似をしてうまく立ち回っていたぞ」


 常に現場を駆け回っていた周介達ラビット隊とは比べるべくもないが、それでもオーガ隊は戦闘に長けたチームだ。


 多少の現場経験の不足はその圧倒的なまでの戦闘能力でいかようにもフォローできてしまうらしい。


 今まで現場に出ていた周介としては、簡単に適応されてしまうのは少し複雑な気分ではあったが、自分たち以外に現場で指揮ができる人間が増えるというのは素直に喜ぶべきことだった。


「今後ラビット隊が抜けることが多くなることを考慮して、現場指揮ができる部隊を増やす予定だ。アイヴィー隊もその一つとして候補に挙がっている。その点は覚えておくように」


 ラビット隊とトータス隊、主にその二つの部隊が関東拠点におけるマーカー部隊の役割を担っているが、今回のことで現場指揮官がもっといたほうがいいということは決定的になった。


 今後現場で指揮を執ることを前提にした訓練も行われることだろう。新しくできた制度に対して、いろいろと問題が出てくるのはよくある事だ。


 アイヴィー隊ならば適任であると、周介も納得できている。問題は小堤を始め、アイヴィー隊の面々はあまりやりたそうにしていないという点だが。


「あぁそれと、しばらくの間、ラビット隊の行動を制限する。それも覚えておけ」


 大隊長の言葉に周介達ラビット隊は少しだけ驚いていた。ドクが言っていたことと少し違っていたのもある。


 もしかしたら周介の体のことも関係しているのだろうかと、そんな事を考えてしまっていた。


「制限?どういうことです?」


「単純な話だ。マーカー部隊としての活動よりも優先するべき仕事を割り当てる。具体的には社会的な復興を行うための活動を優先する」


「……具体的には?」


「物資の運搬。そういう意味ではお前たちの天職と言えるだろうな。伊納の能力を駆使して、また伊納の能力では格納、運搬不可能なものを各地に届けてもらう」


 確かに、もともとラビット隊は輸送に適した部隊だ。そういう意味では天職という表現も決して間違っていない。


「じゃあ、マーカー部隊としての活動を制限する代わりに、裏方の仕事を多く行えということですか?」


「裏方という表現が正しいかはわからないがな。一般人向けの仕事であることに変わりはない。どちらかと言えば、問題を起こしている能力者への対応から企業向け、及び政府向けの仕事をするという形になる。戦闘は行わない仕事だ。救助などには出てもらうかもしれないな」


 要するに、マーカー部隊としての活動は続けるが体に負担のかかる戦闘系の仕事だけを制限するという形なのだろう。


 運搬に関してはこの世界中で問題になっている部分でもある。言音がどうにもできないような巨大な物資の運搬をすることを考えれば、確かに周介の能力でもなければ一度に多量の運搬は難しい。


 と言っても、ラビットシリーズでさえも運ぶことのできる言音の能力でも運べないものとなると、周介としては船や飛行機くらいしか想像ができなかった。


「現状、今の世界において経済活動は完璧に止まってしまっている。人も物資も、徒歩以上の機動力を有することができていない。機械の暴走によって、多くの生産設備などが損傷したのが原因だ。燃料の生産すらできていない状態が続いている」


「あぁ……まずはその修復のための人員輸送ですか」


「そうだ。材料などは伊納の能力でも運べるが、人員はそうもいかない。一つ一つ、機械から直していかなければいけないから時間もかかる。その人物にも生活があるから運びっぱなしというわけにもいかない。面倒なものだ」


 確かに物を運ぶのと人を運ぶのとではまた話が変わってくる。


 物はある程度雑に扱っても問題はないが、生きた人間を運ぶとなれば気を付けなければいけない事は多々ある。生ものであるという意識もそうだが、相手に快適性を感じてもらわなければならない。


 一番楽なのはヘリや飛行機による輸送だ。もっと雑な運び方をしてもいいというのであれば、スワロー隊などの念動力による飛行でもよいのだろう。


 ただ相手が一般人であることを考えれば前者の方が心象的にはよいはずだ。

 何もない状態で空中を飛ぶのは一般人には刺激が強すぎる。


「そう言うことであれば問題ありません。いつ頃から始めますか?」


 周介としても運搬に関しては否やはない。元々そちらの方が多くこなしてきているのだ。そういう意味では何の負担にもならない仕事でむしろありがたい位である。


「あー……それに関してだが、まだしばらく時間がかかる」


「え?でも早めにやったほうがいいのでは?」


「物事には順序がある。それに、発電所や変電所等を除いたほとんどの機械が修繕を必要としているんだ。どの場所から直せば一番効率よく復旧できるのか、どういう手順で治していけばいいのか、それも検討しなければならない」


「片っ端から直していくっていうんじゃダメってことですか?それこそドクたち製作班の人の力を借りられれば良いのでは?」


「…………あのバカどもはこの間の戦艦やらを作った関係でノンストップで働き続けていてな……エイド隊からドクターストップがかかった。あいつらは当分休みだ」


「あー……そうですか」


 周介は知らない話だが、製作班の人間はドクの指示によりリミッター解除状態になっていた。


 しかもドクの指示があったということを大義名分にして、エイド隊がダメだといっても製造を続けていたのである。


 中には過労で倒れている者もいるほどだ。もっとも、本人たちは趣味を実行しているようなものであるために喜々として行っているのがまた厄介なところである。


「それに、一般企業の設備を我々能力者が弄るというのもよくない。財産的な問題と税金的な問題でな」


「……なんで直すのに税金云々の話に?」


「……修復するための金額含めて、企業の保有している設備……所謂財産に計上されたりするんだ。細かい話は分からないだろうから置いておく。ともかく、そういう面倒くさい内容を省くために、基本は企業の中で解決してもらう。我々が手伝うのは人員と物資の輸送だけだ」


 周介は税金やらなにやらの話はよく知らないために、そんなものなのかと聞き流した。要するに所有している人間以外が触ると面倒なのだなというところだ。きちんとした契約などを結べばいいのだろうが、今回のように緊急事態となるとそうもいかないだろう。


 その辺りは面倒なところである。


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