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アロットロールゲイン  作者: 池金啓太
最終話「其の獣が宿すものは」

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「酷い有様だな。って、なんだこの血。なんかあったか?」


 周介が飛翔しながらヘリに戻ってくると、ヘリの中に僅かな血が残っているのに気づき辺りを見渡す。


「転移能力者がやってきたのよ。けど04が追い払ったわ」


「マジでか。ナイスだ。さっきの狙撃も助かった。いい仕事するよ本当に」


「いいえ。ようやく当てられてよかったです。それと、前衛の方は無事に終わったようです。現在能力者二名を引きずってこちらへ向かっています」


 自分があの場から離れてからまだそう時間は断っていないはずだが、こんなに早く決着がつくとは思っておらず、周介は舌を巻いていた。


「さすがBB隊、あの人らはやっぱ半端ないな」


 飛行機を落として攻撃するような奴が何を言っているのかと、ミーティア隊の何人かは考えていたが周介はその辺りは気にしていない。


「それなら、後はあの変換と電気と……転移能力とブルームライダーは?」


「ブルームライダーは06が確保済み。転移能力者は当該戦域から一人で離脱しています。すいません、仕留めきれませんでした」


「いや、相手が転移で逃げに徹されたらそうなるのは仕方ない。あいつだけが行動しても目的は果たせないだろ」


 転移能力者。しかもかなりの負傷をしているような状態では満足に行動することはできないはず。


 仲間がいるならまだしも、残った仲間もすべてこの戦域に取り残しているのであれば、もはやあの転移能力者では何もできない。


 できたとしても、もはや資金も援助も得られないはずだ。逃してしまったとしても、今後タイミングを見て捕まえればいいだけの話である。


「残りは……あの二人か」


「はい。残してくれた機体の二つが押さえ込んでくれているおかげで、かなり戦線を楽に維持できました」


「ただもうかなりボロボロだな。俺が近くに行って戦闘補助する。ミーティア隊はそっちに火力を集中してください。俺らで隙を作ります」


「わかった。アイヴィー隊も移動を始めてるらしい。前衛は任せる。残り全員捕まえるぞ」


「了解です。02、04、引き続き援護頼んだ」


 周介は言うことだけ言ってヘリから飛び降りる。


「こちらラビット01、これより変換と電気の能力者の方に向かう。アイヴィー隊、援護頼みます」


『了解。すでに移動を始めている。そっちの前衛は?』


『ブルームライダーの捕縛は完了してる!そっちに行くか?』


「いいや、あの転移能力者が戦線離脱したからと言って戻ってこないとも限らない。お前はブルームライダーを確保することに専念しろ。残り二人はこっちで対処できる。03、いるか!?」


「うっす、兄貴。いつでも行けますよ」


 周介が空中で移動を始めたあたりで、既に玄徳は周介のフォローをするために動き出していたのだろう。いつの間にか周介のやや後ろのところに位置して移動していた。


 本当にこういう時に頼りになる男だと、周介は笑いながら空を飛ぶ。


「βとγを前衛に、あの二人の能力者を切り崩す。防御の隙を作ってアイヴィー隊の捕縛とミーティア隊の狙撃を通りやすくするぞ!」


「了解っす!」


 もはやそれ以上細かい説明は必要なかった。援護しろだとか、どのように動けだとか、そういう言葉もいらない。


 玄徳は周介について行く。もはやそれは確定事項であり、当たり前のことなのだ。


 周介と玄徳が飛翔していくと、敵の状況がようやくその目に入ってくる。


 巨大な二体の鉄の巨人、ラビットβとラビットγ。二機の機体を前に変換能力によって生み出されたであろう巨大な触手とその先端の棘。さらにはそれらを用いて作り出された檻にも似た防壁。それを延々と押し出すことで、いくら砕けれようとも自分たちの身だけは守ろうとしているのだ。


「連中が地面に潜らなかったのはありがたいですね。地面に潜られたら追うことが難しくなるところでした」


「あぁ、だからβとγの装備に、あれをつけてもらったんだよ」


 周介の視線の先にあるのは二機の腕に取り付けられた装備の一つだった。


 それは巨大な掘削機だ。言い方を変えればドリルである。高速回転するドリルを叩きつけることで、檻の防壁のいくつもの土塊を破壊し、時に勢い余って地面にも突き刺されその大地に巨大な穴をあけて崩していた。


「変換能力の地中での機動力は決して高くはない。そんなところにドリルを突き刺されたら、ミンチになるのは間違いない。それがわかってるからこそ、相手も簡単に潜れないんだろう」


 周介がラビットシリーズの出撃を決め、なおかつ相手の中に変換能力者がいるとわかった時点でドクに頼んでいたのが以前に使用したこともあるドリルだった。


 以前戦ったことがあるゴーレム相手でも問題なく作用していた武装であったために、周介はそれらを今回持ち込んだのである。


 以前ゴーレム相手に地中に逃げられたという経験もあって、簡単には地中に逃がさないだけの準備はしっかりとしてきた。


 追加兵装も合わせれば、問題なく相手を封殺できるようにと。


 ラビットβとγ。どちらも周介が何度も動かしてきた機体だ。動かし方は当然よくわかっている。


 だが、どうにも動きが鈍い。いや、阻害されているように感じるのは周介の気のせいではなかった。



 どうにも各部の関節の動きが悪い。そしてβとγに妙な力がかかっているように感じられていた。


 二体を同時に操っている周介がその姿を確認して、ようやくその違和感に気付き、二機に何かしらの異常があるのではないかと考えていた。


 いや、正確には異常な状態にさせられているといったほうが正しい。βもγも、ドクをはじめとする整備班が丹精込めて作り上げた自慢の機体だ。


 周介が壊すならまだしも、まだ戦闘で破壊されていない状態にもかかわらず動きが鈍くなるなどということはあり得ない。


 となれば、その可能性は二択。


 相手の能力によって駆動系にダメージを受けている。もう一つが相手の能力によって何か阻害されている。


 装甲の損傷具合からして、前者はない。確かに攻撃によって装甲は損傷はしているが、それでも駆動系にまでダメージが与えられているほどではない。


 何度も何度も駆動系にまでダメージが行くような使い方をしてきた周介は確信していた。何かしらの能力によってあの二機の動きが阻害されているのだと。


 変換能力によって作り出された檻のような防壁の隙間から電撃が放たれる。βとγの機体に電撃が直撃するも、二機の内部には誰も入っていない。機体にダメージを与えることはできるかもしれないがそれ以上のことはできない。


 あの変換能力もそこまでのダメージを与えられているとは思えず、周介は妙に損傷の多い二機の状態に強い違和感を覚えていた。


 瞬間、攻撃を繰り出そうとしたβとγが互いに引き寄せられるように方向転換して激突する。


 互いの攻撃がそれぞれの部位に直撃し、装甲がそれぞれ損傷していた。


「なんだ?妙な感じだな……!」


 周介の操作ではない。あれだけの巨体を、あれだけの質量を、あそこまでの速度で操れるのは相当強力な念動力などでない限りはあり得ない。


 少なくとも古守などの能力でもβなどに損傷を与えることはできても、その機体を浮かせたり、別の方向に移動させるということはできなかったのだ。


 ただ、相手の電撃の能力を見て周介はその細部の動きに悪さに何となく合点がいく。


「フシグロ、機体の状態のチェック。関節部に付着してるものがないか?」


『確認するわ。ちょっと待って……ある。細かい粉みたいな……黒い物体』


「オーケー了解。砂鉄?ってことは磁力か」


 電撃を扱う相手の能力を周介はおおよそ把握していた。


 強力な電撃もそうなのだが、その電撃によって強力な磁力を一時的に発生させているのだろう。


 βとγそれぞれに強力な磁力を発生させ、吸着ないし反発を繰り返し、二機の動きを阻害しているのだ。


 その証拠と言わんばかりに、先ほどまで引き寄せられていた二機が唐突に弾き飛ばされるように吹き飛ぶ。

 吸引と反発。磁力の持つ性質の一つだ。そして地中に存在している砂鉄を機体に纏わりつかせてその駆動部分を阻害しているのだろう。


 そして体勢を崩した二機目掛けて、電撃を纏った岩の塊が飛翔し射出されていく。


 装甲を盾にして防ぐものの、強大な質量同士のぶつかり合いによって大きく損傷していく。磁力を使って、内部に砂鉄を含んでいるであろう岩石や土塊を射出する攻撃も繰り出せるほどに繊細なコントロールができるのかと周介は舌を巻いていた。


 βとγ、この二機がいてこの時点まで二人の能力者相手に攻め落としきれなかった理由がようやくわかる。

 他の戦場に集中しすぎていて細かな状況判断ができなかった。ここまで能力の微細なコントロールと高い出力を扱える相手だったとは思わなかった。


 βとγは基本的には鋼鉄の体を持つ機械だ。電撃はともかく磁力などとはほとほと相性が悪いだろう。


 あれほどの質量の物体を吸引、反発させられるだけの磁力を発生させているとなると相当強力な能力だ。


 βとγが近づけば磁力で阻害し、阻害しきれずとも檻の防壁で阻害する。そして磁力を駆使して距離を取り遠距離攻撃で機体を破壊していく。なんとも単調ではあるが確実に二機の戦力を削ぎ取れるだけの手段だった。


 だが、やりようはある。


「03、合わせてくれ」


「了解っす。いつでもどうぞ」


「05、追加兵装。鞭!」


『了解っす。どうぞ』


 周介の操るラビットシリーズの強みは、多大な質量だけではない。その機体を周介の微細な操作によって自由自在に操ることができる点にあるのだ。


 周介はβの近くにあった木を掴み上げると、それを槍か何かに見立てて投擲する。


 瞬間、玄徳の能力が発動し、投擲された樹木がさらに勢いを増して敵の防壁目掛けて襲い掛かる。


 電撃や磁力と言ったものは確かに強力だ。だがその防御能力ははっきり言ってそこまで高くはない。


 特定の条件が発揮されなければ阻害と言ったことも発揮できず、特に高速で襲い掛かる攻撃に関しては防御したくてもできないという、現象系の能力にはありがちなものとなってしまうのだ。


 現に磁力を使って拘束で投擲された樹木を防御しようと、電撃が放たれたようだったが、磁力による影響を受けるよりも樹木が防壁に直撃する方が早かった。木々などの磁力の危機の悪い物体を選定し、玄徳の加速によってさらに速度を増した樹木の投擲はそう簡単に防げるものではない。

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